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第11話 イジスの異常の原因
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「うーむ、せっかくモエにかっこいいところを見せようと思ったのにな。隊長が強すぎたか……」
訓練を終えたイジスは、汗を洗い流して部屋に戻るなり、そんな愚痴を漏らしていた。
「イジス様は単純に鍛錬不足です。隊長との間には経験の差がありますから、それは敵わないでしょうね」
「ランスはいつも遠慮なく言ってくれるな。ま、それがいいんだけどね」
使用人がちょうど紅茶を持ってきたので、それを飲みながらイジスは苦笑いをしていた。
そんなイジスを見ながら、ランスはズバっとイジスに質問をぶつける。
「イジス様はだいぶあのマイコニドにご執心のようですけれど、どうされたというのですか」
ランスから思わぬ事を言われて、イジスは驚いたようにランスを見ている。
「以前のあなたなら、こういう事はまったくなかったというのに、どうしてそこまで自分を見せつけようとするのですか」
ランスの指摘には、ちょっと怒りのようなものが混ざっていた。
それも無理のない話だった。なにせ今までもそれなりに貴族の令嬢との間で婚約話などが出ていたというのに、まともに応じた事がないのだから。まるで女性に興味がないですと言っているようなものだった。
それだというのに、今回はやたらとマイコニドの女性であるモエに対してご執心なのだ。さすがに好奇心だけで話が済むようなレベルではなかったのである。
イジスはとにかく魔物が出たとか事件が起きただとか、やたらと物事に首を突っ込みたがるところがあった。もしかしたら、モエに対する行動もそれが原因かと考えてみたのだが、今日の鍛錬を見せつけようとした行動を見て、どうも違うと感じたランスなのである。
正直、この勘は当たって欲しくはなかった。今まで女性にまったくというほど興味を示してこなかったイジス。そのイジスが初めて興味を示した女性、それが人外のマイコニドなどというのは、下手をすれば醜聞として広まりかねないのだから。
いろいろと心の中で思っているランスの前で、イジスは顎をいじりながら何やら考え込んでいた。
「う……ん……? そんな風に見えていたのかな?」
「誰がどう見てもそう思われると思います」
疑問を返してきたイジスに、ランスは間髪入れずに言い返していた。さすがにここまでズバッと言い返されると、イジスはただ困惑するしかなかった。
「あれだけ事あるごとに名前を呼ぶのですから、ご執心と見られて当然でございます。確かに見た目としてはイジス様との釣り合いは取れましょう。ですが、彼女は平民どころかマイコニド。人間ではないのですから、その辺りは弁えて頂かないと困ります」
ぐちぐちとお小言を言い続けるランスに対して、イジスは耳を塞いで抵抗していた。
だが、イジスにしてみても確かに不思議といえば不思議だった。
モエと初めて会ったのは、まだたった3日前の事なのだ。しかも夜の森の中だ。
だというのに、初日の段階からすでにモエの事が気になって仕方がなかった。
ひと目惚れの可能性だってある。でも、モエはマイコニドなのだから、もしかしたら彼女の胞子の影響が出ているのかも知れない。なにせ、森の中から屋敷に戻ってくるまでの間、自分の背中にモエをずっとくっつけていたのだから。影響が大きく出る至近距離でしばらく接触していたのである。
ところが、この考え方にも穴があった。それは、モエの胞子による影響がまったく不明だという点だ。長時間近くで一緒に居るというのなら、今現在モエに仕事を教えているエリィだって該当する。イジスとの違いは男性か女性かというくらいだ。モエが女性型だからとはいっても、さすがにこれは暴論と言わざるを得ないだろう。
今はっきりしているのは、やたらとモエの事が気になって仕方がないという事実だけなのだった。
「ランス、あまり憶測で物を言うんじゃない。確かに冷静に考えれば私がモエにご執心かも知れないが、それがモエのせいかは断言できない話だ。それは司祭が来て結果が出るまで、二度と口にしないでくれ」
「……承知致しました。ですが、あまりご自身の仕事をおろそかにするようでしたら、その時はイジス様を椅子に縛り付けさせて頂きます。それはよろしいでしょうか」
「……父上に叱られるよりはマシだ。ぜひともそうしてくれ」
冷静に考えたイジスは、ランスの言い分を受け入れた。自分が仕事をおろそかにすれば、それだけガーティス領の経営に影響が出る可能性だってあるのだ。領民の生活を考えれば、このくらいの我慢ならしてやるという覚悟だった。
その覚悟のおかげか、この日からしばらくの間、イジスの口からモエという単語が漏れ出る事は少なくなったのだった。少々落ち着かない様子は見られたものの、それでもかなり静かになったので、ランスをはじめとしたイジスに関わりのある人物たちはほっと胸を撫で下ろしたものだ。
