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第32話 暗闇のアジト
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ガーティス子爵領の領都のどこか。薄暗い空間の中で、魔法で灯らせた明かりが煌々と輝いている。
その場所はまるで地面を掘っただけのような土壁に囲まれた空間だ。
その中でひときわ広い空間へと、背の大きい男と小さい男が走ってきた。昼間にモエたちを見ていた怪しい男たちである。
「お頭、耳にお入れしたい事が!」
部屋に入るなり、背の小さい方の男が声を上げる。
「うわっと!」
次の瞬間、男二人に向けて何かが振り回される。二人ともそれを間一髪躱したものの、大きい方は躱し方の選択をミスってそのまま後方に倒れてしまった。
「お、お頭。何をするんですか!?」
しゃがんだために普通に立っている小さい方の男が、お頭と呼ぶ目の前の男に問い掛けている。
「うるせえんだよ、てめえ」
お頭は不機嫌な声を上げながら、先程振り回した棍棒で肩をトントンと叩いている。その気迫に、小さい方の男は震え上がっている。
「ひ、ひぃっ!」
小さい方の男はその場に座り込んで何度も土下座をしている。
「すいやせんでした、お頭!」
そう謝りながら、何度も地面に額を打ち付けていた。
「まったくよう、せっかく人が昼寝してたってのに起こしやがって。それなりの情報は持ってきたんだろうなぁ?」
「へ、へい。も、もちろんですとも」
お頭の問い掛けに、小さい方の男は地面に額を打ち付けたまま返事をしている。
「おう、だったら聞かせてみろや。もしつまらない話だったら……」
お頭がそう言った直後、ズドンという大きな音がする。
「こうなってもらうからな、覚悟しろよ?」
「ひ、ひぃぃっ!!」
お頭が持っていた棍棒を地面に叩きつけたのである。棍棒が叩きつけられた地面はかなり凹んでしまっていた。これには男たちはびびりちらすしかなかった。
じっとお頭が睨み付ける中、男たちは顔を見合わせて覚悟を決める。そして、お頭の方へと顔を向けて、昼間に街の中で見た事を正直に話したのだった。
すると、お頭の口角が段々とつり上がり、不気味な笑みへと変化していく。どうやら、現場を見ていなくても、男たちの話だけでいろいろと感じ取っているようだった。そのお頭の浮かべる笑みに、報告をしている男たちは恐怖を感じていた。
「ふん、逃したと思った金づるが、さらに面白いものを引き寄せたようだな。くくくっ、この街に拠点を構えて正解だったようだな」
お頭は足を組みかえて、再び男たちを睨み付ける。
「よし、お前ら」
「へ、へいっ!」
お頭の声に、男たちは立ち上がって背筋を伸ばす。ついでに顎も上を向く。
「引き続き、この街の監視をしろ。今日見たそいつを見つけたら、隙を突いてさらってこい。いいな!」
「へ、へいっ。合点承知!」
お頭の命令に元気よく返事をした男たちは、部屋から慌てて駆け出していった。
やっと静かになった事で、お頭はようやくさっきから手にしていた棍棒を背中に置く。そして、別のところに置いていた水がめのようなものを手に取ると、それを一気にぐいっと傾けて中身を口の中へと流し込んだ。
「ぷはーっ! いい事を知った後の酒は格別だなぁっ!」
どうやらお酒だったようだ。酒を飲んで上機嫌になるお頭である。
「先日は取引現場に変な連中が乗り込んできてめちゃくちゃにされたからなぁ。お返しにこの街もめちゃくちゃにしてやりてえもんだぜ」
くくくっと、不敵に笑うお頭。そして、酒の入った水がめに栓をして箱の上に置くと、ゆらりと立ち上がった。
「さあて、何人か人員減らされたからなぁ。その辺はちょっと補充するか。居ねえよりはマシだからな」
頭をぼりぼりと掻きながら、お頭は部屋から出ていった。
部屋を出て移動したお頭は、アジトの中の別の部屋へと移動していた。
そこは明かりが灯されておらず、真っ暗で何も見えないような場所だった。そこからは何かがうごめいているような音が聞こえてくる。
「へえ、しぶてえもんだな。一匹たりともくたばっちゃいねえ。さすが人外の連中は、大した生命力の持ち主だなぁ」
室内は真っ暗だというのに、お頭の目にはしっかりとすべてが見えているようだった。
「まあ、お前らは大事な商品だからな、くたばってもらっちゃあ困るんだよ」
目の前の存在たちに見下すような視線を送るお頭。
「おい、食い物を持ってきてやれ」
部屋の外に向かって大声で呼び掛ける。すると、しばらく待っていると、部下が数人、適当な食い物を持ってそろぞろとやって来た。
「おら、今日の食い扶持を持ってきてやったから、しっかりと味わえ。いいか、死ぬ事は許さねえからな?」
お頭が言い放って手を振ると、一斉に暗闇の中に向けて食い物を放り投げる。それが大きな音を立てて地面に落ちると、ざわざわと這い寄るような音が聞こえてきた。
その光景を見ながら、お頭は気持ち悪く笑っている。食い物を運んできた部下たちは、あまりの怖さにそそくさとその場を立ち去っていってしまった。
「さて、近いうちに新しい取引があるから、そのための準備をしねえとな。高く売れるからなぁ、こんなうまい商売、簡単にやめられるわけがねえってんだ。くくっ、ふはははははっ!」
アジトの中には、お頭の笑い声がしばらくの間響き渡っていた。
その場所はまるで地面を掘っただけのような土壁に囲まれた空間だ。
その中でひときわ広い空間へと、背の大きい男と小さい男が走ってきた。昼間にモエたちを見ていた怪しい男たちである。
「お頭、耳にお入れしたい事が!」
部屋に入るなり、背の小さい方の男が声を上げる。
「うわっと!」
次の瞬間、男二人に向けて何かが振り回される。二人ともそれを間一髪躱したものの、大きい方は躱し方の選択をミスってそのまま後方に倒れてしまった。
「お、お頭。何をするんですか!?」
しゃがんだために普通に立っている小さい方の男が、お頭と呼ぶ目の前の男に問い掛けている。
「うるせえんだよ、てめえ」
お頭は不機嫌な声を上げながら、先程振り回した棍棒で肩をトントンと叩いている。その気迫に、小さい方の男は震え上がっている。
「ひ、ひぃっ!」
小さい方の男はその場に座り込んで何度も土下座をしている。
「すいやせんでした、お頭!」
そう謝りながら、何度も地面に額を打ち付けていた。
「まったくよう、せっかく人が昼寝してたってのに起こしやがって。それなりの情報は持ってきたんだろうなぁ?」
「へ、へい。も、もちろんですとも」
お頭の問い掛けに、小さい方の男は地面に額を打ち付けたまま返事をしている。
「おう、だったら聞かせてみろや。もしつまらない話だったら……」
お頭がそう言った直後、ズドンという大きな音がする。
「こうなってもらうからな、覚悟しろよ?」
「ひ、ひぃぃっ!!」
お頭が持っていた棍棒を地面に叩きつけたのである。棍棒が叩きつけられた地面はかなり凹んでしまっていた。これには男たちはびびりちらすしかなかった。
じっとお頭が睨み付ける中、男たちは顔を見合わせて覚悟を決める。そして、お頭の方へと顔を向けて、昼間に街の中で見た事を正直に話したのだった。
すると、お頭の口角が段々とつり上がり、不気味な笑みへと変化していく。どうやら、現場を見ていなくても、男たちの話だけでいろいろと感じ取っているようだった。そのお頭の浮かべる笑みに、報告をしている男たちは恐怖を感じていた。
「ふん、逃したと思った金づるが、さらに面白いものを引き寄せたようだな。くくくっ、この街に拠点を構えて正解だったようだな」
お頭は足を組みかえて、再び男たちを睨み付ける。
「よし、お前ら」
「へ、へいっ!」
お頭の声に、男たちは立ち上がって背筋を伸ばす。ついでに顎も上を向く。
「引き続き、この街の監視をしろ。今日見たそいつを見つけたら、隙を突いてさらってこい。いいな!」
「へ、へいっ。合点承知!」
お頭の命令に元気よく返事をした男たちは、部屋から慌てて駆け出していった。
やっと静かになった事で、お頭はようやくさっきから手にしていた棍棒を背中に置く。そして、別のところに置いていた水がめのようなものを手に取ると、それを一気にぐいっと傾けて中身を口の中へと流し込んだ。
「ぷはーっ! いい事を知った後の酒は格別だなぁっ!」
どうやらお酒だったようだ。酒を飲んで上機嫌になるお頭である。
「先日は取引現場に変な連中が乗り込んできてめちゃくちゃにされたからなぁ。お返しにこの街もめちゃくちゃにしてやりてえもんだぜ」
くくくっと、不敵に笑うお頭。そして、酒の入った水がめに栓をして箱の上に置くと、ゆらりと立ち上がった。
「さあて、何人か人員減らされたからなぁ。その辺はちょっと補充するか。居ねえよりはマシだからな」
頭をぼりぼりと掻きながら、お頭は部屋から出ていった。
部屋を出て移動したお頭は、アジトの中の別の部屋へと移動していた。
そこは明かりが灯されておらず、真っ暗で何も見えないような場所だった。そこからは何かがうごめいているような音が聞こえてくる。
「へえ、しぶてえもんだな。一匹たりともくたばっちゃいねえ。さすが人外の連中は、大した生命力の持ち主だなぁ」
室内は真っ暗だというのに、お頭の目にはしっかりとすべてが見えているようだった。
「まあ、お前らは大事な商品だからな、くたばってもらっちゃあ困るんだよ」
目の前の存在たちに見下すような視線を送るお頭。
「おい、食い物を持ってきてやれ」
部屋の外に向かって大声で呼び掛ける。すると、しばらく待っていると、部下が数人、適当な食い物を持ってそろぞろとやって来た。
「おら、今日の食い扶持を持ってきてやったから、しっかりと味わえ。いいか、死ぬ事は許さねえからな?」
お頭が言い放って手を振ると、一斉に暗闇の中に向けて食い物を放り投げる。それが大きな音を立てて地面に落ちると、ざわざわと這い寄るような音が聞こえてきた。
その光景を見ながら、お頭は気持ち悪く笑っている。食い物を運んできた部下たちは、あまりの怖さにそそくさとその場を立ち去っていってしまった。
「さて、近いうちに新しい取引があるから、そのための準備をしねえとな。高く売れるからなぁ、こんなうまい商売、簡単にやめられるわけがねえってんだ。くくっ、ふはははははっ!」
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