12 / 84
第12話 成長するマイコニド
しおりを挟む
食堂の掃除を担当するようになって2日目。
朝食の前に掃除を終えたモエは、エリィと一緒に今日も食事を取っている。
本来、これ程までに先輩使用人とのマンツーマンというのはありえない話なのだが、モエの場合はちょっと事情が違ったので認められているのである。
「ずいぶんと楽しそうですね、モエさん」
食事をしながらモエに話し掛けるエリィ。
「はい、お掃除楽しくなってきちゃいました。朝が早いのだけは慣れませんけれど、この仕事だけでいいというのならやっていけそうな気がします」
馬鹿正直に感想を話してしまうモエ。
「それはよかったですね」
「はい」
淡々と声を掛けるエリィに、モエはにこにことしたまま返事をしていた。
「モエさん」
「はい?」
エリィの声色が突然重くなる。その声を聴いて、モエは軽く首を傾げてしまう。
「あなたがどういう影響を持つマイコニドか分からないので、他の使用人たちから離しているのです。あなたの胞子の影響が分かった場合、その効果次第では他の使用人とも一緒に仕事をしてもらう可能性があります。いつまでもこの生活が続くとは思わない事ですね」
あまりに楽観視するモエに対して、エリィは厳しく現実を言い放つ。
そう、モエがほとんどエリィとのワンツーマンで過ごしていられるのは、モエがマイコニドだからという事情があったのだ。いわゆる特別扱いである。
「とにかく、もうしばらくの間は私がずっと面倒を見ていますので、その間に人間社会についてしっかり学んで頂きますからね。せめて文字の読み書きはできるようになって頂かないと」
「うう、勉強ですか?」
「そうです!」
エリィから勉強を始めると告げられたモエは、見るからにしょげしょげとしてしまう。それは、帽子の中の笠が曲がるくらいの落ち込みようだった。
「笠って、気分とも連動するのですね」
「ふえ?」
エリィの言葉に、自分の頭を触るモエ。すると、モエはものすごく驚いていた。
「えっ、曲がってる。どうして、どうして?」
どうやらモエも知らなかったようだった。マイコニドもその撒き散らかす胞子のせいで、詳しい生態が不明だった。だが、モエのおかげで、ちょっとずつ明らかになり始めていた。
「今、モエさんは気持ちが落ち込みましたからね。それと同時に笠が倒れたようです。という事は、モエさんの精神状態によって笠の状態が変わるという事ですね」
「ふえぇぇ……。知らなかったわ」
エリィの指摘に、改めて驚くモエである。
「みんなの頭の上に普通に乗っかってるから、まったく気にしなかったなぁ~。うふふ、新しい発見」
モエはにこやかに笑っていた。しかし、すぐにエリィによって現実に引き戻される。
「新しい発見があったのはいいですが、早く食べておしまいなさい。これ以上遅くなると、他の使用人たちに迷惑が掛かってしまいます。そうなると、食事の量を減らされてしまいますよ」
「えぇ~、それはやだ。分かりました、食べちゃいます」
エリィに言われて、モエはもぐもぐと掻き込むように食事を食べていた。
この日からのモエの一日のスケジュールはこうなった。
陽の昇る前に起床。
服を着替えたら食堂の掃除。
朝食を食べると、人間の一般教養の勉強。
昼食前に食堂の掃除。
昼食を終えたら再び勉強。
夕食前に三度目の食堂の掃除。
掃除を終えるとさらに勉強。
夜食を食べてから、軽く食堂の掃除。
体を濡れた布で軽く拭って一日の汚れを落とす。
その後就寝。
他の使用人たちに比べてこなす仕事の量は少ないものの、圧倒的に勉強の時間が多い。というのも、イジスが自分の専属使用人にしようとか口走ったためである。
もし、ガーティス子爵家の誰かの使用人になるというのであれば、それなりの教養と所作を求められてしまう。だからこそ、これだけ勉強に時間が充てられてしまっているというわけだ。マイコニドであるモエには、人間たちの一般常識が著しく欠如しているのだから、当然というわけである。
(そういえば普通に喋っていたので気付きませんでしたが、マイコニドも私たちと同じ言葉を使っているのですね。普通にやり取りできるところを見ると、マイコニドたちもある程度文化的な生活を営んでいるのかも知れませんね)
モエを見ながら、エリィはそのような感想を持った。
午前中の勉強を見終えたエリィは、モエにこう告げる。
「それではモエさん。今回からは食堂の清掃は一人で行うように。さすがに私もいつまでもあなたに張り付きっぱなしというわけには参りませんのでね」
「ええーっ!?」
エリィから告げられたモエは、大声で驚いていた。
「大丈夫ですよ。ここまでの仕事ぶりを見るに、もう一人で行っても大丈夫と判断しました。念のために直前にチェックをさせてもらうので、いい加減な事はしないで下さいね」
「わ、分かりました。せ、精一杯、頑張りましゅ!」
一人で任される緊張からか、盛大に噛んでしまうモエ。その様子がエリィのツボに入ってしまったのか、エリィが見た事ないくらいに笑っていた。
「うぐぅ……」
あまりに笑ってくれるものだから、モエはついつい不機嫌に頬を膨らませるのだった。
こうして、ついにモエは単独で仕事を任される事になったのだが、はてさてうまくこなせるのだろうか。
朝食の前に掃除を終えたモエは、エリィと一緒に今日も食事を取っている。
本来、これ程までに先輩使用人とのマンツーマンというのはありえない話なのだが、モエの場合はちょっと事情が違ったので認められているのである。
「ずいぶんと楽しそうですね、モエさん」
食事をしながらモエに話し掛けるエリィ。
「はい、お掃除楽しくなってきちゃいました。朝が早いのだけは慣れませんけれど、この仕事だけでいいというのならやっていけそうな気がします」
馬鹿正直に感想を話してしまうモエ。
「それはよかったですね」
「はい」
淡々と声を掛けるエリィに、モエはにこにことしたまま返事をしていた。
「モエさん」
「はい?」
エリィの声色が突然重くなる。その声を聴いて、モエは軽く首を傾げてしまう。
「あなたがどういう影響を持つマイコニドか分からないので、他の使用人たちから離しているのです。あなたの胞子の影響が分かった場合、その効果次第では他の使用人とも一緒に仕事をしてもらう可能性があります。いつまでもこの生活が続くとは思わない事ですね」
あまりに楽観視するモエに対して、エリィは厳しく現実を言い放つ。
そう、モエがほとんどエリィとのワンツーマンで過ごしていられるのは、モエがマイコニドだからという事情があったのだ。いわゆる特別扱いである。
「とにかく、もうしばらくの間は私がずっと面倒を見ていますので、その間に人間社会についてしっかり学んで頂きますからね。せめて文字の読み書きはできるようになって頂かないと」
「うう、勉強ですか?」
「そうです!」
エリィから勉強を始めると告げられたモエは、見るからにしょげしょげとしてしまう。それは、帽子の中の笠が曲がるくらいの落ち込みようだった。
「笠って、気分とも連動するのですね」
「ふえ?」
エリィの言葉に、自分の頭を触るモエ。すると、モエはものすごく驚いていた。
「えっ、曲がってる。どうして、どうして?」
どうやらモエも知らなかったようだった。マイコニドもその撒き散らかす胞子のせいで、詳しい生態が不明だった。だが、モエのおかげで、ちょっとずつ明らかになり始めていた。
「今、モエさんは気持ちが落ち込みましたからね。それと同時に笠が倒れたようです。という事は、モエさんの精神状態によって笠の状態が変わるという事ですね」
「ふえぇぇ……。知らなかったわ」
エリィの指摘に、改めて驚くモエである。
「みんなの頭の上に普通に乗っかってるから、まったく気にしなかったなぁ~。うふふ、新しい発見」
モエはにこやかに笑っていた。しかし、すぐにエリィによって現実に引き戻される。
「新しい発見があったのはいいですが、早く食べておしまいなさい。これ以上遅くなると、他の使用人たちに迷惑が掛かってしまいます。そうなると、食事の量を減らされてしまいますよ」
「えぇ~、それはやだ。分かりました、食べちゃいます」
エリィに言われて、モエはもぐもぐと掻き込むように食事を食べていた。
この日からのモエの一日のスケジュールはこうなった。
陽の昇る前に起床。
服を着替えたら食堂の掃除。
朝食を食べると、人間の一般教養の勉強。
昼食前に食堂の掃除。
昼食を終えたら再び勉強。
夕食前に三度目の食堂の掃除。
掃除を終えるとさらに勉強。
夜食を食べてから、軽く食堂の掃除。
体を濡れた布で軽く拭って一日の汚れを落とす。
その後就寝。
他の使用人たちに比べてこなす仕事の量は少ないものの、圧倒的に勉強の時間が多い。というのも、イジスが自分の専属使用人にしようとか口走ったためである。
もし、ガーティス子爵家の誰かの使用人になるというのであれば、それなりの教養と所作を求められてしまう。だからこそ、これだけ勉強に時間が充てられてしまっているというわけだ。マイコニドであるモエには、人間たちの一般常識が著しく欠如しているのだから、当然というわけである。
(そういえば普通に喋っていたので気付きませんでしたが、マイコニドも私たちと同じ言葉を使っているのですね。普通にやり取りできるところを見ると、マイコニドたちもある程度文化的な生活を営んでいるのかも知れませんね)
モエを見ながら、エリィはそのような感想を持った。
午前中の勉強を見終えたエリィは、モエにこう告げる。
「それではモエさん。今回からは食堂の清掃は一人で行うように。さすがに私もいつまでもあなたに張り付きっぱなしというわけには参りませんのでね」
「ええーっ!?」
エリィから告げられたモエは、大声で驚いていた。
「大丈夫ですよ。ここまでの仕事ぶりを見るに、もう一人で行っても大丈夫と判断しました。念のために直前にチェックをさせてもらうので、いい加減な事はしないで下さいね」
「わ、分かりました。せ、精一杯、頑張りましゅ!」
一人で任される緊張からか、盛大に噛んでしまうモエ。その様子がエリィのツボに入ってしまったのか、エリィが見た事ないくらいに笑っていた。
「うぐぅ……」
あまりに笑ってくれるものだから、モエはついつい不機嫌に頬を膨らませるのだった。
こうして、ついにモエは単独で仕事を任される事になったのだが、はてさてうまくこなせるのだろうか。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説



お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる