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第76話 パーティー会場
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いよいよ始まる建国祭のパーティー。
モエも頭上の赤い笠をさらした状態で会場へと入っていく。
強い後ろ盾を得たとはいえ、外部の人間との接触はまだまだ怖い。モエはイジスの後ろにべったりとくっついている。
そのべったり具合のせいで、イジスは顔が赤くなっている。なにせ腕にもろに胸部が接触している。女性との接触に慣れていないイジスには刺激が強いというものだ。
なんとも初々しい雰囲気を漂わせる二人とガーティス子爵。揃って会場入りするとイジスとモエは会場の華やかさに圧倒されてしまう。さすがは王家主催のパーティーというものだ。
「これがパーティーというものなのですか。人が多すぎます……」
「モエ、無理しなくていいからな。気分が悪くなったら言ってくれ」
「は、はい」
イジスの呼び掛けに、驚いたように反応するモエ。そのくらいには会場の雰囲気に圧倒されているのだ。
「あら、イジス様。お約束通りにいらっしゃったのですね」
「やあ、ジルニテ伯爵令嬢」
「いやですわ、イジス様。スピアノとお呼び下さいませ」
会場入りするや否や、スピアノに見つかってしまうイジスたち。早速声を掛けられて、モエは慌てたようにイジスの後ろに隠れてしまう。
ところが、そんなことくらいでスピアノが見逃すはずもなかった。
「モエさんでしたわね、隠れても無駄ですわよ」
迷うことなくモエに呼び掛けてくる。モエは観念したのか、おずおずとイジスの後ろから姿を見せていた。
「まぁ、きれいですわね。それにしてもその頭、キノコの笠のようですわね」
「う……」
じろじろと見てくるスピアノに指摘されると、モエは思い切り声を詰まらせていた。
スピアノがモエにかなり近づいた時だった。スピアノの鼻がぴくりと動いて、動きを止める。
「……モエさん。あなた、マイコニドですのね」
ぎくりという音が聞こえるくらいに、モエは動揺を見せる。そんなあっさり見破られるものなのだろうか。
「心配なさらないで。今日初めて会った人なら騒ぐでしょうが、わたくしは何度もお会いしております。マイコニドだったとしても、害がないことくらい認識しておりますわ」
「スピアノ様……」
スピアノが耳打ちで伝えてきた言葉に、モエはつい感動してしまう。
ここまでの印象から、ただ強引なだけな令嬢かと思ったものの、意外と柔軟な思考の持ち主だったようだ。
「本当に不思議な人ですわね。近くにいるととても安心ができますわ」
目を閉じながら、スピアノはモエに話し掛けている。ところが、カッと目を見開くとモエにこう告げる。
「私のライバルとして相応しいですわね。どちらがイジス様の妻となれるか、勝負ですわ」
「へ? 勝負?」
急なスピアノの宣戦布告に、モエは目を白黒とさせている。
「ですが、今日はめでたい建国祭の日。今日のところはおとなしく引きますわ。建国祭が終わった後からが勝負ですわよ、逃げませんことね」
「ははは、お手柔らかにお願いします」
モエに向けて指を指してくるものだから、眉をハの字に曲げながらも笑顔を作るモエである。
目の前で行われるやり取りに、ガーティス子爵は微笑ましく笑い、イジスは頭を抱えている。
「どうするのだ、イジス。これだけ熱烈にアピールされているのだ。いい加減に結論を出したらどうだ?」
「父上、からかうのはよして下さいよ。私は結婚など考えていませんからね」
「それは困るというものだ。私も長らくお前を社交の場に出してこなかったが、今となっては後悔している。さっさと身を固めて私を安心させてくれ」
「ぐぬう……」
父親の言い分に、どういうわけかまったく言い返せないイジスだった。
モエと言葉を交わして去っていくスピアノを見ながら、イジスはいま一度自分の気持ちと向き合わなければならないと感じている。
モエに対しては一目惚れであるものの、どこかでマイコニドだからと突き放しているのではないか。イジスの中で、もやもやとした気持ちが強まっていった。
「モエ」
「なんでしょうか、イジス様」
なにか釈然としなくなってきたイジスは、モエに声を掛ける。
「私と一緒に踊ってくれないか」
「はやや?」
イジスが突然ダンスの申し込みをしてくるものだから、モエはどう反応していいのか分からずに意味不明な言葉を発して固まっている。
「戸惑うのは分かる。だが、今の私は君と踊らずにはいられなさそうだ。踊りは私に任せてくれ、頼む、踊ってくれ」
イジスは必死だった。その表情には、モエは戸惑いっぱなしである。
「い、いいのですか? 私、まったくダンスの経験がないんですけど」
「構わない。私がどうにかする」
断る前提で確認するように問い掛けるモエなのだが、イジスはきっぱり言い切ってきた。どうあがいてもモエと踊るつもりらしい。
後ろでは父親のガーティス子爵が必死に笑いを堪えているが、今はそういう時ではないので口を挟む。
「イジス、焦るのはよくないな。まだ王族が登場なさっていない。ダンスを踊るのはマナー違反というものだぞ」
「ぐっ、そうだった……」
父親の苦言に、顔をしかめるイジス。だが、これで諦めるイジスではなかった。
「頼む、今日は私と踊ってくれ」
改めてモエにダンスの申し込みをするイジス。しばらくモエは目を泳がせて迷ったものの、熱意に押されてその手を取ったのだった。
それと同時に、会場内の雰囲気ががらりと変わる。
そう、いよいよ王族の登場するのだ。
モエも頭上の赤い笠をさらした状態で会場へと入っていく。
強い後ろ盾を得たとはいえ、外部の人間との接触はまだまだ怖い。モエはイジスの後ろにべったりとくっついている。
そのべったり具合のせいで、イジスは顔が赤くなっている。なにせ腕にもろに胸部が接触している。女性との接触に慣れていないイジスには刺激が強いというものだ。
なんとも初々しい雰囲気を漂わせる二人とガーティス子爵。揃って会場入りするとイジスとモエは会場の華やかさに圧倒されてしまう。さすがは王家主催のパーティーというものだ。
「これがパーティーというものなのですか。人が多すぎます……」
「モエ、無理しなくていいからな。気分が悪くなったら言ってくれ」
「は、はい」
イジスの呼び掛けに、驚いたように反応するモエ。そのくらいには会場の雰囲気に圧倒されているのだ。
「あら、イジス様。お約束通りにいらっしゃったのですね」
「やあ、ジルニテ伯爵令嬢」
「いやですわ、イジス様。スピアノとお呼び下さいませ」
会場入りするや否や、スピアノに見つかってしまうイジスたち。早速声を掛けられて、モエは慌てたようにイジスの後ろに隠れてしまう。
ところが、そんなことくらいでスピアノが見逃すはずもなかった。
「モエさんでしたわね、隠れても無駄ですわよ」
迷うことなくモエに呼び掛けてくる。モエは観念したのか、おずおずとイジスの後ろから姿を見せていた。
「まぁ、きれいですわね。それにしてもその頭、キノコの笠のようですわね」
「う……」
じろじろと見てくるスピアノに指摘されると、モエは思い切り声を詰まらせていた。
スピアノがモエにかなり近づいた時だった。スピアノの鼻がぴくりと動いて、動きを止める。
「……モエさん。あなた、マイコニドですのね」
ぎくりという音が聞こえるくらいに、モエは動揺を見せる。そんなあっさり見破られるものなのだろうか。
「心配なさらないで。今日初めて会った人なら騒ぐでしょうが、わたくしは何度もお会いしております。マイコニドだったとしても、害がないことくらい認識しておりますわ」
「スピアノ様……」
スピアノが耳打ちで伝えてきた言葉に、モエはつい感動してしまう。
ここまでの印象から、ただ強引なだけな令嬢かと思ったものの、意外と柔軟な思考の持ち主だったようだ。
「本当に不思議な人ですわね。近くにいるととても安心ができますわ」
目を閉じながら、スピアノはモエに話し掛けている。ところが、カッと目を見開くとモエにこう告げる。
「私のライバルとして相応しいですわね。どちらがイジス様の妻となれるか、勝負ですわ」
「へ? 勝負?」
急なスピアノの宣戦布告に、モエは目を白黒とさせている。
「ですが、今日はめでたい建国祭の日。今日のところはおとなしく引きますわ。建国祭が終わった後からが勝負ですわよ、逃げませんことね」
「ははは、お手柔らかにお願いします」
モエに向けて指を指してくるものだから、眉をハの字に曲げながらも笑顔を作るモエである。
目の前で行われるやり取りに、ガーティス子爵は微笑ましく笑い、イジスは頭を抱えている。
「どうするのだ、イジス。これだけ熱烈にアピールされているのだ。いい加減に結論を出したらどうだ?」
「父上、からかうのはよして下さいよ。私は結婚など考えていませんからね」
「それは困るというものだ。私も長らくお前を社交の場に出してこなかったが、今となっては後悔している。さっさと身を固めて私を安心させてくれ」
「ぐぬう……」
父親の言い分に、どういうわけかまったく言い返せないイジスだった。
モエと言葉を交わして去っていくスピアノを見ながら、イジスはいま一度自分の気持ちと向き合わなければならないと感じている。
モエに対しては一目惚れであるものの、どこかでマイコニドだからと突き放しているのではないか。イジスの中で、もやもやとした気持ちが強まっていった。
「モエ」
「なんでしょうか、イジス様」
なにか釈然としなくなってきたイジスは、モエに声を掛ける。
「私と一緒に踊ってくれないか」
「はやや?」
イジスが突然ダンスの申し込みをしてくるものだから、モエはどう反応していいのか分からずに意味不明な言葉を発して固まっている。
「戸惑うのは分かる。だが、今の私は君と踊らずにはいられなさそうだ。踊りは私に任せてくれ、頼む、踊ってくれ」
イジスは必死だった。その表情には、モエは戸惑いっぱなしである。
「い、いいのですか? 私、まったくダンスの経験がないんですけど」
「構わない。私がどうにかする」
断る前提で確認するように問い掛けるモエなのだが、イジスはきっぱり言い切ってきた。どうあがいてもモエと踊るつもりらしい。
後ろでは父親のガーティス子爵が必死に笑いを堪えているが、今はそういう時ではないので口を挟む。
「イジス、焦るのはよくないな。まだ王族が登場なさっていない。ダンスを踊るのはマナー違反というものだぞ」
「ぐっ、そうだった……」
父親の苦言に、顔をしかめるイジス。だが、これで諦めるイジスではなかった。
「頼む、今日は私と踊ってくれ」
改めてモエにダンスの申し込みをするイジス。しばらくモエは目を泳がせて迷ったものの、熱意に押されてその手を取ったのだった。
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