ご胞子します!マイコニメイド

未羊

文字の大きさ
上 下
78 / 84

第78話 ダンスと会話

しおりを挟む
 建国祭というきらびやかな舞台の中で、モエはイジスと踊っている。
 ダンスなんてしたこともないというのに、イジスのリードでモエは問題なく踊れていた。
(体が勝手に動く……。なんだろう、すごく踊りやすい)
 足元が気になるようでまったく気にならない。イジスに合わせていれば、自然と体が動いてしまう。
 子爵領の中で閉じこもっていると思われたイジスだが、ダンスのセンスはかなりあるようだった。
 そのモエとイジスの姿を見守るスピアノは、なんだか納得したような表情でそのダンスを見ている。
「はあ、いていて思いましたけれど、やっぱり敵いませんでしたわね」
 スピアノからすれば、ぽっと出のどこの馬の骨とも分からない女性に意中の人を盗られたようなものだ。しかし、イジスの関心は完全にモエに向いていた。関心が高いからこそすぐに悟ってしまったのだ。
「……また婚約者探しを始めなければなりませんわね」
 スピアノは給仕が持ってきた飲み物をぐいっと飲み干していた。
 スピアノは伯爵令嬢、イジスは子爵令息、モエにいたってはマイコニドで平民ですらない。スピアノがその気になれば、いくらでも仲は引き裂けそうなものである。
 興味を持って会いに行ったその日、スピアノは最初からすべてを察していた。だからこそ、自分に振り向かせようとも考えた。でも、最初から入る余地などなかったのだ。
 周りにはたくさんの貴族がいるというのに、完全に二人きりの世界である。
 二人のダンスが終わると、スピアノは待ってましたとばかりに近付いていく。そして、イジスに声を掛けるかと思いきや、予想外の行動に出た。
「モエさん、わたくしと踊って下さいますかしら」
「えっ、スピアノ様とですか?」
 スピアノは、イジスではなくモエにダンスを申し込んできたのだ。
「ええ、一応殿方の作法も知っておりますのでね。それに、モエさんとは一度お話をしておきたいのですわ」
 スピアノからの提案に、モエはイジスの顔をじっと見つめている。
 イジスは男性からの申し込みだったら断るつもりだったが、スピアノは伯爵令嬢だ。一応爵位上は格上だし、女性である。
「モエ、せっかくだから踊っておいで」
「で、でも……」
「私のことなら心配ない。スピアノ嬢なら大丈夫だと思うしな」
 イジスはちらりとスピアノに視線を送る。その視線に気が付いたスピアノは、ゆっくりと意識的にまぶたを一度閉じていた。
「では、私は父上のところに向かうとするよ。こういう席だからあいさつ回りをしないといけないからな。スピアノ嬢、モエのことを頼んだぞ」
「承知致しましたわ」
 イジスが去っていく。モエは不安を感じるものの、スピアノが手をしっかり握って離しそうになかった。
「それでは、モエさん、お相手をよろしくお願い致しますわ」
「は、はい……」
 とても断る雰囲気になかったので、モエは仕方なくスピアノとダンスを始めることになる。
 いざ踊ってみると、イジスとあまり差がない感じで踊りやすかった。
 ところが、踊りながらスピアノからいろいろと話しかけられる。
「モエさんってば、頭の上はそのようになっていましたのね」
「あ、ええ、はい」
 正直が言えないので、適当な返事をしておくモエである。
「ふふふっ、聞いたことありますわよ、その頭の飾り」
「えっ」
 次のスピアノの言葉に、モエはつい固まってしまう。あわやスピアノの足を踏んでしまいそうになる。
「わっとと……」
 どうにか体勢を立て直して踊りを続ける。
「確か、マイコニドでしたわよね。でも、これだけ近くにいても何の問題もないので、とても不思議ですわね」
 にこにこと話すスピアノの様子に、モエは動揺しまくりである。それでも足を踏まないようにとダンスに集中している。
「モエさんといると、不思議と気持ちが落ち着きますの。本当に不思議な方ですわ。社交界から遠ざかっていたイジス様の心まで射止められるだなんて」
 スピアノの笑顔は崩れない。真っすぐ自分を見つめてくるので、モエは段々と恥ずかしくなってくる。
「あっ!」
 さすがに動揺が限界を超えたらしく、モエはついにスピアノの足を思い切り踏んでしまう。
「ももも、申し訳、ございません……」
「ふふっ、このくらいは平気ですわよ。かかとではございませんでしたからね」
 笑顔が崩れないスピアノ。それどころがダンスは継続していた。なんという伯爵令嬢なのだろうか。
 足を踏まれた後も、スピアノは変わらずモエに話し掛けてくる。
「モエさんが羨ましいですわね。あれだけ真っすぐに好意を持って下さる殿方というのは珍しいことですわよ」
「そ、そうなのですか?」
「ええ、そうですとも」
 不思議そうな顔をするモエに、スピアノはずっと笑顔を向け続けている。
「もし何かございましたら、わたくしのジルニテ領までいらっしゃって下さいな。モエさんなら歓迎致しますわよ」
「はい。何かあった時は頼らさせて頂きますね」
 モエとスピアノは思った以上に仲良くなっているようだった。
「ふふっ、踊り疲れましたので、ちょっと壁際にでも寄りませんこと?」
「そうですね。私、料理を取ってきますね」
 モエはスピアノと一緒に、会場の中央から離れていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...