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ハリネズミな死骸の下

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「酷いな・・・・・・これは・・・・・・」

地獄絵図だった。
何百か何千かはわからない。
数える気にならない程の化け物と人の死骸。

「これじゃ、まるで戦場じゃないか」

生存者はいないのか。
悪臭を我慢し、死骸を避けながら彷徨う。

遺体は一様に鎧を身に纏い、武器を握っていた。
崩壊した木製の柵に、深く掘られた堀。
陣地ってやつか、これ。

どうやら周りの状況からして化け物と人間が殺し合ったようだ。

「うっ・・・・・・」

ん?
なんだ?

俺の耳が、風に紛れて流れてくる微かな呻き声を捉える。
生存者だろうか。

「どこだっ返事をしろっ」

「ぐっ・・・・・・こだ・・・・・・」

反応があった。
聞こえてきた方角を探り、見当をつける。

「ここか?」

全長10メートルはあるだろうか、頭部を昆虫にした熊のような化け物の死骸。
槍でハリネズミのような有様になっている。

呻き声はこの辺りからだ。

恐ろしげな化け物の死骸に更に接近すると、人の手だけが見えてきた。
どうやら死骸の下敷きになっていたらしい。

「おい、大丈夫か?」

呼びかける俺の声に反応し、指先が動く。
よかった、まだ生きている。

「まってろ。今、こいつをっどかすっ」

肩で化け物の死骸を支え、下敷きになっていた人を引っ張り出す。
辺りの簡易的な皮鎧の兵とは異なり、フルプレートで騎士の様な格好をした人が出てくる。
我ながらよくこんな大きな死骸から簡単に引っ張り出せたものだ。
もっとこう、つっかえ棒とかで梃子の原理とか必要になるかと思ったんだが、杞憂だったな。

いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。

「ぐっ・・・・・・まだ・・・・・・誰か、いたのか」

助け出した騎士が血だらけの顔をこちらに向けてくる。
意外な事にパツ金の外人女性だったが、その顔の生々しい切り傷に思わず目を逸らしてしまう。
素人目の俺から見ても不味い状態なのがわかる。

「だ、大丈夫か・・・・・・?」

どうみても大丈夫ではないとわかっていて、そう口にしてしまう。

「ごらんの、通りさ。もう・・・・・・駄目だろうな」

顔や手足だけでなく、腹部からも血が滲んでいた。

「ここは一体どこなんだ?」

「おかしなことを聞く奴だな・・・・・・。お前は、兵士じゃないのか?」

「いや、目が見えないのか?」

「奴ら魔族の、使役する魔物に、顔を引っかかれてな・・・・・・ぐっ」

「・・・・・・ここで、何が起きてるんだ?」

女騎士は皮肉そうに口を歪める。

「ふっ・・・・・・戦争に、決まっているだろうに。もう何百年も続く、魔族と人族のな」

女騎士の息が荒くなる。
うわごとのように、聞き取りづらい言葉を話し始めた。

「・・・・・・なぁ一騎打ちは、どうなったかわかるか?」

「一騎打ち?」

「勇者様はっ・・・・・・ま、魔王に・・・・・・勝ったのか?」

勇者と魔王。
当然脳裏に思い浮かぶのはあの二人だ。
この女騎士は、こんな状態になっても尚、勇者への敬意を向けているのか。

「ああ。勝ったぞ。魔王は、死んだ」

勇者の死は伏せ、魔王の死だけを告げる。
女騎士の厳しい表情が若干、和らいだ気がした。

「そ、そうかっ。よかった・・・・・・これで・・・・・・に・・・・・・」

「お、おいっ、しっかりしろ!」

どうすればいいんだ。
このまま放って置くわけにはいかない。
リュックサックから清潔そうな布を取り出し患部に当てていく。

出血だけでもなんとか止めたいのだが・・・・・・。
そう悩んでいたら、俺の右手が僅かに光ったような気がした。

「あ、ありがたい。治癒魔法が使えるのか。それも・・・・・・無詠・・・・・で」

治癒魔法?
この女騎士はなにか勘違いしているようだ。
恐らくこの怪我で朦朧としてるせいだろう。

だが心なしか、さっきよりも顔色がよくなった気がしないでもない。

その後、しばらくすると女騎士は気を失ってしまった。

「ふう・・・・・・・」

もう少しここで見守るか、と腰を落とそうとすると獣のような唸り声が上がる。

今度はなんだ?
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