はたして、イジスがモエに示していた反応は、モエの胞子による影響なのか。はたまた、まったく別の要因によるものなのか。その結論は、結局先延ばしとなったのだった。
訓練を終えたイジスは、汗を洗い流して部屋に戻るなり、そんな愚痴を漏らしていた。
「イジス様は単純に鍛錬不足です。隊長との間には経験の差がありますから、それは敵わないでしょうね」
「ランスはいつも遠慮なく言ってくれるな。ま、それがいいんだけどね」
使用人がちょうど紅茶を持ってきたので、それを飲みながらイジスは苦笑いをしていた。
そんなイジスを見ながら、ランスはズバっとイジスに質問をぶつける。
「イジス様はだいぶあのマイコニドにご執心のようですけれど、どうされたというのですか」
ランスから思わぬ事を言われて、イジスは驚いたようにランスを見ている。
「以前のあなたなら、こういう事はまったくなかったというのに、どうしてそこまで自分を見せつけようとするのですか」
ランスの指摘には、ちょっと怒りのようなものが混ざっていた。
それも無理のない話だった。なにせ今までもそれなりに貴族の令嬢との間で婚約話などが出ていたというのに、まともに応じた事がないのだから。まるで女性に興味がないですと言っているようなものだった。
それだというのに、今回はやたらとマイコニドの女性であるモエに対してご執心なのだ。さすがに好奇心だけで話が済むようなレベルではなかったのである。
イジスはとにかく魔物が出たとか事件が起きただとか、やたらと物事に首を突っ込みたがるところがあった。もしかしたら、モエに対する行動もそれが原因かと考えてみたのだが、今日の鍛錬を見せつけようとした行動を見て、どうも違うと感じたランスなのである。
正直、この勘は当たって欲しくはなかった。今まで女性にまったくというほど興味を示してこなかったイジス。そのイジスが初めて興味を示した女性、それが人外のマイコニドなどというのは、下手をすれば醜聞として広まりかねないのだから。
いろいろと心の中で思っているランスの前で、イジスは顎をいじりながら何やら考え込んでいた。
「う……ん……? そんな風に見えていたのかな?」
「誰がどう見てもそう思われると思います」
疑問を返してきたイジスに、ランスは間髪入れずに言い返していた。さすがにここまでズバッと言い返されると、イジスはただ困惑するしかなかった。
「あれだけ事あるごとに名前を呼ぶのですから、ご執心と見られて当然でございます。確かに見た目としてはイジス様との釣り合いは取れましょう。ですが、彼女は平民どころかマイコニド。人間ではないのですから、その辺りは弁えて頂かないと困ります」
ぐちぐちとお小言を言い続けるランスに対して、イジスは耳を塞いで抵抗していた。
だが、イジスにしてみても確かに不思議といえば不思議だった。
モエと初めて会ったのは、まだたった3日前の事なのだ。しかも夜の森の中だ。
だというのに、初日の段階からすでにモエの事が気になって仕方がなかった。
ひと目惚れの可能性だってある。でも、モエはマイコニドなのだから、もしかしたら彼女の胞子の影響が出ているのかも知れない。なにせ、森の中から屋敷に戻ってくるまでの間、自分の背中にモエをずっとくっつけていたのだから。影響が大きく出る至近距離でしばらく接触していたのである。
ところが、この考え方にも穴があった。それは、モエの胞子による影響がまったく不明だという点だ。長時間近くで一緒に居るというのなら、今現在モエに仕事を教えているエリィだって該当する。イジスとの違いは男性か女性かというくらいだ。モエが女性型だからとはいっても、さすがにこれは暴論と言わざるを得ないだろう。
今はっきりしているのは、やたらとモエの事が気になって仕方がないという事実だけなのだった。
「ランス、あまり憶測で物を言うんじゃない。確かに冷静に考えれば私がモエにご執心かも知れないが、それがモエのせいかは断言できない話だ。それは司祭が来て結果が出るまで、二度と口にしないでくれ」
「……承知致しました。ですが、あまりご自身の仕事をおろそかにするようでしたら、その時はイジス様を椅子に縛り付けさせて頂きます。それはよろしいでしょうか」
「……父上に叱られるよりはマシだ。ぜひともそうしてくれ」
冷静に考えたイジスは、ランスの言い分を受け入れた。自分が仕事をおろそかにすれば、それだけガーティス領の経営に影響が出る可能性だってあるのだ。領民の生活を考えれば、このくらいの我慢ならしてやるという覚悟だった。
その覚悟のおかげか、この日からしばらくの間、イジスの口からモエという単語が漏れ出る事は少なくなったのだった。少々落ち着かない様子は見られたものの、それでもかなり静かになったので、ランスをはじめとしたイジスに関わりのある人物たちはほっと胸を撫で下ろしたものだ。
はたして、イジスがモエに示していた反応は、モエの胞子による影響なのか。はたまた、まったく別の要因によるものなのか。その結論は、結局先延ばしとなったのだった。
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