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第一章 転生アンマリア
第36話 贈り物に試行錯誤
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正直言って、フィレン殿下に何を送ろうかというのは悩んでいた。そこで考えたのが、お茶会の招待状を書いていた時に思った事だった。とにかくいちいちインクつけ直すがめんどくさいのだ。
(はあ、ボールペンとか筆ペンとかないかしらねぇ……)
私はともかくそんな事を思いながら書いていたのだ。
そこで思いついたのが、ないのなら作ってしまえばいいじゃない。そういう事である。
私はスーラにお願いして、魔石をあるだけ持ってきてもらう。魔石というのは魔物の体内になる心臓というか魔力の貯蔵庫である。魔物の種類によっては心臓と同義となる器官だ。これがある事によって、魔物は魔法や特殊な技能がが使えたり、傷の治りが早かったりするのである。この世界でも魔石の活用方法はいろいろと研究されており、その一つが屋敷の壁に取り付けられた照明器具なのである。
こうなると私が思いついたのは、魔石を使ってのボールペンのようなものの作製だった。
(このボールペンに王家を示す紋章か何かを入れれば、殿下の誕生日プレゼントとしては完璧じゃない?)
というわけで、少ない日数ながらにも私は魔石を使ったボールペン作りを始めるのだった。
ボールペンの太さと長さは前世のボールペンを参考にさせてもらった。キャップ式ではなくノック式のボールペンで、胸ポケットに挿し込めるようなフックが付いたタイプにする。しかも、服についても汚れないような誤作動防止機能もつけておく。ノックをする際に魔力を感知しなければ、ペン先からインクが出ないようにするのである。これなら壁にぶつけたりしてペン先が出ても、服を汚す事はない。うん、完璧だわ。
私は魔法を駆使して、ボールペンの構造を構築していく。ペン先と本体は細く加工した魔石を使い、ペン先と反対側の突起物を押せば、魔石のペン先が出たり入ったりするようにする。この世界には小型のばねがまだ存在していない。せいぜい馬車のサスペンションくらいだ。地味にこの出し入れの制御に1日を費やしてしまった。
結局は思いついた方法として、魔石にそういう魔法を覚え込ませるしかなかった。魔石のお尻に付けた出っ張りを押し込んで魔石のペン先が顔を出したら魔力を感知させるようにする。お尻部分に誰かの魔力を感知したらペン先からインクが出る状態にして、さらにお尻を軽くもう一度押し込む事でペン先を筒の中に収納して魔力の流れを遮断するという、まあなんともめんどくさい方法になった。完全に制御できるように調整していたら、さらに1日が過ぎた。殿下の誕生日のパーティは週の半ばなので、もう時間がない状態だった。
悪戦苦闘を重ねる事、どうにか私は3本のペンを完成させた。殿下へのプレゼント、父親へのプレゼント、それと自分用である。自分用のペンで調整は完璧、その理論を適用させた残りの2本は、城がご用達にしている店に持ち込んでエンブレムを刻んでもらった。これによって、特殊な1本しかないペンができ上がる。
一応お店の人にもこの自作のペンを見てもらった。ものすごく驚かれたけれどね。インクに付ける必要もなく、すらすらと紙に文字が書けているんですもの。お店の主人はなんとか自分のところの商品にしようと私を説得しようとしてきたけれど、丁重にお断りさせてもらいましたわよ。まずは殿下と父親に使ってもらって、使い心地を確認しもらわなきゃね。王家のお墨付きが出れば、そしたら商品化も考えてもいいかも知れない。
私に断られて愕然とする商人の姿を見て、スーラが笑っていたのは印象的だったわ。私がいくら子どもだからといっても、前世で生きてきた経験があるってものよ。そんな口車に乗るものですか。
どうにか完成する私の自信作の魔石ペン。ボールペンって言おうとしたけれど、どこにもボールなんてないから仕方がない。魔石を使ってるから魔石ペン。ストレートだけど、これはこれで革新的なものよ。
しかし、困った事にこの日は誕生日パーティーの前日である。今さらながらに包みが準備できていなかったので、仕方なく、そのお店の贈り物用の箱に入れてもらった上でリボンで封をしてもらった。これで贈り物っぽく見えるわね、ヨシッ!
家に戻った私は、真っ先に父親のところへ向かう。
「お父様」
「なんだい、マリー」
「これ、プレゼントです」
私がプレゼントと言うと、父親はものすごく目を丸くして驚いた。
そして、渡された円筒の物を見て、父親はくるくるとその円筒を眺めていた。
「なんだい、これは」
「魔石を使ったペンです。これを使えばインクなしに文字が書けるんですよ。魔石の魔力をインクに変換して文字を書くんです」
父親は半信半疑だった。だが、私の説明通りに出っ張りを押して魔石を押し付けて紙に文字を書き始めると、もの凄く楽しそうな顔をしていた。
「おお、マリー。これは世紀の大発明だぞ。インクを使わずに文字を書けるなど、画期的過ぎる!」
「はい、実はこれ、明日のフィレン殿下の誕生日プレゼントにしようと思いまして、急いで用意させて頂きました」
「ほんの数日で作り上げたのか! おお、私の娘は恩恵の貯蔵庫だというのは本当なのだな……」
(うん、お父様。喜ぶのはいいけれど、言い方はどうにかなりませんこと?)
わざわざポーズを取りながら全身で喜びを表現する父親に、私はただただ呆れていた。
とりあえず、魔石ペンをプレゼントにする事には大賛成してくれた。
ちなみに、出っ張りを机で押し込んでもらうと、確かに文字が書けなかった。これにも父親は感動していた。いちいちリアクションがオーバーなんだけどね。
父親の反応で好感触を得た私は、明日の殿下の誕生日パーティーを心待ちにする事ができたのだった。
さあ、明日は勝負の日よ。
(はあ、ボールペンとか筆ペンとかないかしらねぇ……)
私はともかくそんな事を思いながら書いていたのだ。
そこで思いついたのが、ないのなら作ってしまえばいいじゃない。そういう事である。
私はスーラにお願いして、魔石をあるだけ持ってきてもらう。魔石というのは魔物の体内になる心臓というか魔力の貯蔵庫である。魔物の種類によっては心臓と同義となる器官だ。これがある事によって、魔物は魔法や特殊な技能がが使えたり、傷の治りが早かったりするのである。この世界でも魔石の活用方法はいろいろと研究されており、その一つが屋敷の壁に取り付けられた照明器具なのである。
こうなると私が思いついたのは、魔石を使ってのボールペンのようなものの作製だった。
(このボールペンに王家を示す紋章か何かを入れれば、殿下の誕生日プレゼントとしては完璧じゃない?)
というわけで、少ない日数ながらにも私は魔石を使ったボールペン作りを始めるのだった。
ボールペンの太さと長さは前世のボールペンを参考にさせてもらった。キャップ式ではなくノック式のボールペンで、胸ポケットに挿し込めるようなフックが付いたタイプにする。しかも、服についても汚れないような誤作動防止機能もつけておく。ノックをする際に魔力を感知しなければ、ペン先からインクが出ないようにするのである。これなら壁にぶつけたりしてペン先が出ても、服を汚す事はない。うん、完璧だわ。
私は魔法を駆使して、ボールペンの構造を構築していく。ペン先と本体は細く加工した魔石を使い、ペン先と反対側の突起物を押せば、魔石のペン先が出たり入ったりするようにする。この世界には小型のばねがまだ存在していない。せいぜい馬車のサスペンションくらいだ。地味にこの出し入れの制御に1日を費やしてしまった。
結局は思いついた方法として、魔石にそういう魔法を覚え込ませるしかなかった。魔石のお尻に付けた出っ張りを押し込んで魔石のペン先が顔を出したら魔力を感知させるようにする。お尻部分に誰かの魔力を感知したらペン先からインクが出る状態にして、さらにお尻を軽くもう一度押し込む事でペン先を筒の中に収納して魔力の流れを遮断するという、まあなんともめんどくさい方法になった。完全に制御できるように調整していたら、さらに1日が過ぎた。殿下の誕生日のパーティは週の半ばなので、もう時間がない状態だった。
悪戦苦闘を重ねる事、どうにか私は3本のペンを完成させた。殿下へのプレゼント、父親へのプレゼント、それと自分用である。自分用のペンで調整は完璧、その理論を適用させた残りの2本は、城がご用達にしている店に持ち込んでエンブレムを刻んでもらった。これによって、特殊な1本しかないペンができ上がる。
一応お店の人にもこの自作のペンを見てもらった。ものすごく驚かれたけれどね。インクに付ける必要もなく、すらすらと紙に文字が書けているんですもの。お店の主人はなんとか自分のところの商品にしようと私を説得しようとしてきたけれど、丁重にお断りさせてもらいましたわよ。まずは殿下と父親に使ってもらって、使い心地を確認しもらわなきゃね。王家のお墨付きが出れば、そしたら商品化も考えてもいいかも知れない。
私に断られて愕然とする商人の姿を見て、スーラが笑っていたのは印象的だったわ。私がいくら子どもだからといっても、前世で生きてきた経験があるってものよ。そんな口車に乗るものですか。
どうにか完成する私の自信作の魔石ペン。ボールペンって言おうとしたけれど、どこにもボールなんてないから仕方がない。魔石を使ってるから魔石ペン。ストレートだけど、これはこれで革新的なものよ。
しかし、困った事にこの日は誕生日パーティーの前日である。今さらながらに包みが準備できていなかったので、仕方なく、そのお店の贈り物用の箱に入れてもらった上でリボンで封をしてもらった。これで贈り物っぽく見えるわね、ヨシッ!
家に戻った私は、真っ先に父親のところへ向かう。
「お父様」
「なんだい、マリー」
「これ、プレゼントです」
私がプレゼントと言うと、父親はものすごく目を丸くして驚いた。
そして、渡された円筒の物を見て、父親はくるくるとその円筒を眺めていた。
「なんだい、これは」
「魔石を使ったペンです。これを使えばインクなしに文字が書けるんですよ。魔石の魔力をインクに変換して文字を書くんです」
父親は半信半疑だった。だが、私の説明通りに出っ張りを押して魔石を押し付けて紙に文字を書き始めると、もの凄く楽しそうな顔をしていた。
「おお、マリー。これは世紀の大発明だぞ。インクを使わずに文字を書けるなど、画期的過ぎる!」
「はい、実はこれ、明日のフィレン殿下の誕生日プレゼントにしようと思いまして、急いで用意させて頂きました」
「ほんの数日で作り上げたのか! おお、私の娘は恩恵の貯蔵庫だというのは本当なのだな……」
(うん、お父様。喜ぶのはいいけれど、言い方はどうにかなりませんこと?)
わざわざポーズを取りながら全身で喜びを表現する父親に、私はただただ呆れていた。
とりあえず、魔石ペンをプレゼントにする事には大賛成してくれた。
ちなみに、出っ張りを机で押し込んでもらうと、確かに文字が書けなかった。これにも父親は感動していた。いちいちリアクションがオーバーなんだけどね。
父親の反応で好感触を得た私は、明日の殿下の誕生日パーティーを心待ちにする事ができたのだった。
さあ、明日は勝負の日よ。
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