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第一章 転生アンマリア
第28話 お願いだから秘密でね
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「まずいわ、あれはスタンピードよ!」
サクラが叫ぶ。
スタンピード。集団群衆による恐怖行動の事で、一般的にこういうファンタジーの世界では魔物の大量発生による集団襲撃の事を指す言葉だ。どちらも一斉に一方向に向かって駆け出す事からこう呼ばれる。
今回のスタンピードは湖の上で発生している事から、水棲型の魔物が大量に発生するという事だろう。ならば、私の取る行動はひとつだ。
その間にもサクラは更衣室から武器を取って来ようとしている。このままじゃ湖に飛び込みかねない。他にも攻略対象とライバル令嬢も居る。みんなを危険にさらさせるわけにはいかない。だから、私がここで魔物をすべて打ち倒すのよ。突破されればテッテイに向かって移動を始めるはずだもの。そうなれば、いくらバッサーシ辺境伯の私兵が強いとしても、被害は甚大になりかねない。私は意を決した。
私はこういう時のために魔法の練習しておいたんだからね。さぁ、魔物は栓狩り(※)させてもらうわ!
※栓狩り(MMOなどにおけるMOBの出現ポイントで待ち構えて、出現と同時に倒してしまう狩り方。状況次第では迷惑行為なので要注意)
まずは周囲の確認を行うために、風魔法を使って上空に浮く。
「なっ!?」
タンやタカー、それにラムが驚いている。そりゃ、8歳児が飛翔魔法を使えるわけないものね。
私はその声を無視して高く上がると、湖に誰も居ない事を確認する。となれば、ここで使う魔法はあれね。
「サンダーウェイヴ!」
そう叫んだ私の手の先から、雷がバリバリという音を立てながら湖面を伝わって黒いもやへと突進していく。これは戦闘パートで主人公アンマリアが使う攻撃魔法の一つだ。魔法力と知力が高いとダメージが跳ね上がる特性があって、特に水属性の相手には威力は絶大だった。ここは湖だからこそ、この雷の魔法になったというわけ。
私が放った雷が黒いもやにぶつかると、ドカーンというなんともありきたりな音を立てて大爆発を起こした。その光景に、剣を持ってきたサクラが呆然として立ち尽くしていた。そして、この大爆発で打ち上げられた湖の水は高い水柱となり、上空に浮かぶ私にも容赦なく降り注いだ。よく見ると、発生したばかりの魔物も派手に吹き上げられており、いくらかが湖面に叩きつけられていた。ついでに黒いもやは消え去ってしまっていて、これで魔物が新たに発生する事はないだろうという事だけは分かった。
「え……、アンマリア……様?!」
剣を持って今にも抜こうとしていたサクラが、表情を引きつらせている。
「ふぅ、これで一安心ね」
私は額の汗を拭うと、湖のほとりに舞い降りた。
「みんな、大丈夫だったかしら」
「は、はい。おかげさまでなんともありません」
私が問い掛けると、ラムが驚いた表情で答えた。うーん、目の前でやり過ぎちゃったかしらね。
「な、な、な、何なんだ、あれは……」
タンが私を指差しながら震えている。あれだけの魔法を見せた後じゃそうなるか。
「魔法の練習をしてきた成果です。必死に頑張りましたからね」
54kgの巨体から繰り出される笑顔だが、まだ8歳児なので見られるものでよかったわ。
「とりあえずですけれど、みなさんに口裏合わせをしてもらいたいのです」
「はい、それはどのような事でしょうか」
私が人差し指を立てて真剣な表情をすれば、サクラとラムの二人がすぐに乗ってきてくれた。男二人はまだ躊躇している。スーラたち使用人たちの方がノリがいいぞ、おい。
「今の一撃、私がした事ではなく、通りすがりの冒険者の仕業にしておいて欲しいのです。さすがに8歳の私がそんな事をしたと知れたら、どれだけ面倒な事になるのか想像がつきますからね」
「確かに、それは分かりますね。そうなってしまっては、こうやって気軽に遊ぶなんて事ができなくなりますわ。わたくしは協力致します」
「そ、そうね。それに変な疑いを掛けられかねないものね」
ラムとサクラがそう言いながら、私の言い分に乗ってきてくれた。うん、体が震えているけれどね。そりゃ怖いわよね。魔物もだけど、あのとんでも魔法を使う私の事もね……。
男子二人を説き伏せるのは少し時間が掛かったけれど、兵士たちが駆けつけるまでに時間があったので、何とか説得は間に合った。なので、使用人を含めた私たち十人は、たまたま通りすがった冒険者が雷の魔法でスタンピードが起こる前に黒いもやを薙ぎ払ったと、兵士たちにはそう証言しておいた。
実際には少しだけ魔物が発生していたものの、それはすべて湖に浮いていた。それを兵士たちはボートを出して回収していた。多くは水鳥や魚の魔物だったのだが、思いも寄らぬ魔物まで居た事で後々肝を冷やす事になったのだけど、何事も起きないうちに倒せてよかった。
それにしても、せっかく水着を買って着替えたというのに、泳ぐ間もなくそのまま辺境伯邸にとんぼ返りとなってしまった。さらにはスタンピードが起きた事で湖に私たちだけで近付く事ができなくなってしまった。ああ、残念。
そして、その日の夕食はそのスタンピードで倒された魚や水鳥を使った料理が振る舞われた。スタンピードの魔物をすぐに料理に出すとは、さすがは辺境伯領。並々ならぬ図太い神経の持ち主たちだったようだ。
サクラが叫ぶ。
スタンピード。集団群衆による恐怖行動の事で、一般的にこういうファンタジーの世界では魔物の大量発生による集団襲撃の事を指す言葉だ。どちらも一斉に一方向に向かって駆け出す事からこう呼ばれる。
今回のスタンピードは湖の上で発生している事から、水棲型の魔物が大量に発生するという事だろう。ならば、私の取る行動はひとつだ。
その間にもサクラは更衣室から武器を取って来ようとしている。このままじゃ湖に飛び込みかねない。他にも攻略対象とライバル令嬢も居る。みんなを危険にさらさせるわけにはいかない。だから、私がここで魔物をすべて打ち倒すのよ。突破されればテッテイに向かって移動を始めるはずだもの。そうなれば、いくらバッサーシ辺境伯の私兵が強いとしても、被害は甚大になりかねない。私は意を決した。
私はこういう時のために魔法の練習しておいたんだからね。さぁ、魔物は栓狩り(※)させてもらうわ!
※栓狩り(MMOなどにおけるMOBの出現ポイントで待ち構えて、出現と同時に倒してしまう狩り方。状況次第では迷惑行為なので要注意)
まずは周囲の確認を行うために、風魔法を使って上空に浮く。
「なっ!?」
タンやタカー、それにラムが驚いている。そりゃ、8歳児が飛翔魔法を使えるわけないものね。
私はその声を無視して高く上がると、湖に誰も居ない事を確認する。となれば、ここで使う魔法はあれね。
「サンダーウェイヴ!」
そう叫んだ私の手の先から、雷がバリバリという音を立てながら湖面を伝わって黒いもやへと突進していく。これは戦闘パートで主人公アンマリアが使う攻撃魔法の一つだ。魔法力と知力が高いとダメージが跳ね上がる特性があって、特に水属性の相手には威力は絶大だった。ここは湖だからこそ、この雷の魔法になったというわけ。
私が放った雷が黒いもやにぶつかると、ドカーンというなんともありきたりな音を立てて大爆発を起こした。その光景に、剣を持ってきたサクラが呆然として立ち尽くしていた。そして、この大爆発で打ち上げられた湖の水は高い水柱となり、上空に浮かぶ私にも容赦なく降り注いだ。よく見ると、発生したばかりの魔物も派手に吹き上げられており、いくらかが湖面に叩きつけられていた。ついでに黒いもやは消え去ってしまっていて、これで魔物が新たに発生する事はないだろうという事だけは分かった。
「え……、アンマリア……様?!」
剣を持って今にも抜こうとしていたサクラが、表情を引きつらせている。
「ふぅ、これで一安心ね」
私は額の汗を拭うと、湖のほとりに舞い降りた。
「みんな、大丈夫だったかしら」
「は、はい。おかげさまでなんともありません」
私が問い掛けると、ラムが驚いた表情で答えた。うーん、目の前でやり過ぎちゃったかしらね。
「な、な、な、何なんだ、あれは……」
タンが私を指差しながら震えている。あれだけの魔法を見せた後じゃそうなるか。
「魔法の練習をしてきた成果です。必死に頑張りましたからね」
54kgの巨体から繰り出される笑顔だが、まだ8歳児なので見られるものでよかったわ。
「とりあえずですけれど、みなさんに口裏合わせをしてもらいたいのです」
「はい、それはどのような事でしょうか」
私が人差し指を立てて真剣な表情をすれば、サクラとラムの二人がすぐに乗ってきてくれた。男二人はまだ躊躇している。スーラたち使用人たちの方がノリがいいぞ、おい。
「今の一撃、私がした事ではなく、通りすがりの冒険者の仕業にしておいて欲しいのです。さすがに8歳の私がそんな事をしたと知れたら、どれだけ面倒な事になるのか想像がつきますからね」
「確かに、それは分かりますね。そうなってしまっては、こうやって気軽に遊ぶなんて事ができなくなりますわ。わたくしは協力致します」
「そ、そうね。それに変な疑いを掛けられかねないものね」
ラムとサクラがそう言いながら、私の言い分に乗ってきてくれた。うん、体が震えているけれどね。そりゃ怖いわよね。魔物もだけど、あのとんでも魔法を使う私の事もね……。
男子二人を説き伏せるのは少し時間が掛かったけれど、兵士たちが駆けつけるまでに時間があったので、何とか説得は間に合った。なので、使用人を含めた私たち十人は、たまたま通りすがった冒険者が雷の魔法でスタンピードが起こる前に黒いもやを薙ぎ払ったと、兵士たちにはそう証言しておいた。
実際には少しだけ魔物が発生していたものの、それはすべて湖に浮いていた。それを兵士たちはボートを出して回収していた。多くは水鳥や魚の魔物だったのだが、思いも寄らぬ魔物まで居た事で後々肝を冷やす事になったのだけど、何事も起きないうちに倒せてよかった。
それにしても、せっかく水着を買って着替えたというのに、泳ぐ間もなくそのまま辺境伯邸にとんぼ返りとなってしまった。さらにはスタンピードが起きた事で湖に私たちだけで近付く事ができなくなってしまった。ああ、残念。
そして、その日の夕食はそのスタンピードで倒された魚や水鳥を使った料理が振る舞われた。スタンピードの魔物をすぐに料理に出すとは、さすがは辺境伯領。並々ならぬ図太い神経の持ち主たちだったようだ。
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