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第二章 ゲーム開始前

第63話 努力の源は我欲から

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 さて、サーロイン王国の王都トーミに戻った私たちは、いつもの生活に戻る。家に戻るなり、父親は国王に出す書類の最終チェックを行っている。ミール王国の現状をまとめ上げた報告書と、エスカ王女の留学希望と共に報告予定である。まぁ最近の両国の関係性を思えば、サーロイン王国側から拒否する理由はないだろう。あるとすれば向こうの国王たち次第という事だ。
 私としては同郷のよしみとして一緒の学園に通いたいものである。ただ、エスカは私よりも一つ年下だ。同級生となるのはリブロ王子である。イレギュラーな存在が出てくるけれど、それでストーリーが破綻しないかしらね。いや、もう破綻しかかってるんだけどね。
 さて、こっちに戻ってきた私は早速自分のステータスを確認する。

『アンマリア・ファッティ 女性 10歳 78kg』

 うん、体重が大幅に増えた。そこそこ海の幸を堪能してたとはいえ、運動自体はちゃんとしてたし、太る要素はないんだけど?! これが恩恵を体重として溜め込む弊害か。おそらく干物の開発とエスカの事で溜まったのだろう。ミール王国訪問前と比べて5kgも増えるとかありえなさすぎ。私が椅子から飛び降りるとかすると、床が抜けそうな勢いだ。ゆっくり立ち上がらなければだめね。
 私はステータスを見た上で、姿見を確認してみる。それはもう、まん丸としただるまのようなシルエットが目に飛び込んでくる。とはいえど、魔法のチートのおかげで普通に行動していても簡単には息が上がらないので、私はたまに自分の体格を忘れてしまう。だって、痩せてるのと同じような感覚で行動できるんですもの。それこそ立ったまま地面に手を伸ばそうとするとかちょっと特異な状況でもない限り、自分の体格を錯覚しそうになってしまう。
 さて、魔石ペンを作ろうとした私だったけれど、ここで問題が発生してしまった。
「あっ、魔石と素材が底をつきかけてる……」
 2年前のスタンピードで手に入れた魔物の魔石やケルピーの骨といった素材がもう残り少なくなっていたのだ。よく2年間ももったものだ。
 仕方ないので、私はこっそりと外へ出る事にした。
 実はこの2年間で私は前世での夢をいくつか叶えていた。魔力がそもそも反則級に多いし、前世の知識があるのでイメージもしやすかった事もある。
 まずは無限収納。これはチートものならほぼ必須といった能力だ。生きているもの以外なら何でもしまえる魔法の空間である。
 それから、飛翔魔法。空を飛ぶっていうのは憧れるわよね。でも、私の場合は体型の事もあってまるでピンクの豚のようだわ。
 飛翔魔法とは別にこっそり移動したい時用の転移魔法。これも覚えた。これは行った事のある場所ならどこでも飛べる。行った事なくても、場所がイメージできれば飛べる。テレポート、マジ有能。
 あとは、解体魔法かな。魔物を部位ごとに瞬間的に分けてしまう魔法。使えない部位はその瞬間に焼いてしまうというおまけ設定つき。さすがチート、便利すぎでしょうに。伯爵令嬢だから土にまみれても血にはまみれたくないわ。これでますますゲームじみてきちゃったわね……。
 とにかく、エスカの意欲を聞いて、私も負けたくないと思ってしまったのが今回の原動力だ。私は早速転移でクッケン湖へと飛んだ。程よい魔物の生息地なので、素材集めにはもってこいなのだ。
 さすがに感知や探索といった魔法やスキルは生み出せなかったものの、空から見ていれば意外と早く魔物を見つけ出せた。狩り過ぎないように気を付けながら、適当に倒していく私。ああ、無双ってこんなに気持ちいものなのね。俺ツエエの気持ちが分かった気がする。
 とはいえ、やり過ぎないのが私。50くらい魔石を手に入れたところで、私は慌てて屋敷へと戻った。スーラに頼んでいるとはいえ、それには限界があるだろうものね。特に食事にも不在となれば父親に不審がられるし、モモには心配されちゃうもの。
 食事を終えた私は、食事をヒントに次の魔道具を思いついた。これに思い至った理由は、ミール王国に行った事も関係していた。
(煙の出ない調理器具は必要よね)
 そう、魔石を使ってIH調理器みたいなものが作れないかと考えたのだ。これがあれば火種がなくても魔力さえあれば調理ができるようになるし、きっといろいろ便利になると私は考えた。
 問題はそのイメージだった。魔石に魔法を覚え込ませるのだが、これが意外とうまくいかない。魔石の質もあるのだろうけれど、熱だけを発生させる事が、今の段階では難しかったのだ。対応する魔法がなかったのである。
 魔法を開発するとなれば、他の魔法でも経験した事だが、思った以上に時間と労力が掛かってしまう。だけども、私は諦めなかった。一度やりたいと思ったらそれを完遂しないと気がすまない性質なのだから。
「できたわっ! 物を温めるこの魔道具は、魔石ヒーターと名付けましょう!」
 3日3晩を掛けて、私はついに思い描いた魔道具を完成させたのだ。それを持って私は、早速意気揚々と厨房へと向かっていった。
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