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第35話 迫りくる危機
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結局ピルツから押し付けられるようにブレスレットを受け取ったモエ。そして、追い出されるように建物から外へと出ていた。
「って、ええええっ?!」
気が付いたら建物の外に居たので、思わず叫んでいたモエである。
「うるさいぞ。俺は忙しいんだからとっとと帰れ」
扉を少し開けてピルツが顔を出すと、そうとだけ吐き捨てて勢いよく扉を閉めていた。
「そうだ。ちゃんと今から着けておけよ、ブレスレットは。お前さんの周りには妙な気配があるからな」
一瞬扉が開いたかと思えば、そうとだけ言い放って再び扉が閉じられてしまった。
しばらく建物の前で呆けていたモエだったが、言われた通りにブレスレットを左腕にはめていた。
「まったく、何なんですか、あの人は……」
愚痴るモエだったが、とりあえず用事が終わったので子爵邸まで戻る事にした。来た道を帰るだけでいいはずなので、大丈夫だろうと思うモエだった。
ところが、歩き始めて少し進んだところで、頭に乗っかるルスが急に唸り始めた。
「ルス? どうしたの?」
ルスがあまりにも強い警戒感を示しているので、モエはさすがに心配になってきてしまう。
「ばうわうっ!」
ルスが大きく吠えると、モエの頭上から姿を現して飛び降りる。そして、物陰に向かってさらに吠え始めた。
「一体どうしたのよ、ルス!」
慌てて留守を抱きかかえるモエだが、ルスは相変わらず吠え続けている。宥めようとしてもまったく効果がなく、モエはおろおろと戸惑っている。
しばらくすると、その物陰から人の姿がぬっと出てくる。
「ちっ、うるせえ犬っころだぜ」
「まったくだな。せっかくこっそりさらおうと思ってたのによ」
背の大きな男と小さな男が現れた。その男たちが笑いながらじわじわとモエに近付いてくる。そのあまりの不気味さに、モエはじわじわと後退っている。
「へっへっへっ……、悪いようにはしねえから、おとなしく俺たちと来てもらおうか」
「そうだぜ。くくく、金のにおいがプンプンしやがるぜ……」
怪しく笑いながらじわじわと近寄ってくる男たちに、モエは恐怖しか感じない。それはまるで、集落を初めて出た時に出くわした男たちと同じ感覚だった。
「こ、こないでよ……」
身構えながらじりじりと後退していくモエ。
「さあ、俺たちと一緒に来てもらおうか」
男たちが一気に距離を詰めてくる。
「ばうっ!!」
その瞬間、ルスはモエの腕から抜け出して飛び掛かる。だが、
「けっ、犬っころが生意気な!」
「きゃいん!」
「ルス!」
男はルスを腕で払ってしまう。勢いよく飛ばされたルスはそのまま地面へと叩きつけられてしまった。モエはその様子を見てつい叫んでしまう。
「犬っころはおとなしくしてろ。姿を消せるとか珍しい奴だから、高く売れるだろうからな」
大きい方の男は、吐き捨てるように言いながら唾も吐いていた。
「よくもルスを!」
モエはギリッと男たちを睨み付ける。
「へっ、おとなしくしてりゃいいのによ。こっちだってあんまり乱暴したくはねえんだ」
「とっとと捕まえて連れて帰りやしょうぜ」
「そういうこった。おとなしく俺たちに捕まりな、お嬢ちゃん」
男たちは首を鳴らしたり、手をかち合わせたりしながら、モエにじわりじわりと迫っていく。
「さて、とっとと連れて帰んぞ」
「おうともさ!」
ついに男たちがモエに襲い掛かる。身構えるモエ。
背の小さい男の手がモエに触れる。その時だった。
「あばばばばばっ!」
「おい、どうした?!」
小さい男が変な声を上げながら、体を硬直させていた。
訳が分からないモエだったが、はっと気が付いて自分の腕を見る。
(そっか、さっき押し付けられたブレスレット!)
そう、護身用として渡されたブレスレットの効果である。不安なモエの心情に反応して、腕を掴んだ小さな男に電撃を打ち据えたのだった。
「くそっ、なんだっていうんだ。何が起きたんだ?!」
背の大きな男が驚き戸惑っている。
目の前では、小さな男がぴくぴくと痙攣を起こしながら倒れ込んでいる。一瞬で起きたがために、状況は把握できないのである。
「ぐぐぐ……、こうなったらばっ!」
背の大きな男はモエの事はとりあえず諦めて、地面でうずくまるルスにターゲットを切り替えた。
「こいつだけでも連れて帰れば、それだけでも十分だ。こいつには悪いが捨て駒になってもらうぜ!」
「あば、あばばばば……」
地面に倒れた背の小さい男は、まともに反応できなかった。
その小さい男を見捨てて、ルスだけでも奪って帰ろうとする大きな男。
ルスに向けて手が伸びたその時だった。鋭い衝撃が大きな男へと襲い掛かる。
「そうはいかないぞ」
「ぐはっ!」
別の男の声がその場に響き渡り、背の大きな男はその場へと倒れ込んでしまった。
「大丈夫か、モエ!」
倒れた大きな男の前に現れた人物は、モエに向かって呼び掛けている。
「え……、どうしてここにいらっしゃるんですか?」
その人物がどうしてこの場に居るのか、モエにはまったく理解ができなかった。
ピンチに陥ったモエの前に現れた男。それは誰がどう見てもイジス・ガーティスその人だったのである。
「って、ええええっ?!」
気が付いたら建物の外に居たので、思わず叫んでいたモエである。
「うるさいぞ。俺は忙しいんだからとっとと帰れ」
扉を少し開けてピルツが顔を出すと、そうとだけ吐き捨てて勢いよく扉を閉めていた。
「そうだ。ちゃんと今から着けておけよ、ブレスレットは。お前さんの周りには妙な気配があるからな」
一瞬扉が開いたかと思えば、そうとだけ言い放って再び扉が閉じられてしまった。
しばらく建物の前で呆けていたモエだったが、言われた通りにブレスレットを左腕にはめていた。
「まったく、何なんですか、あの人は……」
愚痴るモエだったが、とりあえず用事が終わったので子爵邸まで戻る事にした。来た道を帰るだけでいいはずなので、大丈夫だろうと思うモエだった。
ところが、歩き始めて少し進んだところで、頭に乗っかるルスが急に唸り始めた。
「ルス? どうしたの?」
ルスがあまりにも強い警戒感を示しているので、モエはさすがに心配になってきてしまう。
「ばうわうっ!」
ルスが大きく吠えると、モエの頭上から姿を現して飛び降りる。そして、物陰に向かってさらに吠え始めた。
「一体どうしたのよ、ルス!」
慌てて留守を抱きかかえるモエだが、ルスは相変わらず吠え続けている。宥めようとしてもまったく効果がなく、モエはおろおろと戸惑っている。
しばらくすると、その物陰から人の姿がぬっと出てくる。
「ちっ、うるせえ犬っころだぜ」
「まったくだな。せっかくこっそりさらおうと思ってたのによ」
背の大きな男と小さな男が現れた。その男たちが笑いながらじわじわとモエに近付いてくる。そのあまりの不気味さに、モエはじわじわと後退っている。
「へっへっへっ……、悪いようにはしねえから、おとなしく俺たちと来てもらおうか」
「そうだぜ。くくく、金のにおいがプンプンしやがるぜ……」
怪しく笑いながらじわじわと近寄ってくる男たちに、モエは恐怖しか感じない。それはまるで、集落を初めて出た時に出くわした男たちと同じ感覚だった。
「こ、こないでよ……」
身構えながらじりじりと後退していくモエ。
「さあ、俺たちと一緒に来てもらおうか」
男たちが一気に距離を詰めてくる。
「ばうっ!!」
その瞬間、ルスはモエの腕から抜け出して飛び掛かる。だが、
「けっ、犬っころが生意気な!」
「きゃいん!」
「ルス!」
男はルスを腕で払ってしまう。勢いよく飛ばされたルスはそのまま地面へと叩きつけられてしまった。モエはその様子を見てつい叫んでしまう。
「犬っころはおとなしくしてろ。姿を消せるとか珍しい奴だから、高く売れるだろうからな」
大きい方の男は、吐き捨てるように言いながら唾も吐いていた。
「よくもルスを!」
モエはギリッと男たちを睨み付ける。
「へっ、おとなしくしてりゃいいのによ。こっちだってあんまり乱暴したくはねえんだ」
「とっとと捕まえて連れて帰りやしょうぜ」
「そういうこった。おとなしく俺たちに捕まりな、お嬢ちゃん」
男たちは首を鳴らしたり、手をかち合わせたりしながら、モエにじわりじわりと迫っていく。
「さて、とっとと連れて帰んぞ」
「おうともさ!」
ついに男たちがモエに襲い掛かる。身構えるモエ。
背の小さい男の手がモエに触れる。その時だった。
「あばばばばばっ!」
「おい、どうした?!」
小さい男が変な声を上げながら、体を硬直させていた。
訳が分からないモエだったが、はっと気が付いて自分の腕を見る。
(そっか、さっき押し付けられたブレスレット!)
そう、護身用として渡されたブレスレットの効果である。不安なモエの心情に反応して、腕を掴んだ小さな男に電撃を打ち据えたのだった。
「くそっ、なんだっていうんだ。何が起きたんだ?!」
背の大きな男が驚き戸惑っている。
目の前では、小さな男がぴくぴくと痙攣を起こしながら倒れ込んでいる。一瞬で起きたがために、状況は把握できないのである。
「ぐぐぐ……、こうなったらばっ!」
背の大きな男はモエの事はとりあえず諦めて、地面でうずくまるルスにターゲットを切り替えた。
「こいつだけでも連れて帰れば、それだけでも十分だ。こいつには悪いが捨て駒になってもらうぜ!」
「あば、あばばばば……」
地面に倒れた背の小さい男は、まともに反応できなかった。
その小さい男を見捨てて、ルスだけでも奪って帰ろうとする大きな男。
ルスに向けて手が伸びたその時だった。鋭い衝撃が大きな男へと襲い掛かる。
「そうはいかないぞ」
「ぐはっ!」
別の男の声がその場に響き渡り、背の大きな男はその場へと倒れ込んでしまった。
「大丈夫か、モエ!」
倒れた大きな男の前に現れた人物は、モエに向かって呼び掛けている。
「え……、どうしてここにいらっしゃるんですか?」
その人物がどうしてこの場に居るのか、モエにはまったく理解ができなかった。
ピンチに陥ったモエの前に現れた男。それは誰がどう見てもイジス・ガーティスその人だったのである。
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