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プロローグ

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熱い風が荒野を吹き荒ぶ。

空を覆う毒々しい色合いの雲間から赤い稲妻が断続的に空気を切り裂き、赤茶けた広大な大地には町が丸ごと収まりそうな巨大なクレーター、その中心で争うは、史上最強と詠われた勇者と歴代最強と恐れられた魔王。

互いに種の存亡をかけた戦いは、文字通り世界を揺るがしていた。

大地を砕き、海を割り、空を焼く。
やがて、膨大な力の鬩ぎ合いによって途方もない規模の力場が生みだされる。
それは時空をも歪ませ、空間にまで亀裂を走らせた。

そして、その影響はついに異世界である地球にまで及ぼうとしていた。



「俺の彼女になってくれ!」

「・・・・・・結構です」

どこか地味目な印象を受ける少女が呼び出された屋上から足早に去っていく。

「くっ・・・・・・これで俺のクラスは全滅か」

近頃の男が草食系男子と揶揄される昨今、俺こと外波そとなみ 勇魔ゆうまは、そんな流れに逆らうが如く彼女欲しさに毎日クラスメイトに声を掛けていた。

「がっつき過ぎだろ」

膝から崩れるようにコンクリートの地面に突っ伏する俺に呆れた調子で声を掛けた来たのは同級生のモブA。

「入学早々綺麗どころ全てに告白するとか、どんなメンタルしてんだよ」

馬鹿にした様子で耳障りな甲高い声で語り掛かけてくるのはモブBだろう。
こいつらは毎回俺が告白に失敗する度に冷やかしに来る連中だ。

「まだだ。まだ他のクラスが・・・・・・!」

拳を握り締め、俺は不退転の決意で立ち上がる。

「いやいやもう無理でしょ」

「そんなことは・・・・・・」

「外波が女に餓えてるって事はとっくに学校全体に知れ渡ってるつーの」

なんて事だろうか。
高校に入学して3ヶ月、俺の青春は早々に終わりを迎えようとしていた。



夕方。
普段通学に利用している電車を利用することも忘れ。
町の人ごみに揉まれながら、失意と悔恨に頭を抱えつつ歩む。

ああ。彼女が欲しい。

中学卒業と共に中二病もある程度収まり、恋愛に興味を持ち始めた頃が遥か昔の事の様に思える。

一体なにがいけなかったのだろうか。
店の窓に映る俺のフェイス。
良くも悪くもない、俺の中では平均的という評価だ。
最初は女子に話しかけるだけでもキョドっていたものだったが、それも数をこなすうちに克服できていた。

クソ、こうなったらこのまま町でナンパでもして更に経験値をあげてやる。
学校の女子が駄目なら町のお姉さんだ。

早速すれ違おうとしていたOLに声を掛けようと一歩を踏み出す。

が、ふいに足元がふらつく感覚に襲われた。

「おおっ?」

夏の暑さのせいか。いや、違う。

「地震か」

だが日本人にとってこの程度の揺れには馴れたもの。
まあどうせすぐに収まるだろう。

「・・・・・・むぅ長いな」

意外と揺れが続いている、もう3分は続いているんじゃないか。
と言うか、収まるどころか揺れが激しくなってきてるぞ。

「やばい、でかいぞこれ」

これは震度5以上はありそうだ。
この時点で周りの通行人からも悲鳴が聞こえ始めた。

「ど、どこか安全な場所は」

そう決断するには時既に遅かったようだ。
周辺の建物からの窓ガラスが割れる音が響く。
割れた破片が路上に降り注ぎ、凶器となって通行人を切り裂いている。

そして、あちらこちらでビルが倒壊し始めた頃。

「お、収まった・・・・・・?」

揺れがぴたりと突然、収まる。
と思ったのも束の間。

「ぬわっ今度は何だッ!?」

突如、突風のような風が吹き荒れ始める。
町全体がかき回されているかのような暴風。

あまりの風圧に身体が押され、危機を感じて咄嗟に近くのポールに掴まった。
直後、俺の体が強風に煽られ浮き上がる。

「ぐっぬぬぬぬぬっ・・・・・・・」

顔に叩きつけられる強烈な風圧で視界が歪む、その端では中空へ吹き飛ばされる人々が映った。
路上のコンクリートでは車が転がり、火花が散っている。

今やポールに掴まる二本の腕によって辛うじて飛ばされずにすんでいる状態だ。
女子のハートを射止めるために普段から筋トレしていてよかった。

そんな、あらゆるモノが舞う空に奇妙な光景を目撃する。

「あ、あれはっ何だ!?」

何も無いはずの中空に不自然な歪みのようなモノを見つけたのだ。
それは、暗い切れ目のようで辺りに浮く全てのモノを掃除機のように吸い込んでいた。

「うわあああああああッ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!!」

悲鳴と共に人々もまた次々と吸い込まれていく。

「きゃああああああああああああッ」
「つっ!?」

少女の悲鳴に反応し、俺の傍を掠めるように飛んできた人の手を反射的に掴んでしまう。

飛ばされてきたのは学生らしき女の子。
超美少女だコレ。
ちくしょう、なんてタイミングだよ。
比較的体重の軽い女の子とはいえ、二人分の重量は流石にきつすぎる。

「お、おい大丈夫かっ」
「は、はいっ。あのっあのっ」

このままじゃ捕まってる手が持たない。

「い、今の内に、どこかに捕ま――」

最後まで言えなかった。
どこかの店の看板だろうか?
俺の後頭部へ漫才のように命中し意識が薄れる。

「くっおっ・・・・・・」

一瞬の力の緩みであっさりポールから手が剥がれてしまった。

「うああああああっ!!」
「きゃあああああっ!!」

ああ、なんて格好のつかない結末だろうか。
そのまま女の子共々、あっという間に断裂の中へと吸い込まれいくのであった。

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