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護衛隊

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残る障害は、横一列に並んだ100人程の騎士共。
アリーザのように全身を鋼鉄の鎧でまとい、統率された動きを見せている。

「なんだっあの馬鹿げた魔力はッ・・・!?」

騎士共の後ろに配置された、豪奢なローブを着た集団の呟く声が聞こえてくる。

「怯むな!トーレス将軍をお守りしろッ!」

俺の姿を確認すると、即座に身を隠せる程の大盾を構え、槍が並べられる。
どう見てもすり抜けるような隙間は無さそうだ。

「あれは護衛隊だろうな。レオルノコス軍の精鋭だ、正念場だぞユーマ」

などとお姫様抱っこされたアリーザが解説する。

「・・・・・・大げさすぎるって」

苛立ちと共に勢いを殺すことなく最後の集団に突っ込む。

「来るぞッ!」
「結界を張れ!」

「うぉああああああああああッ!」

ヤケクソ気味に叫びながら、槍の穂先に接触するギリギリの地点で勢いをつけ、思い切り地面に踏み込む。
足元の地面がひび割れ、陥没し、爆発したように砕けた。

全力疾走からの跳躍。
視線を下げ地上の方を見ると、身構えていた鎧の騎士共が俺を見上げ、呆気にとられた顔をしている。

してやったりな気持ちになったのも束の間、一呼吸置いて高速で様々なモノが飛来してきた。
空中を跳躍している最中の俺はアリーザを抱え、姿勢を丸める以外に成す術が無い。

炎や氷塊、石といった攻撃の幾つかが身体に命中していく。
大丈夫、今の俺ならこれ位で死にはしない筈だ。
様々な痛みに堪えながらも、最後の集団を飛び越え、徐々に降下していく。

上手く着地しないと、あっという間に袋叩きにされそうだ。
衝撃に備え、両足を揃えて地面に接触させる。

「うわっととととっとっ」

まるで氷の上でスケートをしてるかのように、長い距離の地面を削りながら滑っていく。
姿勢のバランスを崩しかけながらも、なんとか持ち直し着地地点から数百メートルと滑ってようやく止まる。
靴底が全て削れたが、なんとか着地成功だ。

まだしつこく遠距離攻撃が飛んでくるが、着弾までにその殆どがバラけている。
着地による砂埃が意図せず目くらましになっているようだ。

「くそッ!なんて奴だ!」
「撃て撃て!撃ち続けろ!」

後はひたすら全速力で走って引き離すだけの簡単なお仕事。
背後からの狙い撃ちを反らすため、できる限り不規則にジグザクに動き続ける。

しだいに兵士達の喧騒が遠のいていく。
飛来する脅威も少なくなり、それも数分走る内に完全に途絶えた。

「はああ・・・・・・やっと諦めたか。しつこ過ぎるってあいつら」

とりあえずの危機は脱したが、それでも走り続ける。
魔物の群れは、じきにあの集団とぶつかるだろう。
問答無用で俺を殺そうとしてきたような連中だ、流石にもう未練は無いさ。
せいぜい足止めになってもらおう。

「・・・・・・今しがたのユーマの動きを見て確信した」

危機を脱しても黙りこくっていたアリーザが口を開く。

「なんのことだ?」

「俄かには信じがたいことだがユーマ、お前は勇者様と魔王を殺したことでその力を継承した可能性がある」

「まじっスか」

「マジだ」

アリーザの説明いわく、この世界は生き物を殺すとその力が幾らか宿ると信じられているそうだ。
ゲームでよくある経験値みたいなものだろうか?
俺の体の変化はそういうことなのか。

「だが力のみならず外見からしてこれほどの変容するという話は、聞いたことがないし見たこともない」

力が宿ると言っても、あくまでほんの一部。全てを引き継ぐことはない、というのが一般の常識だという。

「勇者様や魔王は規格外の存在だ。例え一部でもその力は膨大で影響が大きかったのかもしれん」





レオルノコスの軍隊を強引に回避し、走り続けて数時間。
速度は落ちることなく、むしろ上がり続けていた。
歩幅の間隔が凄いことになっている。
力の入れる方向を少しでも変えただけでまた大ジャンプしそうだ。

だというのに一度も息切れをしていない。
それどころか、力が溢れてくる。

勇者と魔王の力すごい。

「そろそろ降ろしてくれユーマ」

「もう大丈夫なのか?」

「ありがとう。お陰で魔力も大分回復した」

確かに傍から見ても顔色が随分よくなった。

「ユーマにはまた命を救われたな・・・・・・」

「そうだな、2回くらいは命の危機を救ったな」

「あ、ああ。返しきれぬ恩義がある。私に出来る事なら・・・」

「デートしてくれ」

「え?」

「この世界の町でデートしよう」

「デ、デート・・・・・・私としてはこう、騎士として報いることをしたいのだが」

「駄目だデートだ」

「っわ、わかった機会があれば」

やった。やったぞ。
これは大いなる一歩だ。

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