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第一章 転生アンマリア

第38話 殿下の誕生日、裏の駆け引き

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 さすがに王族が入場してくる間の貴族たちは静かだった。私と同い年まではこのパーティーに来ているのだが、その子たちもものすごく静かにしていて、この世界の教育のレベルというものがよく分かる。王族に失礼があれば明日の命もあるか分からないような世界だから、自然と教育が厳しくなってしまうという事なのだ。
 国王とフィレン王子の挨拶が終わると、私とサキが呼ばれる。どうやらまたダンスを踊らされるようだ。前回は私からだったので、今回はサキから踊る。それにしても、体型が近いとあって踊りやすそうだし、王子と男爵令嬢とはいえかなりお似合いに思える。モブに近い感じとはいえ、顔は整っているし、何より笑顔が可愛いものね。さすがに王子と踊るとなるとガッチガチなんだけど、王子のリードがうまいので程よく緊張は解けていってるみたい。さすが王子だわ。
 その先とのダンスが終われば今度は私。さすがの体格差だから、殿下を潰してしまわないかと毎度心配になる。何より、この間の夜会の時よりも更に私は体重が増えているのだから。
「失礼ながら、フィレン殿下」
「うん、なんだい?」
「私、重くなってますので、ご無理はなさらないで下さい」
 私が真剣に言うと、王子はおかしくて笑っていた。
「心配ありがとう。でも、私だって鍛えているんだ、気にしないでくれ」
 王子がそう言うので、私は気にしない事にした。そして、音楽が始まると私と王子のダンスが始まった。
 終わってみれば王子のリードは完璧だし、動くだるまである私に振り回されず潰されず、しっかりと最後までリードしきったのである。これが物語の王子か。廃スペックめ。踊り終わった私は、国王と王妃、王子、そして会場へとそれぞれカーテシーをする。太ってはいるものの、淑女の嗜みくらいはちゃんとできるように鍛えているのだ。とはいえ、カーテシーをした瞬間にどよめきが起きたのはさすがにちょっと傷付いたわね。
「うむ、二人とも見事であった。我が息子フィレンとの踊りでの息の合いよう、まさに婚約者候補としての自覚としかと受け止めたぞ」
 国王から賛辞が送られ、私とサキは、
「まことにありがたく存じます」
 と声もカーテシーも揃えてお礼を言った。
「では、ファッティ伯爵夫妻、テトリバー男爵夫妻、この後は子どもも含めて話がある。私について参れ」
「はっ!」
 国王からの指名を受け、私とサキの両親は返事をする。
「では、宰相。続きの進行を頼むぞ」
「承知致しました、国王陛下」
 宰相のバラクーダ・ブロックに場の取り仕切りを任せると、国王は王妃と王子を残して会場を後にしていった。私とサキも家族と一緒に国王の後を追うように会場を出ていく。会場からはそんな事にお構いなしに王子の誕生日を祝う声が聞こえてきた。
 正直言って、私も会場に残って王子にしっかりと誕生日を祝う挨拶をしたかった。しかし、国王の命令とあってはそれに逆らえず、ただただ今は、両親と一緒に国王との執務室に向かうだけだった。
 国王の執務室に着くと、すでに国王が椅子に座して待ち構えていた。こっちの方が遠回りだったので仕方のない結果だが、国王を待たせてしまった事には変わりはないので、両親たちは謝罪を口にしていた。
「構わん、急な呼び出しをしたのはこちらだ。とりあえずそちらに座るといい」
 国王の部屋には椅子が用意されていた。基本的に国王以外は座る事がないので、本来は椅子が置かれていないのだが、今回はそれくらいには長くなるかもという事なのだろう。私たちはお言葉に甘えて椅子に腰掛けた。
「実はだな、フィレンがとんでもない事を言い出してな。それを元にいろいろと検討してみた結果、その言葉通りにする事に決まったのだ」
 この国王の言葉に、私たちは揃って首を傾げた。だって言葉の意味が分からないのだから。
「……アンマリア・ファッティ伯爵令嬢、サキ・テトリバー男爵令嬢、二人を正式なフィレンとリブロの婚約者とする。だが、公式な発表は時期を改める。息子の恩恵である『先見の目』が何かを見たようなのだ。どうだろうか、受け入れてはくれまいか?」
 国王が命令ではなくて頼み込んできた。国王としても急な事で強気に出られないらしいのだ。変に能力持った子どもを持つと親は大変よね。しかし、私どころか、サキの方も腹は決まっていたようである。お互いに顔を合わせると、サキの顔が凛々しくなっていた。国王の態度を見て奮い立ったようだ。
「婚約者の件、確かに承りました」
 私とサキの声がハモる。これには私の両親もサキの両親も、そして何より、国王も驚いていた。だけども、私たちの決意は固い。子どもだからといって甘く見ないでもらいたい。私たちだって貴族なのだから。
 そして、しばらく国王と話をしていると、フィレン王子が挨拶のラッシュから戻ってきた。会場は主役不在となってもまだまだ盛り上がっているようだった。
「いやはや、本当にすごい勢いでした。疲れたふりをしても引っ込んできて正解でしたよ。あのままでは令嬢たちの圧に耐え切れませんでしたから」
 私たちはフィレン王子を加えて、話を再開したのだった。
 その中で私は、プレゼントを渡すタイミングを静かに計るのだった。
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