53 / 500
第二章 ゲーム開始前
第53話 王子たちが出向いた理由
しおりを挟む
本当に王子たちの訪問には驚かされた。9歳の誕生日の時は来なかったくせに、なんで今年はやって来たのかが分からない。こんなぽっちゃりを超えたでぶっちょ令嬢なんて、婚約者とはいえどあまり見たくはないでしょうに。私は心の中で文句を言いながら王子たちを見ていた。
私がそんな事を思っているとは思わないだろう王子たちは、来場者たちに笑顔で手を振っている。10歳と9歳のこの兄弟、揃いも揃って美形である。まだあどけなさが残る状態でこのイケメン具合。学園に入る頃には一体どれほどのイケメン偏差値を叩き出すのだろうか……。そのせいで、すっかりパーティーの主役を奪われてしまっているわ。きー、悔しい。
「お姉様……」
横に立つモモが私を気遣ってくれている。その姿を見た私は、気持ちを取り直す事ができた。
「ありがとう、モモ。では、主催としてあいさつに伺ってきますわ」
私はモモの手を握ってそう言うと、二人の王子の元へと歩いていった。成人男性並みの体重となった私の足音はとにかく重い音を響かせる。その音に王子たちが気付いてこちらを見るし、他の参列者はその威圧感に一歩下がっていた。
「ようこそおいで下さいましたわ、フィレン殿下、リブロ殿下。私の誕生日を王家の方にも祝って頂けるなんて、光栄の極みですわ」
私は精一杯の笑顔でもって王子たちに挨拶をする。背の高さの無い私は本当にただの肥満体がゆえに、笑顔が怖くなっていないか戦々恐々である。だけど、王子たちの反応を見るにどうも大丈夫だったようである。
「アンマリア、堅苦しい挨拶はいいですよ。婚約者候補の誕生日を祝うなんて、当然の事ではないですか」
私の挨拶に返してきたのはフィレン王子だった。そして、私に近付いてくると、
「今年中に、君とサキの二人を、私たちの正式な婚約者とする発表を行う予定があるんです。それだから今年はこうやって出向いたというわけですよ」
フィレン王子は私にそう耳打ちをした。
「えっ?!」
私は不意打ちを食らった気分だった。
そういえば、婚約者に格上げするとは言っていたものの、その発表自体は長らく見送られてきたのだ。それをようやく行うめどがついたという事だろう。だから、私の誕生日パーティーにこうやって出向いてきたというわけである。驚いた一方で、私は不思議とすとんと納得できたのだ。
とはいえ、パーティーの主役の座を奪われた事には変わりはないので、ぎゃふんと言わせる方向性には変わりはなかった。
(お父様を通じてお城の食事事情は把握してますからね。そこで見た事のない料理が出てくれば、王家の鼻を明かせるはずよ!)
私は改めて気合いを入れている。知り合い少数のガーデンバースデーパーティーがいよいよ始まる。
それにしても、パーティーの主役である私よりも王子二人の方に視線が集まっているのは本当にいただけない。このパーティーの主役は一体誰なのか、再確認させる必要があるわね。
妹や友人一同を座らせたところで、私は庭に作った台の上に立つ。さすが私の魔法で固めた土。私の体重でも沈まないし壊れない。しっかりと足場を確認した上で、私はスピーチを始める。
「皆様、本日は私アンマリア・ファッティ伯爵令嬢の10歳の誕生日パーティーにお集まり頂き、誠にありがとうございます。年明けのお忙しい中ですので、本当は小規模にしたかったのですが、10歳の節目という事で少々規模が大きくなってしました」
私はそれっぽい理由を言っておくが、実際に規模が大きくなったのは王子たちのせいである。どこから聞きつけたのか、大幅に参列者が増えてしまったのだ。本当に、貴族の耳とは地獄耳である。
「ですので、今回は屋外での立食パーティーという体を取らせて頂きました。私の手入れしましたこの庭で、ファッティ家の料理を心ゆくまで味わって下さいませ」
私のスピーチが終わると、誰からともなく拍手が巻き起こった。挨拶としてはまあまあといったところかしらね。
台を降りた私には、誕生日を祝う声がたくさん聞こえてきた。形式ばったものではなく、しっかりと心がこもっているようだったので、私は前世の事を思い出してつい涙ぐんでしまった。大勢に誕生日を祝われたのなんて、幼稚園以来かしらね。
「お姉様、泣いてらっしゃいますか?」
席に戻った私に、モモが声を掛けてきた。
「ええ、ちょっと嬉しかったみたいで、つい……」
私は目じりに浮かんでいた涙を、すっと指で拭った。
だけど、私にはまだゆっくりしている時間はない。すぐさまフィレン、リブロの両王子の所へ出向き、二人の前に立つと私はカーテシーをする。
「殿下方にはご臨席頂き、誠に御礼申し上げます。殿下方には特別に別のお菓子をご用意させて頂きましたので、どうぞご賞味下さい」
「へえ、それは楽しみですね」
私の言葉にフィレンが反応している。とりあえずつかみはオッケーってところかしらね。
すぐさま私はスーラに合図を送り、王子たちのために用意したお菓子を持ってこさせる。もちろん、紅茶も忘れずに。さあ、どんな反応をするのか楽しみだわ。
しばらく待っていると、私たちの前に特別に作らせたお菓子が運ばれてきたのだった。
私がそんな事を思っているとは思わないだろう王子たちは、来場者たちに笑顔で手を振っている。10歳と9歳のこの兄弟、揃いも揃って美形である。まだあどけなさが残る状態でこのイケメン具合。学園に入る頃には一体どれほどのイケメン偏差値を叩き出すのだろうか……。そのせいで、すっかりパーティーの主役を奪われてしまっているわ。きー、悔しい。
「お姉様……」
横に立つモモが私を気遣ってくれている。その姿を見た私は、気持ちを取り直す事ができた。
「ありがとう、モモ。では、主催としてあいさつに伺ってきますわ」
私はモモの手を握ってそう言うと、二人の王子の元へと歩いていった。成人男性並みの体重となった私の足音はとにかく重い音を響かせる。その音に王子たちが気付いてこちらを見るし、他の参列者はその威圧感に一歩下がっていた。
「ようこそおいで下さいましたわ、フィレン殿下、リブロ殿下。私の誕生日を王家の方にも祝って頂けるなんて、光栄の極みですわ」
私は精一杯の笑顔でもって王子たちに挨拶をする。背の高さの無い私は本当にただの肥満体がゆえに、笑顔が怖くなっていないか戦々恐々である。だけど、王子たちの反応を見るにどうも大丈夫だったようである。
「アンマリア、堅苦しい挨拶はいいですよ。婚約者候補の誕生日を祝うなんて、当然の事ではないですか」
私の挨拶に返してきたのはフィレン王子だった。そして、私に近付いてくると、
「今年中に、君とサキの二人を、私たちの正式な婚約者とする発表を行う予定があるんです。それだから今年はこうやって出向いたというわけですよ」
フィレン王子は私にそう耳打ちをした。
「えっ?!」
私は不意打ちを食らった気分だった。
そういえば、婚約者に格上げするとは言っていたものの、その発表自体は長らく見送られてきたのだ。それをようやく行うめどがついたという事だろう。だから、私の誕生日パーティーにこうやって出向いてきたというわけである。驚いた一方で、私は不思議とすとんと納得できたのだ。
とはいえ、パーティーの主役の座を奪われた事には変わりはないので、ぎゃふんと言わせる方向性には変わりはなかった。
(お父様を通じてお城の食事事情は把握してますからね。そこで見た事のない料理が出てくれば、王家の鼻を明かせるはずよ!)
私は改めて気合いを入れている。知り合い少数のガーデンバースデーパーティーがいよいよ始まる。
それにしても、パーティーの主役である私よりも王子二人の方に視線が集まっているのは本当にいただけない。このパーティーの主役は一体誰なのか、再確認させる必要があるわね。
妹や友人一同を座らせたところで、私は庭に作った台の上に立つ。さすが私の魔法で固めた土。私の体重でも沈まないし壊れない。しっかりと足場を確認した上で、私はスピーチを始める。
「皆様、本日は私アンマリア・ファッティ伯爵令嬢の10歳の誕生日パーティーにお集まり頂き、誠にありがとうございます。年明けのお忙しい中ですので、本当は小規模にしたかったのですが、10歳の節目という事で少々規模が大きくなってしました」
私はそれっぽい理由を言っておくが、実際に規模が大きくなったのは王子たちのせいである。どこから聞きつけたのか、大幅に参列者が増えてしまったのだ。本当に、貴族の耳とは地獄耳である。
「ですので、今回は屋外での立食パーティーという体を取らせて頂きました。私の手入れしましたこの庭で、ファッティ家の料理を心ゆくまで味わって下さいませ」
私のスピーチが終わると、誰からともなく拍手が巻き起こった。挨拶としてはまあまあといったところかしらね。
台を降りた私には、誕生日を祝う声がたくさん聞こえてきた。形式ばったものではなく、しっかりと心がこもっているようだったので、私は前世の事を思い出してつい涙ぐんでしまった。大勢に誕生日を祝われたのなんて、幼稚園以来かしらね。
「お姉様、泣いてらっしゃいますか?」
席に戻った私に、モモが声を掛けてきた。
「ええ、ちょっと嬉しかったみたいで、つい……」
私は目じりに浮かんでいた涙を、すっと指で拭った。
だけど、私にはまだゆっくりしている時間はない。すぐさまフィレン、リブロの両王子の所へ出向き、二人の前に立つと私はカーテシーをする。
「殿下方にはご臨席頂き、誠に御礼申し上げます。殿下方には特別に別のお菓子をご用意させて頂きましたので、どうぞご賞味下さい」
「へえ、それは楽しみですね」
私の言葉にフィレンが反応している。とりあえずつかみはオッケーってところかしらね。
すぐさま私はスーラに合図を送り、王子たちのために用意したお菓子を持ってこさせる。もちろん、紅茶も忘れずに。さあ、どんな反応をするのか楽しみだわ。
しばらく待っていると、私たちの前に特別に作らせたお菓子が運ばれてきたのだった。
19
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に
椎名 富比路
ファンタジー
錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。
キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。
ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。
意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。
しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。
キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。
魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。
キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。
クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。
彼女は伝説の聖剣を
「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」
と、へし折った。
自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。
その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる