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第一章 転生アンマリア
第30話 バッサーシ領からの帰還
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さてさて、残りのテッテイの滞在は、すべて辺境伯たちと同行する事になってしまった私たち。それもこれもスタンピードのせいだわ。
とはいえ、テッテイの文化というのは独特のような気がした。何と言っても鼻をつく香辛料の香り。さすがは領地の半分が高所にある場所というか、料理の味付けが独特だった。寒くなるので、味付けが薄いと味を感じなくなるという事なのかも知れない。露店の料理を味あわせてもらったら、ソースだとか香辛料だとか、とにかく味付けが濃かった。王都育ちのラムたちにはかなりきつかったようだけど、私はむしろ懐かしかった。これも前世の記憶のせいね。
(くうう……、テッテイには誘惑が多すぎるわ)
私は食欲を押さえられずにいた。なにせ前世でのおいしい食事を彷彿とさせるものばかりだったのだから。だからといって、何でもかんでも食べるわけにはいかなかった。アンマリアはとにかく太りやすいのだ。このまま食欲のままに食べてしまうようでは豚を通り越してボールになってしまう。将来痩せるためには我慢よ、我慢。
それ以外で私の興味を引いたのは、バッサーシ辺境伯の私兵の訓練だった。やっぱり体を鍛えるなら、兵士の訓練を見るのが一番参考になるものね。剣の素振りに走り込み、組み手に模擬戦と大体城の兵士たちと同じような訓練内容のようである。それでも屈強な辺境伯の私兵であれば、同じ内容でも迫力が全然違った。よく見ればサクラも混ざっている。そして、タンも混ざりたそうに目を輝かせていた。
「はーっはっはっはっ、タンには無理だな。この訓練に耐えきれるわけがない」
笑ったのはタンの父親のミノレバー男爵だった。
「お前は家での稽古にすら耐えられぬのだ。すぐに音を上げて恥をさらすのが関の山だぞ」
「ぐぅぅ……」
父親にこう言われてしまっては、タンは顔を背けて拗ねるしかなかった。おうおう、8歳児のいじける姿は可愛いのう。
(はっ、いけないいけない。思わずショタの可愛さに鼻血を噴きかけたわ)
次の瞬間、私は我に返る。この手の事では先日も大失敗をやらかしたところだ。もう二度とするものかと強く誓ったはずなのに……、ふう。私はかすかに垂れた鼻血を、ハンカチで拭っておくのだった。
訓練を見学した夜の食事の席では、ここまで聞いた事や見た事をバッサーシ辺境伯たちがまとめていた。こうやって全員が揃う場というのが食事時くらいなので、こうやって話をしているというわけである。
視察を終えた事による感想は、テッテイから国境までの設備に問題はなし、私兵の戦力は十分というものでまとめられていた。
ただ、クッケン湖で起きたスタンピードはしっかり国王に報告される事になった。一瞬で倒されたとはいっても、もし対処されていなかったらどうなっていたのか、それには誰にも分からなかった。そういう危険な事象であるために、国には発生場所と規模、それと魔物の種類が事細かくデータとして積み上げられている。それを、年に一回、魔法省の役人によってスタンピードの予測が立てられるのだ。だが、今回のスタンピードはまったく予測されたものではなかった。イレギュラーな発生として、国の膨大な記録情報の一つとなる事になったのである。これには、私たち子どもたちも、タン以外は聞き入っていた。同じ脳筋でもタンとサクラでどうしてこうも違うのかしらね。
食事を終えた私は、ラムやスーラたちを先に部屋に帰らせて、一人で厨房へとやって来た。というのも、食事で使われていた調味料が気になり過ぎるのだ。
(なんて言うかねー、前世で言うところのケチャップやらソースを思い起こさせる味なのよね)
単に食い意地が張っているというわけではない。そう、決して違う。前世の記憶があるから求めてしまうのだ。
私が厨房の扉をノックして、声を掛けてから中に入ると、ちょうど厨房では料理人たちが食事をしているところだった。
「お食事中申し訳ありません。調味料についてお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」
私が尋ねると、さすがに太っているとはいっても客人の伯爵令嬢相手なので、全員が食事の手を止めていた。
「王都では味わう事のない味付けでしたので気になった次第です。どういったものか教えて頂きたいのですが……」
私はこう言いながら、厨房の中を見回す。そして、気になるものを見つけたので、太った体を俊敏に動かしてそれに近付いた。
(これは……お酢!)
