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第二章 ゲーム開始前
第61話 転生者女子会
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エスカとアーサリーの泊まる宿屋、それは私たちの泊まる宿から食堂一軒を挟んだ隣だった。
本来、ミール王国の王族あれば王族専用の宿があるのだが、今回は王子たちだけがお忍びでやって来たらしく、分からないようにお金持ち用の宿を取ったようなのである。
その宿の一室で、私とエスカは向かい合って座っていた。お互いの侍女は、話の内容がゆえに部屋を出てもらって同席していない。とりあえず簡単なお菓子と飲み物を用意してもらって、話を始める。
「驚きましたわ。まさかヒロインが転生者だなんて」
「それはこっちのセリフですわよ。まさか隣国のお姫様が転生者だなんて、思いもしないですわ」
エスカはお姫様にそぐわない両肘をテーブルにつくという格好で不満そうに言っている。私の方は普通に座っているけれどね。
「最初はミール王国とか聞いて、『それどこ?』ってなったわね」
「あー、それは分かりますわね。ミール王国なんて、テキストでも数回しか出てこない国ですもの。公式からのアナウンスも何もないですから、ゲーム世界だとは気付きませんわね」
「えっ、本編中に言及されてたの?」
私の言葉に、エスカはとても驚いている。あまりやり込んでいなかったクチか。
「脳筋のタンルートの、サクラ様との会話中で数回出てくるだけですわ。辺境伯に関係した話ですから」
「ほへー」
私が出現場所を挙げると、エスカはとてもおまぬけな顔をして驚いていた。そんなに驚く事なのかしら。それなりにゲームの内容を忘れ始めているとはいえ、まだしっかりと覚えてるのよね。驚かれるって事は、エスカはやり込み勢ではないって事かしらね。
「で、アンマリア様はどなた狙いですの?」
興味津々にエスカが尋ねてくるので、
「王家の方からすでに、フィレン殿下かリブロ殿下との結婚を前提に婚約者にされていますわよ。ですので、すでにお二人のルートにほぼ固定かと。さすがに現実はゲームとは違いますわ」
私は包み隠さず、真実を述べておいた。まったく、恩恵の事があるせいで危機感を持っていられるので、はっきりゲームのようだけれども現実だと受け止められるのだ。お花畑な転生ヒロインとは違うのよ。
「まあそうよね。ゲーム本編みたいにいきなり学園から始まるならまだしも、幼少期から体験すればそうなるかしらね」
「それもございますが、この私の体質のせいですね」
背もたれに寄り掛かるように背中を反るエスカに、私は言葉を付け足す。
「それはどういう?」
「私、とても太りやすい体質ですの。それに、13歳で学園に入学する時に120kgが確定していますし、その体質の事もあって断罪ルートが怖いのですわ」
「あー、なるほど。2年生の時に太っていると発生するドーピングイベントですか」
はっきり言って、通常の乙女ゲームとは明らかに毛色の違うイベントだ。これがあるからこそ、私は他の転生ヒロインと違ってお花畑にならなかったのだ。元々逆ハーレムのできないゲームだし、悪役でもない自分が断罪される乙女ゲームなんて聞いた事ないわよ。なんてったって最悪処刑ですものね……。
「あー、そういうのを聞いていると、そちらの国に行きたくなるわね。サーロイン王国の学園に通えるように、お父様たちに掛け合ってみようかしら」
「4年後の話でしょう? 根気よく説得すればできるのではなくて?」
頭の後ろで手を組んで半ば愚痴のように言うエスカ。私は紅茶を飲みながらアドバイスっぽいものを送る。それと同時に、私はエスカに同郷のよしみとしてとあるものを贈る事にした。
「エスカ王女殿下、せっかくお知り合いになれましたので、こちらをプレゼントさせて頂きます」
「それは?」
「私の国で普及しつつある魔石ペンでございます。ボールペンと言えば、分かって頂けますでしょう」
私はにこりと微笑む。太ってるせいで怖いけど。にちゃあという音が聞こえてきそう。
「へー、ボールペンみたいなのを作っちゃったのかぁ。形状的にノック式ね」
さすがは転生者、理解が早い。
「ありがとう、頂いておくわ。これはこちらの国でも入手可能かしら」
「一応、ボンジール商会を通じて販路を広げております。ただ、製造方法は一般人にはまだ無理みたいでして、いまだ私独自の技術となっております」
「あら、それは残念」
本当に残念そうな顔をするエスカ。
「でも、私だけ特別に貰っちゃって悪いわね。こうなったら意地でもそっちの国の学園に留学するわよ」
「ふふ、楽しみにさせて頂きますね」
ふんすと気合いを入れるエスカの姿に、私はただただ微笑ましく思った。
それからしばらくの間、私たちはゲームの事も含めてあれこれと楽しく語り合った。日が暮れ始めてお互いの侍女に止められるまで。
「それでは、これにて失礼させて頂きます。エスカ王女殿下、本当に本日はありがとうございました」
「ええ、私こそ楽しかったですわ。アンマリア様、またお会い致しましょう」
挨拶を交わして、私はスーラと共に宿へと戻っていった。
そして、宿に戻るとモモに泣きながら抱きつかれて驚く私だった。どうやら隣国のお姫様に拉致されたために、何かあったのではと心配されたようだった。
「実に有意義なお話をさせて頂きましたわ。フィレン殿下、モモ、サキ、心配をお掛けしましたね」
心配を掛けたという事で、私は一応謝罪しておく。でも、特に何もなかったと伝えると、すごく安心していた。そして、私はまたお父様に叱られたのだった。なんで?!
本来、ミール王国の王族あれば王族専用の宿があるのだが、今回は王子たちだけがお忍びでやって来たらしく、分からないようにお金持ち用の宿を取ったようなのである。
その宿の一室で、私とエスカは向かい合って座っていた。お互いの侍女は、話の内容がゆえに部屋を出てもらって同席していない。とりあえず簡単なお菓子と飲み物を用意してもらって、話を始める。
「驚きましたわ。まさかヒロインが転生者だなんて」
「それはこっちのセリフですわよ。まさか隣国のお姫様が転生者だなんて、思いもしないですわ」
エスカはお姫様にそぐわない両肘をテーブルにつくという格好で不満そうに言っている。私の方は普通に座っているけれどね。
「最初はミール王国とか聞いて、『それどこ?』ってなったわね」
「あー、それは分かりますわね。ミール王国なんて、テキストでも数回しか出てこない国ですもの。公式からのアナウンスも何もないですから、ゲーム世界だとは気付きませんわね」
「えっ、本編中に言及されてたの?」
私の言葉に、エスカはとても驚いている。あまりやり込んでいなかったクチか。
「脳筋のタンルートの、サクラ様との会話中で数回出てくるだけですわ。辺境伯に関係した話ですから」
「ほへー」
私が出現場所を挙げると、エスカはとてもおまぬけな顔をして驚いていた。そんなに驚く事なのかしら。それなりにゲームの内容を忘れ始めているとはいえ、まだしっかりと覚えてるのよね。驚かれるって事は、エスカはやり込み勢ではないって事かしらね。
「で、アンマリア様はどなた狙いですの?」
興味津々にエスカが尋ねてくるので、
「王家の方からすでに、フィレン殿下かリブロ殿下との結婚を前提に婚約者にされていますわよ。ですので、すでにお二人のルートにほぼ固定かと。さすがに現実はゲームとは違いますわ」
私は包み隠さず、真実を述べておいた。まったく、恩恵の事があるせいで危機感を持っていられるので、はっきりゲームのようだけれども現実だと受け止められるのだ。お花畑な転生ヒロインとは違うのよ。
「まあそうよね。ゲーム本編みたいにいきなり学園から始まるならまだしも、幼少期から体験すればそうなるかしらね」
「それもございますが、この私の体質のせいですね」
背もたれに寄り掛かるように背中を反るエスカに、私は言葉を付け足す。
「それはどういう?」
「私、とても太りやすい体質ですの。それに、13歳で学園に入学する時に120kgが確定していますし、その体質の事もあって断罪ルートが怖いのですわ」
「あー、なるほど。2年生の時に太っていると発生するドーピングイベントですか」
はっきり言って、通常の乙女ゲームとは明らかに毛色の違うイベントだ。これがあるからこそ、私は他の転生ヒロインと違ってお花畑にならなかったのだ。元々逆ハーレムのできないゲームだし、悪役でもない自分が断罪される乙女ゲームなんて聞いた事ないわよ。なんてったって最悪処刑ですものね……。
「あー、そういうのを聞いていると、そちらの国に行きたくなるわね。サーロイン王国の学園に通えるように、お父様たちに掛け合ってみようかしら」
「4年後の話でしょう? 根気よく説得すればできるのではなくて?」
頭の後ろで手を組んで半ば愚痴のように言うエスカ。私は紅茶を飲みながらアドバイスっぽいものを送る。それと同時に、私はエスカに同郷のよしみとしてとあるものを贈る事にした。
「エスカ王女殿下、せっかくお知り合いになれましたので、こちらをプレゼントさせて頂きます」
「それは?」
「私の国で普及しつつある魔石ペンでございます。ボールペンと言えば、分かって頂けますでしょう」
私はにこりと微笑む。太ってるせいで怖いけど。にちゃあという音が聞こえてきそう。
「へー、ボールペンみたいなのを作っちゃったのかぁ。形状的にノック式ね」
さすがは転生者、理解が早い。
「ありがとう、頂いておくわ。これはこちらの国でも入手可能かしら」
「一応、ボンジール商会を通じて販路を広げております。ただ、製造方法は一般人にはまだ無理みたいでして、いまだ私独自の技術となっております」
「あら、それは残念」
本当に残念そうな顔をするエスカ。
「でも、私だけ特別に貰っちゃって悪いわね。こうなったら意地でもそっちの国の学園に留学するわよ」
「ふふ、楽しみにさせて頂きますね」
ふんすと気合いを入れるエスカの姿に、私はただただ微笑ましく思った。
それからしばらくの間、私たちはゲームの事も含めてあれこれと楽しく語り合った。日が暮れ始めてお互いの侍女に止められるまで。
「それでは、これにて失礼させて頂きます。エスカ王女殿下、本当に本日はありがとうございました」
「ええ、私こそ楽しかったですわ。アンマリア様、またお会い致しましょう」
挨拶を交わして、私はスーラと共に宿へと戻っていった。
そして、宿に戻るとモモに泣きながら抱きつかれて驚く私だった。どうやら隣国のお姫様に拉致されたために、何かあったのではと心配されたようだった。
「実に有意義なお話をさせて頂きましたわ。フィレン殿下、モモ、サキ、心配をお掛けしましたね」
心配を掛けたという事で、私は一応謝罪しておく。でも、特に何もなかったと伝えると、すごく安心していた。そして、私はまたお父様に叱られたのだった。なんで?!
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