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第73話 覚悟を決めて
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いよいよ建国祭当日を迎える。
イジスも普段とはかなり違ってきちんとした服装に身を包んでいる。いつもと違う雰囲気に、モエはついイジスに見惚れてしまう。
「イジス様、とてもかっこよく存じます」
「あ、ああ。ありがとう、モエ」
モエの何気ない言葉に、照れくさそうにするイジスである。
「そういうモエこそ、普段からすればガラッとイメージが違うぞ」
「あ、ありがとうございます。お恥ずかしながら、このような格好は初めてでございまして……」
頬をかきながら顔を赤くしてモエに話し掛けるイジス。モエの方も笠と同じような色になりながら、視線を逸らしてイジスの言葉に反応している。
それというのも、今のモエの服装はパーティー用のドレスを着ているからだ。ガーティス子爵領に来てからはほぼメイド服だったので、実に新鮮な格好なのである。
笠も髪も真っ赤なモエだけに、合わせるドレスの色はかなり難航したものである。赤いからといって赤色のドレスでは目立って仕方がない。
なんといっても建国祭だし、王族よりも目立つというのは極力避けた方がいいわけだ。
イジスとしては建国祭に出るのも、モエを参加させるのも嫌だったのだが、父親とジニアス司祭から強く言われて諦めた。
特にジニアス司祭からの言葉に、イジスは説得させられたのだ。
モエを婚約者として出せば、周りの令嬢は黙るだろうというアドバイスである。
先日のスピアノ・ジルニテ伯爵令嬢の件もあるし、学生時代のトラウマだってある。令嬢のアピール攻勢を躱せるのならと、イジスはやむなく飲んだというわけだ。
「モエ。たくさんの人間の前に出るけど、大丈夫か?」
「はい、イジス様とご一緒であれば、なんとか大丈夫だと思います」
イジスの心配の声に、モエははにかみながら答えていた。だが、イジスとしてはどうしても心配でならなかった。
改めてモエの服装を見てみる。
ドレスは肩の大きく開いたもので、色は少し明るめの青色のものになっている。
問題の頭ではあるものの、髪の毛を全部アップにして念のために帽子をかぶせてある。これはジニアス司祭からの提案である。
ただ、目上の人物と会うとなると外さなければならないので、一時しのぎでしかない。ガーティス家は子爵位なので、上位爵位の貴族なんて多すぎる。先日のスピアノの家だって伯爵位なのだから。
それでもジニアス司祭はその時の対処は任せてほしいというので、どうするつもりか首を傾げながらも提案を受け入れたのである。
いろいろと不安で仕方がないイジスは、ついつい耐え切れずにため息が出てしまう。
「イジス様、やっぱり私はお留守番をしていましょうか?」
どうにも落ち着かないイジスの様子を見て、モエが参加を辞退しようとする。モエの声を聞いて、イジスは顔をいきなり向ける。
「そんなわけないじゃないか。モエと一緒に参加できるのは嬉しいに決まっている。嬉しいに決まっているが、周りの反応がどうなるかというのが気になるとな、モエを披露するのをためらってしまうんだ」
足をタンタンとしている様子からして、イジスの中には大きな葛藤があるのは間違いなかった。
なにせ、一目惚れをして自分の屋敷に連れてきて、それでいて自分の専属侍女にまでしてしまうような人間なのだ。独占欲がここでもろに出てきているのである。
それに加えて大事に思うからこそ、一般的に危険視されているマイコニドであるモエを人前に、ましてや王族や貴族の前に出す事をためらっているである。
しかし、父親どころか、以前お世話になったジニアス司祭からは、モエを建国祭に出すようにと言われてしまっている。イジスはギリギリまで葛藤と戦っているのだ。
見かねたモエは、イジスの両手をしっかりと握りしめる。
「モエ?」
突然のモエの行動に、イジスの動きが完全に止まる。じっと見つめてくるモエの瞳に、思わずイジスは釘付けになっている。
「イジス様。私なら大丈夫です。ジニアス司祭様もついていらっしゃるのでしょう?」
「あ、ああ。だが、しかしだな……」
モエの真っすぐな瞳に、イジスはたじろいでしまう。
「今日ばかりは、私はイジス様の婚約者です。それに、私は決めているんですよ、ずっと前から」
「……何をかな?」
強くはっきりと言うモエの言葉に、イジスはつい確認のために問い掛けてしまう。
「本当なら私はとっくに殺されていたかもしれないんです。それをイジス様が必死に止めて下さったんです。……私は既に、イジス様とともにある身なんですから」
「モエ……」
ついうるっときてしまうイジスである。
「ええ、おそばに置いて頂いてるんですから、もう何だてどんとこいですよ。私の癒しの胞子でどうとだってしてあげますから!」
もはやヤケになっているモエだった。急に妙な宣言をするものだから、イジスは完全に面食らってしまっていた。
しばらくして、イジスは思わず笑ってしまう。
「ふふっ、それでこそ私が惚れた女性だよ」
覚悟の固まったイジスはモエの肩を抱いて寄せる。
「モエ、私も覚悟を決めたよ。何を言われようとも君を守ってみせる。モエは私の運命の人なんだからな」
「イジス様」
二人の外で様子を見ていた使用人たちが、思わずうるっと感動してしまう。