鼻につくツンとしたにおい。間違いないお酢だった。お酢を見つけた私がぐふぐふと不気味に笑っていると、料理人たちがドン引きしていた。だが、私はそれに構わず調味料のあれこれを聞いて回ったのだ。私がだいぶしつこく食いついていたので、料理人たちは渋々調味料の事を話し始めた。聞き出すまで引かないと思われたのだろうが、実際そのつもりだった。
こうして私は、滞在最終日にして欲しい情報を手に入れる事ができたのだった。
(うふふ、お酢があれば料理の幅が広がるものね。楽しみだわぁ~)
内心うっきうきの私は、お酢を購入して王都への帰路へと就いたのだった。とりあえずお酢だけでもだいぶ違ってくるのだ。
その隣ではスーラが呆れた様子で見ていたものの、私は嬉しさのあまり、それにはまったく気が付いていなかった。
とはいえ、テッテイの文化というのは独特のような気がした。何と言っても鼻をつく香辛料の香り。さすがは領地の半分が高所にある場所というか、料理の味付けが独特だった。寒くなるので、味付けが薄いと味を感じなくなるという事なのかも知れない。露店の料理を味あわせてもらったら、ソースだとか香辛料だとか、とにかく味付けが濃かった。王都育ちのラムたちにはかなりきつかったようだけど、私はむしろ懐かしかった。これも前世の記憶のせいね。
(くうう……、テッテイには誘惑が多すぎるわ)
私は食欲を押さえられずにいた。なにせ前世でのおいしい食事を彷彿とさせるものばかりだったのだから。だからといって、何でもかんでも食べるわけにはいかなかった。アンマリアはとにかく太りやすいのだ。このまま食欲のままに食べてしまうようでは豚を通り越してボールになってしまう。将来痩せるためには我慢よ、我慢。
それ以外で私の興味を引いたのは、バッサーシ辺境伯の私兵の訓練だった。やっぱり体を鍛えるなら、兵士の訓練を見るのが一番参考になるものね。剣の素振りに走り込み、組み手に模擬戦と大体城の兵士たちと同じような訓練内容のようである。それでも屈強な辺境伯の私兵であれば、同じ内容でも迫力が全然違った。よく見ればサクラも混ざっている。そして、タンも混ざりたそうに目を輝かせていた。
「はーっはっはっはっ、タンには無理だな。この訓練に耐えきれるわけがない」
笑ったのはタンの父親のミノレバー男爵だった。
「お前は家での稽古にすら耐えられぬのだ。すぐに音を上げて恥をさらすのが関の山だぞ」
「ぐぅぅ……」
父親にこう言われてしまっては、タンは顔を背けて拗ねるしかなかった。おうおう、8歳児のいじける姿は可愛いのう。
(はっ、いけないいけない。思わずショタの可愛さに鼻血を噴きかけたわ)
次の瞬間、私は我に返る。この手の事では先日も大失敗をやらかしたところだ。もう二度とするものかと強く誓ったはずなのに……、ふう。私はかすかに垂れた鼻血を、ハンカチで拭っておくのだった。
訓練を見学した夜の食事の席では、ここまで聞いた事や見た事をバッサーシ辺境伯たちがまとめていた。こうやって全員が揃う場というのが食事時くらいなので、こうやって話をしているというわけである。
視察を終えた事による感想は、テッテイから国境までの設備に問題はなし、私兵の戦力は十分というものでまとめられていた。
ただ、クッケン湖で起きたスタンピードはしっかり国王に報告される事になった。一瞬で倒されたとはいっても、もし対処されていなかったらどうなっていたのか、それには誰にも分からなかった。そういう危険な事象であるために、国には発生場所と規模、それと魔物の種類が事細かくデータとして積み上げられている。それを、年に一回、魔法省の役人によってスタンピードの予測が立てられるのだ。だが、今回のスタンピードはまったく予測されたものではなかった。イレギュラーな発生として、国の膨大な記録情報の一つとなる事になったのである。これには、私たち子どもたちも、タン以外は聞き入っていた。同じ脳筋でもタンとサクラでどうしてこうも違うのかしらね。
食事を終えた私は、ラムやスーラたちを先に部屋に帰らせて、一人で厨房へとやって来た。というのも、食事で使われていた調味料が気になり過ぎるのだ。
(なんて言うかねー、前世で言うところのケチャップやらソースを思い起こさせる味なのよね)
単に食い意地が張っているというわけではない。そう、決して違う。前世の記憶があるから求めてしまうのだ。
私が厨房の扉をノックして、声を掛けてから中に入ると、ちょうど厨房では料理人たちが食事をしているところだった。
「お食事中申し訳ありません。調味料についてお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」
私が尋ねると、さすがに太っているとはいっても客人の伯爵令嬢相手なので、全員が食事の手を止めていた。
「王都では味わう事のない味付けでしたので気になった次第です。どういったものか教えて頂きたいのですが……」
私はこう言いながら、厨房の中を見回す。そして、気になるものを見つけたので、太った体を俊敏に動かしてそれに近付いた。
(これは……お酢!)
鼻につくツンとしたにおい。間違いないお酢だった。お酢を見つけた私がぐふぐふと不気味に笑っていると、料理人たちがドン引きしていた。だが、私はそれに構わず調味料のあれこれを聞いて回ったのだ。私がだいぶしつこく食いついていたので、料理人たちは渋々調味料の事を話し始めた。聞き出すまで引かないと思われたのだろうが、実際そのつもりだった。
こうして私は、滞在最終日にして欲しい情報を手に入れる事ができたのだった。
(うふふ、お酢があれば料理の幅が広がるものね。楽しみだわぁ~)
内心うっきうきの私は、お酢を購入して王都への帰路へと就いたのだった。とりあえずお酢だけでもだいぶ違ってくるのだ。
その隣ではスーラが呆れた様子で見ていたものの、私は嬉しさのあまり、それにはまったく気が付いていなかった。
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