31 / 487
第一章 転生アンマリア
第31話 食への探求には抗えませんでした
しおりを挟む
王都に戻ってからの私は、日々の運動や勉強のノルマをこなしつつ、厨房にこもりきりになった。というのも、テッテイで手に入れたお酢を使ってある物を作るためだった。お酢以外の材料は王都でも手に入るので、父親に頼んでテッテイからお酢を定期的に送ってもらえるようにする事は怠らなかった。なにせ、お酢はテッテイでしか出回ってないもので、しかもワインのなり損ねというものだったのだ。
(トメイトは王都の市場に売ってるものね。それ以外の材料はっと……)
私は前世の記憶を引っ張り出しながら、材料を加工していく。そして、
「出来上がったわ。これぞケチャップ!」
トメイトというトマトのようなものと、オニーエという玉ねぎもどき、それに塩と砂糖、お酢を加えて煮詰めて出来上がったものは、まさしくトマトケチャップだった。
この世界にはチーズもしっかり存在しており、こうなると私が作るものは想像がつくだろう。
「じゃーん! ハンバーガーとピザよ!」
非常に簡単なものだけれども、前世の食事を作ってしまった。ハンバーガーはあまり中身を詰めてしまうと、食べる時に中身が飛び出して服を汚しかねない。なのでバンズで肉を一枚挟んだだけのシンプルなものにしておいた。この肉も通常はステーキといった肉そのものではなく、肉を細かく刻んで叩いたものに小麦粉や卵などを加えて作ったハンバーグを作っておいた。これなら柔らかいので、子どもやお年寄りでも大丈夫というわけである。
「お嬢様、これを我々に食えと?」
「そうよ。とりあえず食べてみてちょうだい」
明らかに嫌そうな顔をしている我が家の料理長に、私は笑顔でにこにこと勧めている。うん、これはもう脅しね。だって、未知の料理なんだもの。最初は誰だって怖いわよ。ちなみに私はすでに試食済み。味を確認した上で勧めているのだから、有無は言わさないわ。
そうした私の圧に屈した料理長は、恐る恐る口へとまずはピザを運んだ。すると、
「うまいっ!」
目を見開いて驚いていた。
「何ですかな、このもっちりとした食感は。温めたチーズが伸びている。それにこの調味料。むむむ……、まだ私の知らない料理があったとは、このアラブミ、一生の不覚ですぞ!」
うん、もの凄く大げさだし騒がしいわね。
「お嬢様、この調味料は一体何ですかな?」
当然のように聞いてくるアラブミ料理長。普通なら秘密にするだろうけども、この人は我が家の料理長なので、そこは惜しげもなく教える。すると、その材料についてとても驚いていた。
「酸っぱくなったワインがそのようなものに……。これは大発見ですぞ。ワインは酸っぱくなると普通は捨ててしまいますからな」
(あ、やっぱりそうなんだ。もったいないなぁ)
アラブミの証言を聞いた私は、正直そう思った。まあ酸っぱいっていうのは好みが分かれるところだし、仕方ないって感じかな。
「しかし、貴族の令嬢は普通料理などしませんし、ましてやお嬢様の体形で料理ができるとは、失礼ながら思っておりました。いやはや、人は見かけによらないものですな」
「それでしたら、料理長も太ってらっしゃるではないですか。まったく、人の事は言えませんよ」
「はははっ、確かにそうですな。これは失礼致しました」
アラブミは失礼とか言いながら大口を開けて笑っている。小ばかにされているのは分かってる私は、あえて彼を怒りはしなかった。
「こっちのハンバーガーに挟んだ肉ですけれど、これは単品として出してもいいかと思います。よろしければ作り方をお教えしますよ」
「よろしいのですかな? こういうレシピは普通は秘匿にしておくものですぞ」
私が言った言葉に、アラブミは驚いている。
「あら、私は貴族ですよ。それにあなたは料理人。どちらがレシピを持っておくのがよろしいと思いかしら?」
私が小悪魔じみた笑みを浮かべると、アラブミはぺちっと自分の額を叩いていた。
「いや、参りましたな。それではお嬢様、私めにレシピをご教授頂けますでしょうか」
この世界の料理人は基本的にプライドの高い者ばかりだけど、アラブミはちょっと違っていたみたいね。
「分かりました。ですが、あくまでも考案は私ですからね?」
私はとりあえず釘は刺しておく。広まるのはいいけれど、手柄を横取りされるのは嫌なのだ。だからこそ、念を押しておいた。救いだったのは、このアラブミはまだ柔軟な考えを持つ男だったという事だろう。
というわけで、私はアラブミにケチャップ、ハンバーグ、ピザの作り方を教えておいた。これで少しは食卓に幅が出る事だろう。お酢単品を使った料理は、もっと量が増えてからかな。
前世は社畜ではなかったから、暇にかまけて料理とかもしてたもの。あっでも、ニートでもないわよ、失礼ね。それにしても、自分の死因って何だったんだろう、まったく思い出せないわ。
そうやっていろいろと考えていると、
「あら、アンマリア、こんな所に居たのね」
「お母様、どうかされたのですか?」
母親であるフトラシアが厨房に現れた。
「大変よ、ラム・マートン公爵令嬢から、またお茶会の誘いが届いたわ。文面を見る限り、この間のバッサーシ辺境伯領に行った面々だけを集めるみたいよ」
「はい?」
急な話に、私は首を傾げたのだった。まったく、今回のお茶会の目的は何なのだろうか。まったくもってラムの意図が読み取れなかった。しかしながら、断る理由などなかったので、私はその誘いを受ける事にしたのだった。
(トメイトは王都の市場に売ってるものね。それ以外の材料はっと……)
私は前世の記憶を引っ張り出しながら、材料を加工していく。そして、
「出来上がったわ。これぞケチャップ!」
トメイトというトマトのようなものと、オニーエという玉ねぎもどき、それに塩と砂糖、お酢を加えて煮詰めて出来上がったものは、まさしくトマトケチャップだった。
この世界にはチーズもしっかり存在しており、こうなると私が作るものは想像がつくだろう。
「じゃーん! ハンバーガーとピザよ!」
非常に簡単なものだけれども、前世の食事を作ってしまった。ハンバーガーはあまり中身を詰めてしまうと、食べる時に中身が飛び出して服を汚しかねない。なのでバンズで肉を一枚挟んだだけのシンプルなものにしておいた。この肉も通常はステーキといった肉そのものではなく、肉を細かく刻んで叩いたものに小麦粉や卵などを加えて作ったハンバーグを作っておいた。これなら柔らかいので、子どもやお年寄りでも大丈夫というわけである。
「お嬢様、これを我々に食えと?」
「そうよ。とりあえず食べてみてちょうだい」
明らかに嫌そうな顔をしている我が家の料理長に、私は笑顔でにこにこと勧めている。うん、これはもう脅しね。だって、未知の料理なんだもの。最初は誰だって怖いわよ。ちなみに私はすでに試食済み。味を確認した上で勧めているのだから、有無は言わさないわ。
そうした私の圧に屈した料理長は、恐る恐る口へとまずはピザを運んだ。すると、
「うまいっ!」
目を見開いて驚いていた。
「何ですかな、このもっちりとした食感は。温めたチーズが伸びている。それにこの調味料。むむむ……、まだ私の知らない料理があったとは、このアラブミ、一生の不覚ですぞ!」
うん、もの凄く大げさだし騒がしいわね。
「お嬢様、この調味料は一体何ですかな?」
当然のように聞いてくるアラブミ料理長。普通なら秘密にするだろうけども、この人は我が家の料理長なので、そこは惜しげもなく教える。すると、その材料についてとても驚いていた。
「酸っぱくなったワインがそのようなものに……。これは大発見ですぞ。ワインは酸っぱくなると普通は捨ててしまいますからな」
(あ、やっぱりそうなんだ。もったいないなぁ)
アラブミの証言を聞いた私は、正直そう思った。まあ酸っぱいっていうのは好みが分かれるところだし、仕方ないって感じかな。