こうして覚悟を決めた二人は、建国祭のパーティーに向けて、子爵と一緒に家を発ったのだった。
イジスも普段とはかなり違ってきちんとした服装に身を包んでいる。いつもと違う雰囲気に、モエはついイジスに見惚れてしまう。
「イジス様、とてもかっこよく存じます」
「あ、ああ。ありがとう、モエ」
モエの何気ない言葉に、照れくさそうにするイジスである。
「そういうモエこそ、普段からすればガラッとイメージが違うぞ」
「あ、ありがとうございます。お恥ずかしながら、このような格好は初めてでございまして……」
頬をかきながら顔を赤くしてモエに話し掛けるイジス。モエの方も笠と同じような色になりながら、視線を逸らしてイジスの言葉に反応している。
それというのも、今のモエの服装はパーティー用のドレスを着ているからだ。ガーティス子爵領に来てからはほぼメイド服だったので、実に新鮮な格好なのである。
笠も髪も真っ赤なモエだけに、合わせるドレスの色はかなり難航したものである。赤いからといって赤色のドレスでは目立って仕方がない。
なんといっても建国祭だし、王族よりも目立つというのは極力避けた方がいいわけだ。
イジスとしては建国祭に出るのも、モエを参加させるのも嫌だったのだが、父親とジニアス司祭から強く言われて諦めた。
特にジニアス司祭からの言葉に、イジスは説得させられたのだ。
モエを婚約者として出せば、周りの令嬢は黙るだろうというアドバイスである。
先日のスピアノ・ジルニテ伯爵令嬢の件もあるし、学生時代のトラウマだってある。令嬢のアピール攻勢を躱せるのならと、イジスはやむなく飲んだというわけだ。
「モエ。たくさんの人間の前に出るけど、大丈夫か?」
「はい、イジス様とご一緒であれば、なんとか大丈夫だと思います」
イジスの心配の声に、モエははにかみながら答えていた。だが、イジスとしてはどうしても心配でならなかった。
改めてモエの服装を見てみる。
ドレスは肩の大きく開いたもので、色は少し明るめの青色のものになっている。
問題の頭ではあるものの、髪の毛を全部アップにして念のために帽子をかぶせてある。これはジニアス司祭からの提案である。
ただ、目上の人物と会うとなると外さなければならないので、一時しのぎでしかない。ガーティス家は子爵位なので、上位爵位の貴族なんて多すぎる。先日のスピアノの家だって伯爵位なのだから。
それでもジニアス司祭はその時の対処は任せてほしいというので、どうするつもりか首を傾げながらも提案を受け入れたのである。
いろいろと不安で仕方がないイジスは、ついつい耐え切れずにため息が出てしまう。
「イジス様、やっぱり私はお留守番をしていましょうか?」
どうにも落ち着かないイジスの様子を見て、モエが参加を辞退しようとする。モエの声を聞いて、イジスは顔をいきなり向ける。
「そんなわけないじゃないか。モエと一緒に参加できるのは嬉しいに決まっている。嬉しいに決まっているが、周りの反応がどうなるかというのが気になるとな、モエを披露するのをためらってしまうんだ」
足をタンタンとしている様子からして、イジスの中には大きな葛藤があるのは間違いなかった。
なにせ、一目惚れをして自分の屋敷に連れてきて、それでいて自分の専属侍女にまでしてしまうような人間なのだ。独占欲がここでもろに出てきているのである。
それに加えて大事に思うからこそ、一般的に危険視されているマイコニドであるモエを人前に、ましてや王族や貴族の前に出す事をためらっているである。
しかし、父親どころか、以前お世話になったジニアス司祭からは、モエを建国祭に出すようにと言われてしまっている。イジスはギリギリまで葛藤と戦っているのだ。
見かねたモエは、イジスの両手をしっかりと握りしめる。
「モエ?」
突然のモエの行動に、イジスの動きが完全に止まる。じっと見つめてくるモエの瞳に、思わずイジスは釘付けになっている。
「イジス様。私なら大丈夫です。ジニアス司祭様もついていらっしゃるのでしょう?」
「あ、ああ。だが、しかしだな……」
モエの真っすぐな瞳に、イジスはたじろいでしまう。
「今日ばかりは、私はイジス様の婚約者です。それに、私は決めているんですよ、ずっと前から」
「……何をかな?」
強くはっきりと言うモエの言葉に、イジスはつい確認のために問い掛けてしまう。
「本当なら私はとっくに殺されていたかもしれないんです。それをイジス様が必死に止めて下さったんです。……私は既に、イジス様とともにある身なんですから」
「モエ……」
ついうるっときてしまうイジスである。
「ええ、おそばに置いて頂いてるんですから、もう何だてどんとこいですよ。私の癒しの胞子でどうとだってしてあげますから!」
もはやヤケになっているモエだった。急に妙な宣言をするものだから、イジスは完全に面食らってしまっていた。
しばらくして、イジスは思わず笑ってしまう。
「ふふっ、それでこそ私が惚れた女性だよ」
覚悟の固まったイジスはモエの肩を抱いて寄せる。
「モエ、私も覚悟を決めたよ。何を言われようとも君を守ってみせる。モエは私の運命の人なんだからな」
「イジス様」
二人の外で様子を見ていた使用人たちが、思わずうるっと感動してしまう。
こうして覚悟を決めた二人は、建国祭のパーティーに向けて、子爵と一緒に家を発ったのだった。
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