上 下
43 / 500
第一章 転生アンマリア

第43話 権力には権力をぶつけるものです

しおりを挟む
「まったくあり得ませんわね。こうなったら証拠を押さえて、お父様に裁いてもらいますわ!」
 私は終始激高していた。原因は、あまりにも酷いテトリバー男爵家への仕打ちである。
 事情を問い詰めたところ、どうやらサキが婚約者候補に選ばれた事を快く思わない貴族たちが、ある事ない事をテトリバー男爵家で働く使用人たちに吹き込んだらしいのである。それだけでは使用人をやめさせるまでには至らなかったので、さらには嫌がらせまでしたらしい。それこそ使用人たちが身の危険を感じるほどのような事をだ。男爵家の取引先にも圧力を掛けたらしく、王都の男爵家はおろか、テトリバー男爵領にも被害が及んでいた。そのせいで王都の屋敷はこの有り様なのだそうだ。
 国王に訴える機会もあったのに、男爵はそれほど気が強くないせいで言い出せなかったらしい。
 私はとりあえず黙っていた事を窘めておいた。二人には悪いけれど、私の腹の虫がおさまらないから止めてもやらせてもらうわ。
 さて、事情を知ったからにはどうしてくれようか。商会にまで圧力を掛けられるのだから、相手は貴族なのは間違いない。しかも男爵家を押さえこめるのだから、少なくとも子爵クラスの貴族という事になるだろう。本当に小説やら漫画やらで見た通り、貴族というものは汚い連中がそれなりに存在しているようだ。
「お嬢様、どうされるのですか? 少なくとも他家の事なのです。無理に首を突っ込まなくてもよろしいのでは?」
「いいえ、そうはいきません。同じ婚約者候補なのです。仲間なのです」
 スーラが諫めようとしてくるが、頭に血が上っている私は、そんな説得を聞くような耳を持っていなかった。さすがに私の怒り具合が半端なかったので、スーラも説得を諦めたようだ。
 さて、テトリバー男爵家に絡んでいる頭の悪い連中を特定しなければね。向こうはどう思っているかは分からないけれど、少なくとも将来の事を考えて仲良くしておきたい相手だものね。少しでも恩は売っておきたいものなのよ。
 いろいろと考えてみた結果、簡単に探りを入れられるのは、テトリバー男爵家と取引のある商会という結論に達した。私の家は伯爵家だから、売り込みや買い物ついでに事情を探り出せるはず。
 そこで思いついたのが、魔石ペンの取引だ。商談ついでに情報を聞き出してやればいい。でも、私のような8歳児の言う事を聞いてくれるかどうかという不安がある。ならば、ここは両親に相談すべきね。
 夕食の際に、父親にテトリバー家を訪問した事を報告する私。その際に知った事を父親に伝えると、
「何とけしからん事だ。それが事実ならば、お家取り潰しもあり得るというのに、嫉妬に駆られて目が曇ったか」
 うん、父親もものすごく怒っている。ただ、現状では調べられる先が限られてしまっている。辞めた使用人の行き先は分からないし、その人たちの顔も名前も分からないのだ。こっちから追う事は不可能である。
 そこで父親も同じ結論に達した。
「男爵家との取引を渋った商会から聞き出すのが一番だな。同時にテトリバー家に今も残る使用人から話も聞こう。身の保証はこちらで行うとして、うちの使用人を一時的に貸し出すか」
 さすがは国の大臣を務める父親、判断が早い。
「だが、今はもう夕食で時間も遅い。明日から早速動くぞ」
「お父様」
「どうしたんだい、マリー」
 勢いづく父親に、私は声を掛ける。
「商会に対しては、これが役に立つと思います。これの取り扱いを持ち掛ければ、有利に進められるかと」
「そうか、魔石ペンか。王家からもお墨付きをもらった一品だ。これを交渉に使えば、商会に口を割らせられるというわけだな」
「はい」
 私の提案に父親は乗ってくれる。だが、表情を明るくしたのも束の間、少しだけ渋った顔をする。
「だが、それを実行するにはまず王家から了承を取らねばならない。マリー、明日は城についておいで」
「ええっ?!」
 まさかの父親からの言葉に、私はとんでもない大声で驚いた。
「いいかい、マリー。王家からのお墨付きを得た事で、販売権は王家との共有になっているんだ。つまり、私たちの一存で売り出すという事はできなくなっているんだよ」
 あっぶない……。あのままだと、私単独で交渉をやらかすところだったわ。父親に相談して正解ね。
 さて、私の友人予定の家族にとんでもない事を仕掛けてくれた犯人どもには、強烈なお灸を据える準備が始まったわ。王家の婚約者の家に手を出す事が、どれだけ重罪かという事を思い知ればいいのよ。これだけ証拠が残っている上に、最高権力である王家を使える手札があるんだからねぇ。
 という感じで、私は登城する事を了承する。今回の事は王家も無関係ではないものね。あれだけ気が弱くて人のいい男爵だ。犯罪行為に手を染めているとも思えないし、でっち上げで潰される事はなんとしても防ぎたいものだわ。
「ここだけの話だけどね、マリー」
「何でしょうか、お父様」
「実はお城が使用している小麦の産地は、テトリバー領なんだよ」
「それは本当ですか?」
「ああ、そうだよ。テトリバー領との取引を切るという事は、テトリバー領産を重宝する王家を裏切るという事だからね。貴族から脅されたとしていても、重罪になるんだ。だから、魔石ペンで揺すれば、簡単に口を割ると思うよ」
「あれ? でしたらなぜ、テトリバー家は貧乏なのです?」
「それはね、小麦が買取ではなく税収だからなんだ。つまりテトリバー領は、税金を小麦で納めていたという事なんだ。これは、テトリバー領が品質のいい小麦以外の産業がない事が原因なんだけどね」
「な、なるほど……」
 テトリバー男爵が貧乏な理由に合点がいった。その上でテトリバー男爵があれだけ自己主張が少ないから、商会には買い叩かれていたのだろう。
 これは実に叩き潰しがいがある害虫たちのようですわね。私は怒りのあまり、父親がぞっとするくらいに怖い笑顔になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】わたくし、悪役令嬢のはずですわ……よね?〜ヒロインが猫!?本能に負けないで攻略してくださいませ!

碧桜 汐香
恋愛
ある日突然、自分の前世を思い出したナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢。 この世界は、自分が悪役令嬢の乙女ゲームの世界!? そう思って、ヒロインの登場に備えて対策を練るナリアンヌ。 しかし、いざ登場したヒロインの挙動がおかしすぎます!? 逆ハールート狙いのはずなのに、まるで子猫のような行動ばかり。 ヒロインに振り回されるナリアンヌの運命は、国外追放?それとも? 他サイト様にも掲載しております

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...