上 下
7 / 485
第一章 転生アンマリア

第7話 こうなったら流れに乗るしかない

しおりを挟む
「はああああああぁぁぁぁぁぁ……」
 家に戻った私は、盛大なため息を吐いている。
 なぜかって? 実の父親から「絶対痩せるな!」と言われたのだ。乙女にそれって死刑宣告も同然よ?
 というわけで、私は絶賛ふて腐れ中なのだ。父親どころか、侍女のスーラですら部屋には入れさせない。そのくらいにショックは大きいのよ。ベッドにうつぶせに倒れ込むと、ベッドの上で足をばたばたとさせた。
 しばらくの間そうしていた私だったけど、さすがに疲れてくるりと仰向けになる。
(こうなって来たら、本当は嫌だったけれど、ゲームのおさらいをしておくかな)
 というわけで私は、ご飯そっちのけで『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』の各シナリオを思い出して書き出す事にした。何と言っても、このゲームはヒロインが死ぬバッドエンドがあるのである。そのポイントを忘れてしまってはいけないのだ。せっかくなら寿命まで楽しく生きたいじゃないの。

 この乙女ゲーム『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』は、私こと『アンマリア・ファッティ』が痩せながら攻略対象と恋仲になるという恋愛シミュレーションゲームだ。
 この手のゲームとしては珍しく、攻略対象は4+1という少なさを誇る。ただ、エンディングの種類は豊富なので、これはこれでやり込めるというものだ。
 ただ、このゲームで特徴的なのは、タイトルからも分かる通り、体重がカギを握っているのである。アンマリアのスタート時点での体重は120kg。これを減らしながら攻略対象を落としていくのである。つまり脂肪と心を落とすというゲームなのだ。

 攻略対象の一人目は、王道の王太子。サーロイン王国の第一王子であるフィレン・サーロインだ。この時にライバルとなるのは、サキ・テトリバー男爵令嬢。洗礼式で一番目立った恩恵を受けていた彼女だ。
 ちなみにこのフィレンの攻略可能体重は55kg以下という最軽量ゾーン。ちなみにどんなに頑張っても40kgまでしか落とせない。まぁリアルでも痩せすぎはかえって危険だから仕方がない。

 二人目は、タン・ミノレバー男爵令息。家は代々王国の騎士という根っからの脳筋お坊ちゃまだ。この時のライバルは、サクラ・バッサーシ辺境伯令嬢。こっちも脳筋の家系で、サクラも例に漏れず脳筋である。脳筋同士が結婚して家は大丈夫なのか気になるところである。まぁきっと、力こそパワーってやつで乗り切るのかもね。
 攻略可能体重は55~70kg。筋肉が増えるから二人とも痩せているのに体重はあるのである。しかし、サクラはこの年齢ですでに腕が筋肉バッキバキだったのは驚いたわね。

 三人目は、タカー・ブロック侯爵令息。こちらは国の中枢を担う重役を代々輩出してきた分かりやすい文官の家系だ。彼の時のライバルはモモ・ハーツ子爵令嬢。私ことアンマリアの友人の一人で、実はもう何度か会っている。
 攻略可能体重は70~85kgと重め。二人目のタンと同じで、攻略方針は分かりやすいので、問題は体重調整だけという攻略のしやすさではトップクラスだ。なにせライバルのモモはお邪魔虫ではなく、ルートが確定すると応援に回ってくれるから心強い味方なのだから。

 最初から攻略できる四人目は、カービル・バラロース伯爵令息。バラロー『ズ』じゃなくてバラロー『ス』。可もなく不可もなく、文官から商家までこなせる幅広い才能の持ち主。ライバルは洗礼式で私と一緒に体格で目立っていたラム・マートン公爵令嬢。
 実はカービルは大変なママっ子で、その母親がふくよかだった事からデブ専という特徴がある。だが、太っていればいいというものではなく、体重の範囲は85~100kgである。だが、体重では楽だが、タカーのように賢さに振っていればいいというわけではない。なにせライバルが公爵令嬢であり、唯一の婚約者関係にあるからだ。その家同士の約束事をひっくり返すので、攻略難易度は高めなのである。まあ、転生先リアルでそれをやるわけにはいかないので、この時点で私の未来ではただの友人関係という形で終わらせてもらおうかしら。

 で、隠しキャラはフィレン殿下の弟であるリブロ・サーロイン第二王子。1歳年下なので、出てくるのはゲームの二年目に入ってからで、他のキャラと同じように三年目は個別ルートに入るので、実質攻略に費やせるのは二年目の一年間だけである。体重は問わないし、ライバル令嬢は居ないけれど、最大の問題はその遭遇率の悪さ。とにかく会わない。学年が1個違うだけでなんでこんなに会わないの。ただ、フィレン絡みのイベントでは高確率で会えるので、それが救いだったかしらね。

「ふぅ、攻略対象とライバル令嬢の基本情報はこんなところかしら。三年目に入ると固定ルートになっちゃうから、そこまでの二年間で狙う相手に見合った体重にならなきゃね」
 この時点でカービル・バラロースだけが将来の相手から消えた。順調にいけば、このあと10歳の時点で婚約者となるはずである。邪魔する気なんてないからそのまま放っておきましょう。
「お父様は私の恩恵から言って、おそらくは王太子妃の座を狙わせるはず。だったらやっぱりフィレン様かしらね。それか、ライバルが居ないリブロ様かなぁ。私は面食いじゃないから、顔だけで選ぶような真似はしたくないわね」
 私はあれこれ考えながら、時間を忘れてそのままゲームのまとめを続けるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

処理中です...