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第二章 ゲーム開始前

第55話 気になったら行動です

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 さて、誕生日パーティーも無事に終わったので、私はまたしばらく気ままに過ごしている。新しい魔道具を作ろうにも魔石も素材もないので何もする気にはならなかった。
 ただ、気になる事が一つある。それはマドレーヌを王子に差し出した時に話題に出た『ミール王国』である。海に面した国という事だし、前世でもあまり海になじみがなかったとはいえ、やはりあると聞くと行きたくなってしまうのだ。魚介類を手に入れられれば、私の料理のレパートリーが増やせるんだもの。それに、これだけ料理が揃っているのに存在しない醤油とかだってあるかも知れない。やっぱり前世日本人としては、醤油と味噌は外せないわよね。そうやって考えていると、私の中でミール王国に行ってみたい気持ちがどんどんと膨らんでいった。
「お父様!」
 気が付くと私は、父親の居る部屋に突撃していた。
「どうしたんだい、マリー。何かお願いかい?」
「はい、そうですわ。お父様、ミール王国に行ってみたいのです!」
 私が高らかに叫ぶと、父親は目をぱちくりとさせていた。そりゃもう、「突然何を言い出すんだ、この子は」といった顔である。
 当然ながら、父親はものすごく考え込んだ。だって、ミール王国とサーロイン王国はそんなに仲が良くないんだもの。
 だからこそ、国境には壁がずらっとそびえ立っている。簡単に攻め入られないようにしてあり、壁には数か所の関所があるのみだ。そのうちの一つはサーロイン王国の王都トーミとミール王国の王都シャオンとを結んでいる。一応ここが一番重要な街道で、治安は比較的良いとされている。
「お父様。将来的に考えて、私の見聞を広めるべく行かせて頂けませんか? それこそボンジール商会のおまけでも構いませんから」
 私は必死に訴える。海に行きたい。ただそれだけの私の願いだけど、それは父親を大いに苦しめた。なにせ大事な娘であり、王子の婚約者であるのだ。そうほいほいと送り出せるようなものではなかった。
 かなーり長く悩んでいた父親だったが、
「そうだな、ミール王国を見てみるのもいいか。国王たちに掛け合って、家族全員で行くとしよう。ボンジール商会を絡ませるならテトリバー男爵たちも誘うか」
 というわけで、父親はとんでもない事に膨らませて結論を出した。モモや母親どころか、サキたちまで巻き込む事となってしまった。いや、私は別にそこまで望んではいないけれど、まぁ嬉しい誤算ではあるかな。
 ドタバタと登城の準備をする父親の姿を、私は細目になって眺めていた。
「何をぼさっとしている。マリーも一緒に登城するのだぞ。スーラ、マリーを着替えさせてやってくれ」
「畏まりました」
 って、ええ?!
 という感じで、私はスーラに引きずられて、服を着替えさせられる事になってしまった。どうしてこうなった。

 簡単に結果を言うと、私のミール王国への訪問は許可が下りた。しかし、王家から護衛をつけられる事になってしまい、これにはボンジール商会も慌てていた。ただ、ボンジール商もミール王国には興味があったようで、淡々と準備を進めていた。
 さて、王家から護衛をつけられたという事は、当然ながらおまけがついてくる。
「やあ、アンマリア、今日はいい天気ですね」
「こ、これはフィレン殿下。本当に素晴らしいお天気でございますね」
 フィレン王子がついてきてのだ。私は不本意ながらもカーテシーとともに挨拶をする。隣ではモモもカーテシーをしていた。
 正直、海産物を手に入れたいだけだというのに、どうしてこうなったのよ。他国へ出るのだから父親の許可は要るものとして相談を持ち掛けただけなのに、なんで本格的な国交にまで発展してるのよ!
「ふふっ、アンマリアは気合いが入ってますね。そんなに楽しみなのですか?」
 いいえ違います。予想外の事態に憤慨しているだけです。
 とはいえど、そんな事は口が裂けても言えるわけはなく、私はおとなしく頷いておいた。
「そうなんですか。私も楽しみなんですよ。先日話題に出したばかりのミール王国に、こんなに早く向かえるなんて思ってもみませんでしたからね」
 くっ、笑顔が眩しすぎるぜ、王子様よ。
 私たちが王子と話をしていると、
「失礼致します、フィレン殿下、アンマリア様、モモ様」
 サキが父親を伴ってやって来た。サキも婚約者なのだから、挨拶にやって来たのである。
「サキも元気そうで何よりです。家の方は順調ですか?」
「は、はい。殿下やアンマリア様のご尽力のおかげで、家計は持ち直してきております。本当にありがとうございます」
 本当にテトリバー男爵家は一時期危険なところまで家計が落ち込んでいた。それというのも、モモの実家であるハーツ子爵家など多くの貴族から嫌がらせを受けた結果である。だけど、私の介入などもあって領地の状態も上向き、収入が安定するようになってきた。王国への納税は相変わらず小麦ではあるものの、それでもかなりの良質な小麦の生産は順調で、かなりの備蓄も行えるようになってきていた。
「そういえば、アンマリア様。その馬車に載せている荷物って……」
「そうよ、テトリバー男爵領の小麦ですわ。ミール王国の海の幸ときっと合うと思いましてね、たくさん用意しましたのよ」
 そう、ファッティ伯爵家の馬車は何と三台だった。一台は私たち家族が乗り、もう一台は着替えなどの荷物。そして、最後一台には大量の食材などの荷物が載せられているのよ。お好み焼きにタコ焼き、てんぷら……。ああ、いけない、よだれが出てきてしまうわ。私は自分の体質の事もあって、なんとか堪える。粉ものの食べ過ぎは太ってしまうものね。ただでさえあれからまた1kg増えちゃったんだもの。恩恵のせいか食事のせいかまったく分からないけれどね。
「フィレン殿下、出立の準備が整いました」
「ご苦労、すぐに乗り込む」
 この声に反応して、私たちもそれぞれの家の馬車に乗り込む。なんとも豪華な一行になってしまったものの、私たちはトーミを出発して一路南へと向かったのだった。
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