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第一章 転生アンマリア

第34話 な、内緒ですからね!

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 今回のお茶会は、私の魔法を見たラムによる発案で、魔法を学ぶ場となった。
 それにしてもさすがというか、ゲームの攻略対象とライバル令嬢はなかなかに魔法の扱いに長けていた。普通こういうのは、必ず一人くらいは失敗をやらかしそうなものだが、脳筋であるタンやサクラも意外と魔法に対して慎重だったのだ。くう、これがギャップというものなのね。
 とはいっても、さすがの脳筋コンビは攻撃魔法は使えなかった。どちらかといえばバフを使って筋肉で殴るといった感じだった。それでも火魔法と土魔法で強化された身体能力は馬鹿にできないものだったけれど。危うく床に大穴を開けるところだった。すぐに私が修繕したから事なきを得たけれど、やっぱり屋外でやるべきだったでしょ、これ。公爵邸の中っていうのは外からあまり見えないんだしさ。私はとにかく呆れていた。
 ラムはさすがは公爵家の娘とあって、魔法の制御はピカイチだった。むしろ私よりも制御できてるんじゃないかってくらいである。水と風の二属性使いとはいえ、両方ともかなり正確に扱えている。いやまぁ、初めて使った割に水や風の球体を作るあたり、見本を見せたとはいってもセンスありすぎでしょうに。
 最大の問題は侯爵令息のタカーだった。宰相の息子という立場ながらに、属性はまさかの火。そういえば、タカールートのライバル令嬢で、アンマリアの友人であるモモも火属性だったわね。文官で火属性って何に使うのよ、ねえ。証拠隠滅くらいにしか使えないんじゃないの?
 どう考えても文官な彼が火属性だった事に頭を抱えた私だったけれど、急に目の前がちかちかし始めた。
「ひゃっ!」
「アンマリア様、どうかされました?」
「い、いえ、何でもありませんわ」
 目に入ったものに驚いて大きな声を出したものだから、ラムたちから一斉に視線を浴びてしまった私。とっさにごまかしたものの、私の目の前のものに、つい文句を言いたくなってしまう。

『Tips』

 それが私の目の前に浮かんでいる言葉である。助言やヒントといった意味の言葉だ。私は気付かれないようにそれを軽く触る。すると、何か説明文が浮かび上がってきた。

『浄化魔法を使えるのは光、水、そして火の三属性です。
 光は呪い、水は汚れ、火は毒に対して強く浄化する事ができます。もちろん、特化しているだけであって、それ以外の浄化が行えないわけではありません。
 参考になりましたか?』

 最後の一文が煽ってくるなぁ。驚かされただけにそう思ってしまう私。確認のための文言だから、煽る意図なんてないのにね。
「うーん、浄化かぁ……」
 目の前のTipsの内容を、私はついぽろっと呟いてしまう。
「あら、アンマリア様。浄化がどうかされたんですの?」
「いえ、なんか光・水・火は浄化の力が使えるとか云々って言葉が……」
 ラムに声を掛けられて、ついTipsの内容を言ってしまう私。しかも、私とした事がミスをした事に気が付かなかったのだ。
「それは本当なのですか!?」
 ラムががばっと私両肩を掴んできた。公爵令嬢にあるまじき落ち着きのない暴挙である。
 ここで私は初めて自分がとんでもないミスをした事に気が付いた。私にしか見えない事をほいほいと話してしまったのだ。驚きで呆然としていたとはいえ、このやらかしに私は顔が青ざめた。
 私はどうするべきか母親の方を見ると、母親は悠然と構えていて、「お好きになさい」というような自信たっぷりな顔をしていた。その表情を見た私は、ラムたちに重要な事を打ち明ける事にしたのだ。
「申し訳ございませんが、これから私が言う事は、他言無用でお願い致します」
 私はそう前置きをして、ラムたちに話をした。母親たちにも聞かれる前提での話だった。
「まぁ、そのような恩恵が」
「なるほど、あれだけの高威力の魔法。その理由が頷けるというものですな」
 意外とラムたちは好意的に受け入れてくれた。ちょっと予想外だった。
「私にはその恩恵のおかげでいろいろな情報が分かるのです。火の魔法に浄化作用があるというのは初めて知りましたよ」
「それは私たちもですね。火属性って料理の火種以外だと魔物をど派手に燃やすくらいしか知らないですもの。まさかパワー系のバフも火属性だったなんて知らなかったわ」
 サキも驚いたように話している。
 そう、属性によってもバフ、デバフが特化して使えるという事が判明したのだ。知ってて使ってると思ったら、そういうわけじゃなくてたまたまだったようだ。ゲームで何となく知っているとはいっても、現実の世界としてみればそんなもの分かるわけもないのである。そんな注意書きみたいなものが出てくるわけないのだから。
「口外しない事に関しては、それは承知致しましたわ。知れ渡れば、間違いなくアンマリア様は派閥争いの材料にされてしまいますもの」
「そうですね。それくらいには重要な恩恵かと思います」
 脳筋二人もこれには頷いている。だが、タカーは絶対分かっていないような顔だった。
 そして、私が母親たちの方を見ると、母親たちも了承したように頷いていた。公爵夫人からきっちり箝口令が敷かれていたので、多分大丈夫だろう。
 はあ、これからはこういううっかりには気を付けたいものね。親に余計な負担は掛けたくないもの。それに、私が背負い込む恩恵にどのような影響が出るかも分からない。もっと慎重にならなくちゃね。
 私は強く改めて決意したのだった。
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