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第二章 ゲーム開始前

第59話 トラブルは起こさなければやって来る

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 めでたく私は、シャオン滞在最終日である3日目は謹慎を言い渡されてしまいましたわ、無念残念。
 ただ、昨日の干物のお礼として、シャオンをはじめとしたミール王国の歴史書を宿の方に貸して頂けましたので、それでも読んで時間を潰そうと思いますわ。
「お姉様、部屋でおとなしく過ごされるのですか?」
「仕方ありませんわよ、モモ。好き勝手し過ぎたせいで怒られてしまいましたもの。自業自得ですから、こういう時はおとなしくしておくものですわ」
 口ではそう言うものの、私はおとなしくしているつもりなどなかった。
複製コピー
 まーたとんでも魔法を使う私。小汚いミール王国の歴史書を複製してしまったのである。中身を確認する私は、文字もちゃんと複製されている事を数ページめくって確認した。そのものの複製ができるなんて、やっぱり私の魔法は規格外のようである。ちなみにこのコピーされた本は、魔法が復元も兼ねているのですごくきれいである。
「本当にアンマリアはおとなしくしていないね」
 扉の方から声がするので振り向いてみると、サキによって呼び出されたフィレン王子が扉の所に立っていた。サキはここまで父親と行動を共にしていたので、今日にして初めての単独行動である。
「どれどれ……」
 ずかずかと部屋の中に入ってきたフィレン王子は、私が複製で出した本を取り上げて中身を確認している。
「……ちゃんと読めるね。挿絵もそのまま再現されている。まったく、あまり魔法を悪い事に使って欲しくないものですね」
 思いっきり呆れられている。
「とはいえど、あまり交流が盛んでなかったミール王国の情報が手に入れられるのなら、これはお手柄ですよ、アンマリア」
 にっこりと微笑むフィレン王子。ダメです、その笑顔は私に効く。
 私はごまかすように宿の人から渡された原本を読み始める。それにしても、まさか干物を作ったくらいでこんな重要機密を教えてもらえるとは思わなかった。もちろん、私がやったような反則的な作り方じゃなくて、ちゃんとした干物の作り方を教えたわよ。魚の身を開いて塩水で洗って、天日干しにするっていう方法よ。まあ、前世のインターネット頼りの知識だけど、それで完成したなら儲けものよね。うろ覚えの部分もあるけれど。
 フィレン王子も私の作った複製を読んでいる。モモとサキはつまらなさそうにしているけれど、勝手に動いて問題ばかり起こしたので仕方がない。たまには自重しないといけないものね。
 そんな時だった。突然宿のロビーが騒がしくなる。一体何があったというのだろうか。
 今の私はおとなしく読書をしておきたいのだけれど、あまりにうるさいのでどうしても気になってしまう。ここって高級宿よね?
 気にはなるけれど、私はモモとサキの相手もしながら読書を続けていたのだけれど、どんどんと騒ぎがこっちに近付いてきている事に気が付いた。
(まったく、何なのよね。トラブルだったらお帰り願いたいわ)
 私の眉尻がぴくぴくと動いている。
「ここかーっ!」
 ノックも無しに唐突に扉が開く。それと同時に私は無法者の頭上から水を叩き落としていた。さすがにおとなしくしていようと思ったのに、トラブルの方から来られたら怒るわよねぇ?
「うわぁ、なんだこれは!」
 うん、こっちのセリフよ。どこの誰だか知らないけれど、人の部屋にノックも無しに入ってくる方が悪い。ちなみにぶっかけた水は床に到達する前に蒸発させておいたわよ。宿は悪くないんだしね。
「誰だこんな事をしたのは。俺をアーサリー・ミールと知っての狼藉か!」
 うげぇ、ミールって事はこのうるさい奴はミール王国の王子かよ。
 さすがに王子に風邪を引かれちゃまずいかしらね。私はこっそりと乾燥の魔法を使っておく。椅子に座って無視を続ける私だけれど、目ざとくアーサリーとか名乗った少年は私に目をつけてきた。
「今の魔法、お前だな? 見た目こそ太ってはいるが、俺は知っているぞ。本当はものすごく痩せているとな!」
 アーサリーとか名乗った王子の言葉に、私の耳がぴくりと動く。聞き捨てならないわね、痩せているなんて。
「あらぁ、どこのどなたかしら。人の部屋に勝手にノックも無しに入った挙句、好き勝手ぬかしてやがるのは」
 私は痩せているという単語に興味を示したけれど、ここまでの無作法にはさすがに我慢の限界を超えていた。私は呆気に取られるフィレン王子や怯えるモモやサキを尻目に、大きな怒りマークを貼り付けたまま、笑顔でアーサリーへと近付いていく。
「ははは、無詠唱で魔法を使うだけならいざ知らず、俺をずぶ濡れにしながら床には被害がない。実に器用な奴だな」
 あーもう、どうしてこうもイラつかせてくるのかしら。ここまでマナーのなってない王子に、私の怒りをぶつけてやるわよ。一国の王子とはいえ、やっていい事と悪い事があるんだからね!

 バチーン!

 アーサリーに私の平手打ちがものの見事に炸裂するのだった。
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