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第15話 ジニアス司祭がやって来た
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兵士による先触れが来てから2日後、ガーティス子爵領の領都に一人の老人がやって来た。
ガーティス子爵の要請により、王都からやって来た司祭ジニアスである。司祭という職らしい、全身が真っ白を基調とした法衣をまとっており、縁などには金の装飾などがあしらわれている。頭にはすっぽりぴったり合う半球型の帽子をかぶっている。
一人の老人に対して、護衛は四人。先触れでやって来たポーンが加わり五人である。一人の護衛にこれだけの人数なので、このジニアスが聖教会においてどいう立場の人物かというのがよく分かる話である。
「うむ、王都から10日かからなんだな。ずいぶんと久しぶりじゃな、ここも」
領都に着いたジニアスは、とても感慨深そうに街の様子を眺めている。言葉からするに、昔にもここへは来た事があるようだ。
「ジニアス様、お気持ちはお察し致しますが、今はガーティス子爵邸へと参る事と致しましょう」
「うむ、そうじゃな。あまり遅くなると聖教会の連中がうるさいからな。早速向かうとするか」
ジニアスたちが子爵邸に向かって歩き出そうとしたその時、目の前から馬車がやって来るのが見えた。見るからに装飾の目立つ馬車である。間違いなくその馬車は、ガーティス子爵の馬車だった。
馬車はジニアスたちを発見すると停車する。そして、御者台に居た男が、ジニアスたちに向かって頭を下げた。
「高いところから失礼を致します。そちらの方は、聖教会の司祭ジニアス様とお見受け致します」
「うむ、いかにも。わしがジニアスじゃ」
御者台の男の問いに、ジニアスは答える。
「おお、やはり。私、執事長を務めるダニエルという者でございます。子爵邸までご案内致しますので、どうぞお乗り下さい」
ダニエルは門番に命じて馬車の扉を開けさせる。中には誰も乗っていなかった。
「私が念のため、安全を確認致します。ジニアス様は少々お待ち下さいませ」
そう言って、ポーンは馬車の中を改める。特に問題がなかったので、ジニアスたちは馬車へと乗り込み、一路ガーティス子爵邸に向かったのだった。
ガーティス子爵邸に到着すると、そこには子爵、子爵夫人、イジス、それとグリムとマーサが立っていた。子爵邸の重要人物勢ぞろいである。聖教会の司祭というのは、それほどの待遇が当然の人物なのである。
「お待ちしておりました、ジニアス司祭殿。我々一同、その到着を心よりお待ち申し上げておりました」
馬車から降りて姿を見せたジニアスに対して、ガーティス子爵が代表して挨拶をする。それに合わせて、全員が頭を下げる。
「ほほほ、実に久しいの、子爵。堅苦しい挨拶はそのくらいにしておいて、まずは中で腰を落ち着けようではないか」
「ははっ、それでは中をご案内致します」
ジニアスに対してものすごく改まった態度を取るガーティス子爵。こんな姿はまず見る事はないものだ。厳格で通っている子爵なのだから、それもそうだろう。実際に、イジスもものすごく戸惑った表情をしている。
屋敷の中へと入った面々が向かったのは、応接室ではなく子爵の私室だった。今からする話は大っぴらにするものではないので、この対応は仕方のない事だろう。
部屋へと向かう途中、子爵はマーサにとある事を命じておいた。
子爵たちが部屋にやって来てからしばらくすると、その命令に応じたマーサが遅れてやって来た。そして、その後ろには頭に大きな帽子をかぶったメイドが立っていた。
「ほう、この者が手紙にあった者かな?」
ジニアスはその姿をひと目見て、すぐに分かったようである。
それもそうだろう。マイコニドは人間とは違う。それがゆえにまとう魔力も人間のそれとは違うので、分かる人物にはすぐに分かってしまうのである。
「さすがはジニアス殿。こうも簡単に見抜いてしまわれるとは、その力、まったく衰えておりませんな」
ジニアスの見せた力の片鱗に、子爵もつい唸ってしまう。それに対して、ジニアスはまったく笑顔を崩さなかった。これが熟練者の余裕というものである。
肝心のモエは、マーサの隣で緊張した様子で立っている。来客対応など実に初めてなのだ。失敗をやらかさないようにと、ガッチガチに緊張しているというわけである。
「ふむ、この者、マイコニドか。確かに、不思議な胞子が辺りに舞ってはいるが、害があるようなものではない。実に珍しいタイプじゃな」
「ふえっ……」
見ただけで自分の正体をあっさり見抜かれた事で、モエが驚きの表情を浮かべている。そして、肩をすくめてますます身を縮こまらせていた。
「ほほほ、心配は要らん。お前さんの能力を見極めるために、このわしがここに呼ばれたんじゃからな。肩の力を抜いて楽にしておりなさい」
そんなモエに対して、ジニアスは優しく言葉を掛けていた。さすがは聖教会の中でもトップクラスの司祭である。
「さて、子爵よ。早速始めても構わないかな?」
「ジニアス殿、よろしくお願い致します」
ジニアスの問い掛けに、子爵は即答で頭を下げていた。その様子を見たジニアスは、モエに近付いていく。
「すまんな、頭の帽子を取らさせてもらうぞ」
「えっ?」
モエの目の前に立ったジニアスは、モエの帽子を優しくゆっくりと脱がせてしまう。
「ほう、見事な笠じゃな。これだけきれいな笠のマイコニドは久しぶりに見る。どれ、すぐに済むから、そのままじっとしておれ」
モエの頭の笠を見たジニアスは、すっと手をかざす。脱がせた帽子はマーサが素早く受け取った。
そして、ジニアスの手から光があふれ出す。あまりに神々しい光に、場に居た誰もが息を飲んでその様子を見守っている。
一体ジニアスは、モエに対して何をしたというのだろうか。そして、モエはどうなってしまうのだろうか。
ガーティス子爵の要請により、王都からやって来た司祭ジニアスである。司祭という職らしい、全身が真っ白を基調とした法衣をまとっており、縁などには金の装飾などがあしらわれている。頭にはすっぽりぴったり合う半球型の帽子をかぶっている。
一人の老人に対して、護衛は四人。先触れでやって来たポーンが加わり五人である。一人の護衛にこれだけの人数なので、このジニアスが聖教会においてどいう立場の人物かというのがよく分かる話である。
「うむ、王都から10日かからなんだな。ずいぶんと久しぶりじゃな、ここも」
領都に着いたジニアスは、とても感慨深そうに街の様子を眺めている。言葉からするに、昔にもここへは来た事があるようだ。
「ジニアス様、お気持ちはお察し致しますが、今はガーティス子爵邸へと参る事と致しましょう」
「うむ、そうじゃな。あまり遅くなると聖教会の連中がうるさいからな。早速向かうとするか」
ジニアスたちが子爵邸に向かって歩き出そうとしたその時、目の前から馬車がやって来るのが見えた。見るからに装飾の目立つ馬車である。間違いなくその馬車は、ガーティス子爵の馬車だった。
馬車はジニアスたちを発見すると停車する。そして、御者台に居た男が、ジニアスたちに向かって頭を下げた。
「高いところから失礼を致します。そちらの方は、聖教会の司祭ジニアス様とお見受け致します」
「うむ、いかにも。わしがジニアスじゃ」
御者台の男の問いに、ジニアスは答える。
「おお、やはり。私、執事長を務めるダニエルという者でございます。子爵邸までご案内致しますので、どうぞお乗り下さい」
ダニエルは門番に命じて馬車の扉を開けさせる。中には誰も乗っていなかった。
「私が念のため、安全を確認致します。ジニアス様は少々お待ち下さいませ」
そう言って、ポーンは馬車の中を改める。特に問題がなかったので、ジニアスたちは馬車へと乗り込み、一路ガーティス子爵邸に向かったのだった。
ガーティス子爵邸に到着すると、そこには子爵、子爵夫人、イジス、それとグリムとマーサが立っていた。子爵邸の重要人物勢ぞろいである。聖教会の司祭というのは、それほどの待遇が当然の人物なのである。
「お待ちしておりました、ジニアス司祭殿。我々一同、その到着を心よりお待ち申し上げておりました」
馬車から降りて姿を見せたジニアスに対して、ガーティス子爵が代表して挨拶をする。それに合わせて、全員が頭を下げる。
「ほほほ、実に久しいの、子爵。堅苦しい挨拶はそのくらいにしておいて、まずは中で腰を落ち着けようではないか」
「ははっ、それでは中をご案内致します」
ジニアスに対してものすごく改まった態度を取るガーティス子爵。こんな姿はまず見る事はないものだ。厳格で通っている子爵なのだから、それもそうだろう。実際に、イジスもものすごく戸惑った表情をしている。
屋敷の中へと入った面々が向かったのは、応接室ではなく子爵の私室だった。今からする話は大っぴらにするものではないので、この対応は仕方のない事だろう。
部屋へと向かう途中、子爵はマーサにとある事を命じておいた。
子爵たちが部屋にやって来てからしばらくすると、その命令に応じたマーサが遅れてやって来た。そして、その後ろには頭に大きな帽子をかぶったメイドが立っていた。
「ほう、この者が手紙にあった者かな?」
ジニアスはその姿をひと目見て、すぐに分かったようである。
それもそうだろう。マイコニドは人間とは違う。それがゆえにまとう魔力も人間のそれとは違うので、分かる人物にはすぐに分かってしまうのである。
「さすがはジニアス殿。こうも簡単に見抜いてしまわれるとは、その力、まったく衰えておりませんな」
ジニアスの見せた力の片鱗に、子爵もつい唸ってしまう。それに対して、ジニアスはまったく笑顔を崩さなかった。これが熟練者の余裕というものである。
肝心のモエは、マーサの隣で緊張した様子で立っている。来客対応など実に初めてなのだ。失敗をやらかさないようにと、ガッチガチに緊張しているというわけである。
「ふむ、この者、マイコニドか。確かに、不思議な胞子が辺りに舞ってはいるが、害があるようなものではない。実に珍しいタイプじゃな」
「ふえっ……」
見ただけで自分の正体をあっさり見抜かれた事で、モエが驚きの表情を浮かべている。そして、肩をすくめてますます身を縮こまらせていた。
「ほほほ、心配は要らん。お前さんの能力を見極めるために、このわしがここに呼ばれたんじゃからな。肩の力を抜いて楽にしておりなさい」
そんなモエに対して、ジニアスは優しく言葉を掛けていた。さすがは聖教会の中でもトップクラスの司祭である。
「さて、子爵よ。早速始めても構わないかな?」
「ジニアス殿、よろしくお願い致します」
ジニアスの問い掛けに、子爵は即答で頭を下げていた。その様子を見たジニアスは、モエに近付いていく。
「すまんな、頭の帽子を取らさせてもらうぞ」
「えっ?」
モエの目の前に立ったジニアスは、モエの帽子を優しくゆっくりと脱がせてしまう。
「ほう、見事な笠じゃな。これだけきれいな笠のマイコニドは久しぶりに見る。どれ、すぐに済むから、そのままじっとしておれ」
モエの頭の笠を見たジニアスは、すっと手をかざす。脱がせた帽子はマーサが素早く受け取った。
そして、ジニアスの手から光があふれ出す。あまりに神々しい光に、場に居た誰もが息を飲んでその様子を見守っている。
一体ジニアスは、モエに対して何をしたというのだろうか。そして、モエはどうなってしまうのだろうか。
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