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第一章 転生アンマリア

第18話 子豚と子ウサギ

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 お城にやって来た私たちファッティ家。お付きの使用人たちも伴っての登城よ。
 私はドスンドスンという重たい足音を響かせながら階段を昇っていく。8歳という年齢もあるけれど、体重を考えればヒールなんて履けないわ。床に穴は開くし、間違いなくヒールは折れてしまう。足も痛めちゃうから踵の低いパンプスでの入場するしかないじゃない。
 私たちファッティ家は基本的に少々太り気味である。私は恩恵太りもあって極端だけど、両親ともに健康的なデブとなっている。デブとはいってもぽっちゃりくらいの可愛いものだ。両親ともにこんな体型というのは体質のせいらしく、ファッティ家は代々太りやすい体質なのだという。ゲームだとアンマリアの事しか語られなかったけれど、まさかご先祖様から代々そういう体質だったとは思わなかったわ。
 私たちが会場となるパーティーホールに入ると、一斉にすでに来ていた貴族たちの視線が集中する。この部屋には使用人は入れないので、スーラたちは使用人たち用の部屋の方に移動してもらっている。なので、必然的にまん丸いファッティ家の面々がもの凄く目立ってしまっていた。私、これだけ注目されるの苦手なんだけどね。
 だけども、パーティーホールでは私たち以上に注目を集めている人物が二人居た。
 一人はもちろん公爵令嬢であるラム・マートン。公爵家に取り入ろうとする貴族は多いので、当然ながら多くの人物に囲まれていた。その中でも私ほどではないにしても太っているラムは、とにかく目立ったのである。
 もう一人はサキ・テトリバー男爵令嬢だ。洗礼式で『神の愛し子』なる恩恵を授かった彼女は、これまた取り入ろうとする貴族たちに囲まれている。父親はしめしめといった感じでご機嫌取りに奔走しているが、サキ自身はものすごく戸惑っている。シカがない男爵令嬢のサキには、馴染みのない光景だったからだろう。
 というわけで、私は両親に断りを入れてから、ラムとサキの二人と顔を合わせに行く。まずは目上から挨拶なのでラム・マートン公爵令嬢からだわ。
「ご機嫌麗しゅうございます、ラム・マートン公爵令嬢。私はファッティ伯爵家のアンマリア・ファッティと申します。先日のお茶会以来でございますね」
 私はカーテシーを決めて挨拶をする。すると、ラムの方もぺこりと頭を下げてアンマリアに挨拶をしてきた。
「お久しぶりでございます、アンマリア様。お体のお加減はもう大丈夫なのですか?」
 ラムから掛けられた言葉に、私は首を捻った。私にはラムの前で体調不良を起こした事などないはず。だとしたらなぜ……?
 気にはなるものの、私は動揺を隠しながら、
「ええ、体の調子でしたら問題ございません。健康第一がモットーですもの」
 とりあえず元気に振舞っておいた。
「そうですか。先日鼻血を出して倒れたとお聞きしましたので……。回復されたようで何よりですわ」
(あー、謁見の間で倒れた事が耳に入ってるわけか。黙ってもらえるように頼んだ覚えもないから、広まっていても仕方ないわね……)
 ラムがにこりとした営業用の微笑みで話しているので、私もそれとなく心のこもっていない笑顔で対応する。嘘でも笑っておけばとりあえず印象はいいはず、ヨシッ!
 ラムと一言二言言葉を交わした私は、続けてサキに声を掛けるために移動する。ラムの時は向こうが気が付いて人を払ってくれたので簡単に挨拶ができたものの、さすがにサキとはこれというほどの振興があるわけではなかった。一緒の場に居た事は確かにあるのだけど、そんなに言葉を交わしたわけではないものね。謁見の間の時だって、私が意外とあっさり鼻血を出して倒れたものだから、交流なんてする間もなかったもの。
 そんなわけだから、私はテトリバー男爵たちを取り囲む貴族を一生懸命にかき分けて進んで……いかなかった。
「サキ・テトリバー男爵令嬢! 私、アンマリア・ファッティ伯爵令嬢ですわ。ちょっとお話よろしいですかしら?」
 貴族たちの後ろから、大声で呼び掛ける。すると、わらわらと集まっていた貴族たちがぴたりと止まり、そそくさとサキへの道を開いたのだった。伯爵令嬢に道を開けるという事は、群れていたのはほぼ男爵や子爵という事なのだろう。私に何かがあれば、伯爵である父親から咎められる可能性があると怯えたわけである。
 ともかく、私はその開いた道を歩いて、サキの元へと歩み寄る。
「こんにちは、サキ・テトリバー男爵令嬢。ご機嫌いかがでしょうか」
 私は年不相応な膨らんだ顔で笑顔を作る。だが、サキはどういう事かもの凄く怯えている。私の体格が威圧的になっているのだろうか。しかし、こればかりは私の意思ではどうにもできないものなので勘弁してほしい。
 それにしても、この目の前の弱気な令嬢が、断罪ルートに進んだ時にあれだけ遠慮なく私を断罪できるのだろうかと、正直疑問に思ってしまう。
「あ、あの、アンマリア様。お体調のほどはいかが、でしょうか……」
 ラムにも問われた体調を、サキにまで尋ねられてしまった。まあ、こっちは目の前で見てるから仕方ないわね。
「ええ、見ての通り、完全復活よ。それよりも、今日は覚悟しておいた方がよろしいのではなくて? あれから一週間ほど経ってますから、おそらく今日の夜会は……」
 私がそう言いかけた時だった。あれだけ騒がしかった会場が、一気に静まり返ったのだ。
 私は直感した。いよいよ大々的な発表が行われるのだと。
 唇を固く結んで警戒する私の目の前で、男爵令嬢であるサキはとても不安そうに両手を組んで震えていた。
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