「しかし、貴族の令嬢は普通料理などしませんし、ましてやお嬢様の体形で料理ができるとは、失礼ながら思っておりました。いやはや、人は見かけによらないものですな」
「それでしたら、料理長も太ってらっしゃるではないですか。まったく、人の事は言えませんよ」
「はははっ、確かにそうですな。これは失礼致しました」
アラブミは失礼とか言いながら大口を開けて笑っている。小ばかにされているのは分かってる私は、あえて彼を怒りはしなかった。
「こっちのハンバーガーに挟んだ肉ですけれど、これは単品として出してもいいかと思います。よろしければ作り方をお教えしますよ」
「よろしいのですかな? こういうレシピは普通は秘匿にしておくものですぞ」
私が言った言葉に、アラブミは驚いている。
「あら、私は貴族ですよ。それにあなたは料理人。どちらがレシピを持っておくのがよろしいと思いかしら?」
私が小悪魔じみた笑みを浮かべると、アラブミはぺちっと自分の額を叩いていた。
「いや、参りましたな。それではお嬢様、私めにレシピをご教授頂けますでしょうか」
この世界の料理人は基本的にプライドの高い者ばかりだけど、アラブミはちょっと違っていたみたいね。
「分かりました。ですが、あくまでも考案は私ですからね?」
私はとりあえず釘は刺しておく。広まるのはいいけれど、手柄を横取りされるのは嫌なのだ。だからこそ、念を押しておいた。救いだったのは、このアラブミはまだ柔軟な考えを持つ男だったという事だろう。
というわけで、私はアラブミにケチャップ、ハンバーグ、ピザの作り方を教えておいた。これで少しは食卓に幅が出る事だろう。お酢単品を使った料理は、もっと量が増えてからかな。
前世は社畜ではなかったから、暇にかまけて料理とかもしてたもの。あっでも、ニートでもないわよ、失礼ね。それにしても、自分の死因って何だったんだろう、まったく思い出せないわ。
そうやっていろいろと考えていると、
「あら、アンマリア、こんな所に居たのね」
「お母様、どうかされたのですか?」
母親であるフトラシアが厨房に現れた。
「大変よ、ラム・マートン公爵令嬢から、またお茶会の誘いが届いたわ。文面を見る限り、この間のバッサーシ辺境伯領に行った面々だけを集めるみたいよ」
「はい?」
急な話に、私は首を傾げたのだった。まったく、今回のお茶会の目的は何なのだろうか。まったくもってラムの意図が読み取れなかった。しかしながら、断る理由などなかったので、私はその誘いを受ける事にしたのだった。
17
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
前世を思い出したのでクッキーを焼きました。〔ざまぁ〕
ラララキヲ
恋愛
侯爵令嬢ルイーゼ・ロッチは第一王子ジャスティン・パルキアディオの婚約者だった。
しかしそれは義妹カミラがジャスティンと親しくなるまでの事。
カミラとジャスティンの仲が深まった事によりルイーゼの婚約は無くなった。
ショックからルイーゼは高熱を出して寝込んだ。
高熱に浮かされたルイーゼは夢を見る。
前世の夢を……
そして前世を思い出したルイーゼは暇になった時間でお菓子作りを始めた。前世で大好きだった味を楽しむ為に。
しかしそのクッキーすら義妹カミラは盗っていく。
「これはわたくしが作った物よ!」
そう言ってカミラはルイーゼの作ったクッキーを自分が作った物としてジャスティンに出した…………──
そして、ルイーゼは幸せになる。
〈※死人が出るのでR15に〉
〈※深く考えずに上辺だけサラッと読んでいただきたい話です(;^∀^)w〉
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げました。
※女性向けHOTランキング14位入り、ありがとうございます!!
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる