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突破

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走り続けて結構な時間が経った。
魔物の群れとは、まだ距離的に余裕がある。

「ふう、この分なら逃げ切る事ができそうだな」

とにかく今は走り続けるしかない。

「すまん・・・・・・私も魔力が切れていなければ」

魔力って、やっぱそういうのがアリな世界なのか。

「アリーザは魔法を使えるのか?」

「身体強化や簡単な魔法しかできないよ」

すげー。普通にできるようだ。

「俺にもその、魔力とかあったりするのか?」

「なければどうやって私の傷を治したというのだ」

「実はアリーザに魔法を使った自覚がなくてな」

「・・・・・・最初から、説明してほしい」

アリーザを抱きかかえながら走りつつ、思い切ってこれまでの経緯をすべてゲロってみた。

「なんてことだ・・・・・・勇者様が・・・・・・ではユーマは・・・・・・」

しまった、全てを打ち明けてからアリーナが頭を抱えて情緒不安定になってしまったぞ。
勇者を崇拝している様子だったからな。

そして間の悪いことに、このタイミングで先頭に兵士らしき集団を発見。
俺達が逃げている方向と一緒だ。

顔を会わせたらまた魔族だなんだと誤解されるのはわかりきっている。
アリーザならば誤解を説いて貰えるかもしれないが、当の彼女は今精神がアレな状態だし、それに後方から魔物の群れが迫る状況でそんな悠長なことはしていられない。

突っ切るか。避けるべきか。
後ろを振り返り、魔物の群れとの彼我の差を測る。

回り道をするとなれば、相当な距離を大回りして走るハメになるだろう。
・・・・・・難しい判断になるが、やはり猶予があるように思えないな。

そんなことを考えている間でも走っている訳で、前方との距離が縮まっていく。

思っていたよりも大規模な集団だ。
数千人といるんじゃないだろうか?

このペースだと簡単に追いついてしまう。
随分遅い移動速度のようだし、あれじゃ魔物の群れにも追いつかれるんじゃないか?
戦場跡の惨状が頭に思い浮かぶ。

「どうしたユーマ?」

お、どうやらアリーザがショックから立ち直ったようだ。

「アリーザのお仲間らしき集団がこの先にいるんだ」

「む、あれはレオルノコス国の軍だな、撤退しているのだろう」

「俺が敵でないと、攻撃しないよう説得してくれないか」

「無理だな。あの国は魔族に対する憎しみが深い。交渉に出ても私が裏切り者として拘束されるのがオチだ」

世知辛い異世界だな。
あ。後方のヤツがなんかゼスチャーしてる。
気付かれたぞこれ。

「どうするつもりだユーマ」

腕を組み、開き直った様子のアリーザ。
こっちが聞きたい心境なんだが。

どの道もう引き返せない距離にきてしまった。
一か八か。

「突っ切るしかないな!」

足に力を込め、更に加速を試みる。

「と、止まれ!!何者だ!?」

この距離ならまだ敵か味方か判別がつかない様だ。

「日本人だっ!」

急接近する俺に戸惑っている様子の兵士、その横を抜き去る。
そのまま一気に集団の間を縫うように走り抜けていく。

「お、おいッあれは昨夜の魔族じゃないか!?」

そう叫んだ兵士の脇を通り、交差する際に目が合った。
俺を串刺しにして、焼いた奴らだった。

「死んでなかったのかっ!?」

「馬鹿なッ!報復にきたというのか!?」

「ひいいいぃっ!!!」

困惑と焦りで攻撃してくる様子はない。
だが、周囲の兵士達に彼らの騒ぎが伝播していく。

「あ、あいつは魔族だッ皆止めろっ!」

「まてっ奴の抱えているのは人族ではないか!?」

「おのれっ騎士を人質にしてるぞ!」

おもいっきり誤解されているぞ。
しかし、これなら攻撃されずにすみそうだ。

「逃がさんッ!」

と思っていたら、躊躇無く槍を突き出してくるちょび髭の兵士が現われた。

「うわっ」

だが槍は高速で移動する俺を捉える事はできず、空振りに終わる。

「逃げるかッ魔族!」

怒鳴るちょび髭兵士を無視してそのまま駆ける。

俺という異物が集団に飛び込んだ事で、兵士達の多くは混乱しているようだ。

これじゃ魔物の接近を知らせるのは無理そうだな。
今は切り抜けることだけを考え、ただ真っ直ぐに集団を突っ切る、それしかない。
次々とすれ違う兵士達を抜き去っていく。

だがちょび髭兵士の行動が導火線になったのか、しだいに周囲の兵士達も攻撃してくるようになってきた。

「仲間の仇!」

真正面から直剣で斬り込んでくる兵士、素早く身体を横に反らしてをかわす。

「死ねぇッ魔族!」

ガチムチのおっさんが横薙ぎに振るう槍斧を屈んでやり過ごす。

俺に向かって次々に繰り出される凶器の動きがよく見えた。
身体もそんな俺の思考に応え、よく反応している。

弓矢や杖を持つ者は攻撃してくる様子はない。
味方に当たる危険があるからだろう。

しかし、それでも数が多すぎる。

剣や槍が次々に繰り出され、俺の体に斬り傷が増えていく。

痛い。
普通に凄く痛い。
優れた身体能力になっても痛いものは痛い。

もはやアリーザの存在なんておかまいなしだ、こいつらこの美女が目に入らんのか。

死ぬ死ぬ。
なんだこの状況。
どうしてこうなった。

ただ俺の半身、青い皮膚の方は痛くない。
というか、傷がつかないみたいだ。どんだけ頑丈な皮膚なんだ?

という訳で上手く左腕を盾に凌ぎながら突き進んでいく。

くそ。
まだか。
まだこの集団を突破できないのか。

実際の経過時間は数十秒ってとこなんだろうけど。
一秒をどこまでも引き伸ばせそうな感覚がむしろ拷問のようになっている。

「なにをやっているかッ!どけぃ我が仕留めてくれる!」

一際大きな声が前方から響き、人垣が割れた。

仁王立ちになって立ち塞がる大男。
バカみたいにでかい、身の丈以上の剣を肩に担ぎ、待ち構えている。

なんだってこいつらは、こんなにもムキになって俺を殺そうとして来るんだ。
連続する理不尽な状況に、恐怖よりも怒りが湧き上がってくる。

「薄汚い魔族めっ!潰れるがいいッ!」

こちらの駆けるタイミングに合わせ、特大剣が上段から豪快に振り降ろされる。

「俺がっ何したって言うんだよッ!」

怒りの感情に任せ、剣身の平らな部分を力の限り手の甲で叩いた。

高い金属音が辺りに響く。
俺の頭部を割ろうと迫っていた剣先は、逸れるどころか横へと大きく弾き飛ばされる。

「ぐうぅッっ!」

大男は特大剣を握っていた手を押さえ呻いている。

「ギャラン隊長の特大剣を素手で弾きやがった!?」
「ば、化け物がぁっ!」

睨みつつも後ずさりしていく周囲の兵士達。
中には恐怖で歪んだ表情を浮かべている者もいた。
攻撃が完全に止んでいる。今がチャンスだ。

そうして、ようやく集団の向こう側に景色が映る。

あともう一息だ。

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