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第72話 再登場の司祭
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「うーん……」
王都のガーティス子爵邸に到着したはいいものの、イジスはとても悩んでいた。
それはもちろん、建国祭におけるパーティーの話だ。来てしまった以上は参加は必須。これまで散々社交界から遠ざかっていたので、どことなく今さらな感じがするイジスなのである。
「イジス様、いくらなんでも悩みすぎではございませんか?」
一緒にやって来ていたモエにまでこう指摘される始末である。
イジスは領内では結構アクティブに活動してはいるものの、王都に来てからというものずっと引きこもっているのである。今日で到着から二日経過している。
部屋に引きこもるイジスの元に、父親であるガーティス子爵がやって来る。
「イジス、これから聖教会に向かうぞ」
「へ?」
子爵の突然の言葉に、イジスは部屋の入口を振り返って固まっていた。
「旦那様。聖教会にどのようなご用件なのでしょうか」
イジスの補佐をしているモエが、イジスに代わって子爵に質問をしている。その質問に対して、ガーティス子爵はしばし黙り込んでいた。
ごくりと息を飲むモエ。
「イジスを建国祭のパーティーに参加させる理由としてな、モエのことで相談をしに行こうと思うのだ」
「私でございますか?」
急な話に目を見開くモエである。まさか自分のこととは思わなかったからだ。
「うむ、王都に到着してからすぐにジニアス司祭に打診を取ったのだ。覚えているだろう、モエ」
「はい、よく覚えておりますとも。あの方のおかげでガーティス子爵邸に住むことができましたから」
両手を胸に当てて、穏やかな表情で話すモエ。
「それでな。モエが一緒なら、イジスをパーティーに引っ張り出せると考えたというわけだ。そのための手段をジニアス司祭に相談に行くというわけなのだよ」
「あれ、それでしたらイジス様は必要でございますか?」
子爵の提案に、すぐさま気付いてしまうモエ。子爵領での暮らしで、すっかり頭の回転がよくなってしまったモエである。
「本当に聡くなったものだな。だがな、目の前で聞かせることに意味があるのだよ」
「……なるほど、確かにそうでございますね」
イジスに視線を向けてモエは納得してしまう。
「しかし、イジス様はどうしてここまで社交界をお嫌いになられるのでしょうかね」
「ああ、それはまぁ本人のいないところで話をしよう」
イジスの方に視線を向けて小さく笑うガーティス子爵。その表情に気が付いたイジスは、机を叩いて立ち上がる。
「分かったよ、ついて行けばいいのだろう。ランス、お前も来い」
「はぁ、仕方ありませんね」
ずっと黙って立っていたランスがようやく発言する。実はモエと一緒にイジスを手伝っていたのだが、子爵の登場で部屋の隅に動いてずっと黙り込んでいたのだ。
「よし、ならすぐに準備をするのだな。出るぞ」
子爵はそういって部屋から出ていった。子爵の服装が正装だったのはそのせいである。
イジスは盛大なため息をついて、やむなく覚悟を決めたのだった。
聖教会までやって来た子爵たち。門で少し話をして中へと入っていく。
一介の僧侶に案内されて、ジニアス司祭の部屋までやって来た子爵たち。久しぶりに会う司祭に、イジスとモエは緊張を隠せなかった。
「ジニアス様、ガーティス子爵様たちをお連れしました」
「いいでしょう、通しなさい」
司祭の許可が下りたことで、扉を開けて中へと子爵たちは通される。
こうやってジニアス司祭と会うのは、モエが子爵領の領都にやって来た時以来である。司祭の立場はかなり上位らしく、さほど華美ではないものの装飾の目立つ美しい服装に身を包んでいた。
「お久しぶりでございますな、ガーティス子爵」
「その節はありがとうございました、ジニアス司祭」
子爵が頭を下げているので、立場的にはジニアス司祭の方が上ということのようだ。
「いえいえ、それでモエさんの調子はどうですかな」
「はい、つつがなく暮らせております。その節はとてもお世話になりました」
「ふむ、すっかり教養を身に付けておいでですね」
モエがしっかりとした対応をしているので、ジニアス司祭とても感心しているようである。
「それで相談事は、モエさんを建国祭に参加させる方法でございましたね」
「はい、彼女はマイコニドゆえに、頭の笠を見せると問答無用で討伐されかねません。害のない安心な存在だと聖教会からお墨付きを頂けないかと考えております」
「ふむ……」
子爵からのお願いに、司祭は少々考え込んでおります。
「それに、我が息子は社交界を苦手としております。モエを参加させられれば、イジスを社交会に引っ張り出せると思うのですよ」
「ほっほっほっ、これまた荒療治ですな」
子爵の出した話に、司祭は楽しそうな声で笑っている。
考えは分かるというものだが、当人の前でする話なのだろうか。イジスの後ろでモエとランスが顔を見合わせていた。
「分かりました。モエさんを実際に見た私ですから、そのくらいはお安い御用ですよ」
子爵の提案を快諾する司祭である。
どうやらモエが建国祭のパーティーに参加するのは、確定事項となりつつあるようだった。
前代未聞のマイコニドの社交界参加。それは王国にどんな衝撃を与えてくれるのだろうか。
王都のガーティス子爵邸に到着したはいいものの、イジスはとても悩んでいた。
それはもちろん、建国祭におけるパーティーの話だ。来てしまった以上は参加は必須。これまで散々社交界から遠ざかっていたので、どことなく今さらな感じがするイジスなのである。
「イジス様、いくらなんでも悩みすぎではございませんか?」
一緒にやって来ていたモエにまでこう指摘される始末である。
イジスは領内では結構アクティブに活動してはいるものの、王都に来てからというものずっと引きこもっているのである。今日で到着から二日経過している。
部屋に引きこもるイジスの元に、父親であるガーティス子爵がやって来る。
「イジス、これから聖教会に向かうぞ」
「へ?」
子爵の突然の言葉に、イジスは部屋の入口を振り返って固まっていた。
「旦那様。聖教会にどのようなご用件なのでしょうか」
イジスの補佐をしているモエが、イジスに代わって子爵に質問をしている。その質問に対して、ガーティス子爵はしばし黙り込んでいた。
ごくりと息を飲むモエ。
「イジスを建国祭のパーティーに参加させる理由としてな、モエのことで相談をしに行こうと思うのだ」
「私でございますか?」
急な話に目を見開くモエである。まさか自分のこととは思わなかったからだ。
「うむ、王都に到着してからすぐにジニアス司祭に打診を取ったのだ。覚えているだろう、モエ」
「はい、よく覚えておりますとも。あの方のおかげでガーティス子爵邸に住むことができましたから」
両手を胸に当てて、穏やかな表情で話すモエ。
「それでな。モエが一緒なら、イジスをパーティーに引っ張り出せると考えたというわけだ。そのための手段をジニアス司祭に相談に行くというわけなのだよ」
「あれ、それでしたらイジス様は必要でございますか?」
子爵の提案に、すぐさま気付いてしまうモエ。子爵領での暮らしで、すっかり頭の回転がよくなってしまったモエである。
「本当に聡くなったものだな。だがな、目の前で聞かせることに意味があるのだよ」
「……なるほど、確かにそうでございますね」
イジスに視線を向けてモエは納得してしまう。
「しかし、イジス様はどうしてここまで社交界をお嫌いになられるのでしょうかね」
「ああ、それはまぁ本人のいないところで話をしよう」
イジスの方に視線を向けて小さく笑うガーティス子爵。その表情に気が付いたイジスは、机を叩いて立ち上がる。
「分かったよ、ついて行けばいいのだろう。ランス、お前も来い」
「はぁ、仕方ありませんね」
ずっと黙って立っていたランスがようやく発言する。実はモエと一緒にイジスを手伝っていたのだが、子爵の登場で部屋の隅に動いてずっと黙り込んでいたのだ。
「よし、ならすぐに準備をするのだな。出るぞ」
子爵はそういって部屋から出ていった。子爵の服装が正装だったのはそのせいである。
イジスは盛大なため息をついて、やむなく覚悟を決めたのだった。
聖教会までやって来た子爵たち。門で少し話をして中へと入っていく。
一介の僧侶に案内されて、ジニアス司祭の部屋までやって来た子爵たち。久しぶりに会う司祭に、イジスとモエは緊張を隠せなかった。
「ジニアス様、ガーティス子爵様たちをお連れしました」
「いいでしょう、通しなさい」
司祭の許可が下りたことで、扉を開けて中へと子爵たちは通される。
こうやってジニアス司祭と会うのは、モエが子爵領の領都にやって来た時以来である。司祭の立場はかなり上位らしく、さほど華美ではないものの装飾の目立つ美しい服装に身を包んでいた。
「お久しぶりでございますな、ガーティス子爵」
「その節はありがとうございました、ジニアス司祭」
子爵が頭を下げているので、立場的にはジニアス司祭の方が上ということのようだ。
「いえいえ、それでモエさんの調子はどうですかな」
「はい、つつがなく暮らせております。その節はとてもお世話になりました」
「ふむ、すっかり教養を身に付けておいでですね」
モエがしっかりとした対応をしているので、ジニアス司祭とても感心しているようである。
「それで相談事は、モエさんを建国祭に参加させる方法でございましたね」
「はい、彼女はマイコニドゆえに、頭の笠を見せると問答無用で討伐されかねません。害のない安心な存在だと聖教会からお墨付きを頂けないかと考えております」
「ふむ……」
子爵からのお願いに、司祭は少々考え込んでおります。
「それに、我が息子は社交界を苦手としております。モエを参加させられれば、イジスを社交会に引っ張り出せると思うのですよ」
「ほっほっほっ、これまた荒療治ですな」
子爵の出した話に、司祭は楽しそうな声で笑っている。
考えは分かるというものだが、当人の前でする話なのだろうか。イジスの後ろでモエとランスが顔を見合わせていた。
「分かりました。モエさんを実際に見た私ですから、そのくらいはお安い御用ですよ」
子爵の提案を快諾する司祭である。
どうやらモエが建国祭のパーティーに参加するのは、確定事項となりつつあるようだった。
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