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第62話 平和な日常
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それからというもの、しばらくは何事も起きず平和なものだった。
イジスは父親のガーティス子爵の仕事を少しずつ割り振られ、それに付き添うようにランスとモエが交代しながら仕事を手伝うといった感じで過ごしていた。
そんなある日の事だった。
この日はメイドたちで食堂に集まっていた。
「モエ先輩って、誕生日いつですかにゃ」
唐突に猫目の状態になって問い掛けるキャロ。その姿を見たビスが何かを察したのかため息をついている。
この質問に、モエは真剣に悩んでいる。
「うーん、マイコニドって人間と同じように成長はしていくけど、誕生日って概念はないのですよね。生まれた日に関しては私もはっきり覚えていませんし、集落に戻って聞く事もできませんしね」
腕を組んで首を捻るモエは、そんな風に言葉を漏らしていた。
何気ないキャロの質問にここまで本気で悩むとは、モエというのはなかなかに真面目なようである。
「モエ先輩、キャロのいうことは相手にしなくていいですからね」
ビスが後ろからキャロを羽交い絞めにしている。
「な、何をするにゃ。は、離すのにゃーっ」
じたばたと暴れるキャロ。だが、誰もにこやかに笑うばかりで助けようとしなかった。その様子に、信じられないという顔でキャロは驚愕の表情を浮かべている。
「まったく、あなた方は賑やかですね。食事くらい静かに食べられないのですか」
「これは再教育が必要でしょうかね、メイド長」
そこにひょっこりとメイド長であるマーサと教育係であるエリィが姿を見せる。すると、食事中のメイドたちは一斉に姿勢を正して黙々と食事を再開した。
その様子に呆れた表情をしながらマーサとエリィがモエに近付いていく。
「モエさんの誕生日といえば、坊ちゃまも気になさっておられましたね。どうしても分からないなら、祝うための記念日の一つくらい決めておいてもいいかと思いますよ」
「祝うって……一体何をお祝いするのでしょうかね」
マーサの言葉に、苦笑いを浮かべるモエである。
マイコニドであるのか、どうもその辺の感覚が分からないようなのだ。
誕生日は分かるのに、それを祝う習慣が分からないというのは、これまたよく分からない話である。
マーサもエリィも、収穫なしという結果に、残念そうに互いの顔を見合わせていた。
「この話はこのくらいにしておきましょうか。モエさん、午後は坊ちゃまの仕事のお手伝いですので、よろしくお願いしますね」
「はい、承知致しました」
マーサの指示にこくりと大きく頷くモエである。
「ビスとキャロは、今日も私と一緒に仕事の勉強です。いつも通り厳しく参りますからね」
「畏まりました」
「にゃーっ、厳しいのは嫌にゃーっ」
エリィに言われて対照的な反応をするビスとキャロ。これには食堂の中に思わず笑いが起きてしまうのだった。
イジスは今日も仕事をしている。
領地に関する仕事だが、まだその中心的な内容については仕事が割り振られない。
とはいえ、どうでもいい仕事ではない。領民から上がってくる要望や、領内の各事業の経営状況、他領との関わりなどなど、やることは多岐に渡っている。
他領との間の事については、まだ現状父親のガーティス子爵の仕事ではあるが、領内の仕事はかなりイジスに回されてくるようになっている。
とは、繰り返しにはなるものの、根本たる中心的な内容の仕事はイジスにはまだ回ってこなかった。
イジスにはこれ以外にも気になっている事がある。
それは先日にピルツへと出した依頼だ。
モエの胞子を集めて提出したのだが、その調査依頼の結果がまだ届かないのである。
とはいえ、まだ10日すらも経っていないのだから、当然といえる結果だろう。マイコニドというのは謎に包まれている種族なのだ。未知の存在ゆえにその分析に時間がかかるのは分かり切った話なのだ。
だが、イジスはまったくもって落ち着かない。見かけ上は落ち着いているように装っているが、内心はまだかまだかと焦っているのである。
何が一体、彼をそこまで狂わせるのだろうか。
そんな時、部屋の扉が叩かれる。
「イジス様、失礼致します。紅茶をお持ちしました」
「ああ、モエか。入ってきていいぞ」
聞こえてきたモエの声に反応するイジス。
ガチャリと扉が開いてワゴンと一緒に入ってくるモエ。すっかりメイドとしての所作が身に付いているために、動きにこれといってよどみがない。
「イジス様、私にも仕事の手伝いをするようにとの指示がございますので、お手伝いすることはございますでしょうか」
紅茶を淹れ終わり、机に置きながら指示を仰ぐモエ。
「ああ、それだったらこっちの処理を頼む。魔物関連の話だから、モエなら分かるんじゃないかな」
「承知致しました。では、拝見致します」
イジスから書類を受け取ると、モエは部屋の応接用のテーブルのソファに座って書類に目を通し始める。
本来、メイドが主の仕事を手伝うということはない。こうやって仕事を任されていることに、何の疑念も抱かないモエなのである。
こうして、いつものようにイジスとモエによる共同作業が行われるのだった。
イジスは父親のガーティス子爵の仕事を少しずつ割り振られ、それに付き添うようにランスとモエが交代しながら仕事を手伝うといった感じで過ごしていた。
そんなある日の事だった。
この日はメイドたちで食堂に集まっていた。
「モエ先輩って、誕生日いつですかにゃ」
唐突に猫目の状態になって問い掛けるキャロ。その姿を見たビスが何かを察したのかため息をついている。
この質問に、モエは真剣に悩んでいる。
「うーん、マイコニドって人間と同じように成長はしていくけど、誕生日って概念はないのですよね。生まれた日に関しては私もはっきり覚えていませんし、集落に戻って聞く事もできませんしね」
腕を組んで首を捻るモエは、そんな風に言葉を漏らしていた。
何気ないキャロの質問にここまで本気で悩むとは、モエというのはなかなかに真面目なようである。
「モエ先輩、キャロのいうことは相手にしなくていいですからね」
ビスが後ろからキャロを羽交い絞めにしている。
「な、何をするにゃ。は、離すのにゃーっ」
じたばたと暴れるキャロ。だが、誰もにこやかに笑うばかりで助けようとしなかった。その様子に、信じられないという顔でキャロは驚愕の表情を浮かべている。
「まったく、あなた方は賑やかですね。食事くらい静かに食べられないのですか」
「これは再教育が必要でしょうかね、メイド長」
そこにひょっこりとメイド長であるマーサと教育係であるエリィが姿を見せる。すると、食事中のメイドたちは一斉に姿勢を正して黙々と食事を再開した。
その様子に呆れた表情をしながらマーサとエリィがモエに近付いていく。
「モエさんの誕生日といえば、坊ちゃまも気になさっておられましたね。どうしても分からないなら、祝うための記念日の一つくらい決めておいてもいいかと思いますよ」
「祝うって……一体何をお祝いするのでしょうかね」
マーサの言葉に、苦笑いを浮かべるモエである。
マイコニドであるのか、どうもその辺の感覚が分からないようなのだ。
誕生日は分かるのに、それを祝う習慣が分からないというのは、これまたよく分からない話である。
マーサもエリィも、収穫なしという結果に、残念そうに互いの顔を見合わせていた。
「この話はこのくらいにしておきましょうか。モエさん、午後は坊ちゃまの仕事のお手伝いですので、よろしくお願いしますね」
「はい、承知致しました」
マーサの指示にこくりと大きく頷くモエである。
「ビスとキャロは、今日も私と一緒に仕事の勉強です。いつも通り厳しく参りますからね」
「畏まりました」
「にゃーっ、厳しいのは嫌にゃーっ」
エリィに言われて対照的な反応をするビスとキャロ。これには食堂の中に思わず笑いが起きてしまうのだった。
イジスは今日も仕事をしている。
領地に関する仕事だが、まだその中心的な内容については仕事が割り振られない。
とはいえ、どうでもいい仕事ではない。領民から上がってくる要望や、領内の各事業の経営状況、他領との関わりなどなど、やることは多岐に渡っている。
他領との間の事については、まだ現状父親のガーティス子爵の仕事ではあるが、領内の仕事はかなりイジスに回されてくるようになっている。
とは、繰り返しにはなるものの、根本たる中心的な内容の仕事はイジスにはまだ回ってこなかった。
イジスにはこれ以外にも気になっている事がある。
それは先日にピルツへと出した依頼だ。
モエの胞子を集めて提出したのだが、その調査依頼の結果がまだ届かないのである。
とはいえ、まだ10日すらも経っていないのだから、当然といえる結果だろう。マイコニドというのは謎に包まれている種族なのだ。未知の存在ゆえにその分析に時間がかかるのは分かり切った話なのだ。
だが、イジスはまったくもって落ち着かない。見かけ上は落ち着いているように装っているが、内心はまだかまだかと焦っているのである。
何が一体、彼をそこまで狂わせるのだろうか。
そんな時、部屋の扉が叩かれる。
「イジス様、失礼致します。紅茶をお持ちしました」
「ああ、モエか。入ってきていいぞ」
聞こえてきたモエの声に反応するイジス。
ガチャリと扉が開いてワゴンと一緒に入ってくるモエ。すっかりメイドとしての所作が身に付いているために、動きにこれといってよどみがない。
「イジス様、私にも仕事の手伝いをするようにとの指示がございますので、お手伝いすることはございますでしょうか」
紅茶を淹れ終わり、机に置きながら指示を仰ぐモエ。
「ああ、それだったらこっちの処理を頼む。魔物関連の話だから、モエなら分かるんじゃないかな」
「承知致しました。では、拝見致します」
イジスから書類を受け取ると、モエは部屋の応接用のテーブルのソファに座って書類に目を通し始める。
本来、メイドが主の仕事を手伝うということはない。こうやって仕事を任されていることに、何の疑念も抱かないモエなのである。
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