『イケメンだけど文句ある?』ってチャンネル名のYouTuberに出会ったから文句言ってやろうと意気込んだのに、どうしてこうなった!?

i.q

文字の大きさ
14 / 20
第4話 ローションでドッキリとドキドキ

14 突然の留守から生じた予想外の事態

しおりを挟む


「あれ? おかしいな?」

 水曜日の午後三時。蝉が大合唱をする濃緑の桜並木を汗を流しながら歩いた月はレックスのマンションのエントランス辿り着き、困惑した。すっかり顔見知りになったマンションコンシェルジュにレックスの留守を言い渡されたからだ。

 基本的に家事代行業務の際に在宅か否かは前日までに顧客の方から会社または担当スタッフに一報入れるルールとなっており、この日のレックスは在宅の予定になっていた。しかし、コンシェルジュは複数回コールしてもレックスの部屋から応答がないと言う。

 契約当初から急な仕事で突然家を留守にする可能性があると言っていたレックスは、念のため在宅予定時も預けている鍵を持ってくるようにと月に指示を出していた。よって、マンション内に入る事は容易に出来た。ただ、レックスからは留守にするという連絡は一切来ていない。コンシェルジュもレックスが外出した姿を見ていないと言う。

 かつてない事態に月はエントランスで一回、レックスの部屋の前で一回、登録してあった番号に電話を掛けた。しかし、応答はない。

 となると、月は急激に不安になった。

 頭に浮かんだのは常日頃仕事のし過ぎで疲れ気味かつ寝不足気味なレックスが室内のどこかで倒れている光景だった。

 ここ最近、月の家事代行時は種田が常にレックスにぴったり貼り付いていた。よって、部屋にレックスが居るのだとしたら種田も一緒に居る可能性は高く、倒れている可能性はかなり低い。種田が一緒じゃなかったとしても、ただ眠ってしまっているだけかもしれない。

 そう冷静に判断する月の傍らで、もう一人の月が一度強くイメージしてしまった最悪のパターンをどうしても払拭できない。

 月はインターフォンを数回押して改めて反応が無い事を確認すると、預けられている鍵を取り出して玄関ドアを解錠した。

 ドアを開けると空調の効いた冷えた空気が一気に流れ出てきた。しかし、室内の明かりは点いておらず、長い廊下は静まりかえっていた。玄関を閉めるとひんやりと薄暗い空間が出来上がる。部屋に入った瞬間嗅いだ香りもいつものそれとはどこか違うように感じ、月の不安は玄関前にいる時よりもさらに膨れ上がった。

「松田さんっ、いらっしゃいますか?」

 靴を脱がずに三和土で一度中に向かって呼びかけるが何の反応もない。

 空調がしっかり効いているということは中に人がいる可能性が高い。となればレックスは本当に倒れているのかもしれない。

 そう思った月は仕事用のスリッパを取り出して足元に置き、意識を部屋の奥に向けたままの状態でそれに足を通し、大きく一歩前に踏み出した。

 その瞬間、足元にぬるりとした大きな違和感が走った。しかし、そう感じ取った瞬間には時既に遅し。月は摩擦抵抗が限りなくゼロになった床が滑るままに大きく足を取られ、そのまま派手にひっくり返った。

「きゃぁああ!!」

 反射的に上がった悲鳴が床に強く尻もちをつき背中を打ち付ける鈍い音を掻き消し、痛みによる呻き声にすり替わる。そうして倒れた月はべっとりとしてひんやりとした何かが床全体に広がっている事に気が付いた。

「なっ何なのこれぇ!?」

  月が声を張り上げるとほぼ同時に玄関ドアが勢いよく開いた。

「ムーちゃん無事っ――――じゃなかった!!」

 ドアから飛び込んで来たのは肩にタオルを引っ掛けたレックスで、床に月が転がっているのを視認すると濡れた頭髪をぐしゃりと掻き乱した。その背後にはばつの悪そうな顔をした種田がそっぽを向いて立って居た。

 月は数秒間唖然としたまま二人を見上げていたが、我に返ると流石に黙ってはいられなかった。

「ちょっと、何なんですかこれは!?」

 勢い余って叩いた床から粘度の高い液体が跳ねて、月の顔面にべちゃりと数滴かかった。







「本当にごめんね、ムーちゃん。体大丈夫? 痛いとこある?」

 玄関から現れたレックスは三和土にしゃがみ込み、それはもうこれでもかという程謝罪を繰り返し、月を気遣った。

「いえっ、打ちどころは悪くなかったので、大丈夫です」

 レックスが申し訳なさそうにする様子から怒る気になれなかった月は痩せ我慢をしてなんとか笑顔を作った。実際は尻にも背中にもズキズキとかなり痛みが残っている。その痛みが落ち着いてくるまでの間、月はさり気無く患部を摩りながら現状の把握に時間を費やした。

 レックスによって廊下の明かりが点けられ、体を起こした月はまず自らの状態を確認した。ひっくり返って床に接触した部分がどこもかしこもベトベトに濡れてしまっている。黒のパンツも白いポロシャツも水分を吸い込み、生地が体に貼り付く感覚が気持ち悪かった。手にもべったりと付いてしまったそれを掲げて観察する。透明で粘度のあるその液体がトロリと手から滴り落ちた。

「水、じゃないですよね?」

 視線を正面のレックスに向ければ、これでもかというほど眉を八の字にされ液体の正体が明かされた。

「本当にごめん……。これ、全部ローションなんだ……」

 気まずそうに語られた物品名が上手く聞き取れず月は聞き返した。すると、レックスはより申し訳なさそうな顔をした後に項垂れてしまった。

「ムーちゃんが来る前にドッキリで……廊下も奥の部屋も一面ローション塗れにされたんだ」

 なんだそれはと目を見張った月にレックスはしおしおと月が到着する以前に何があったかを説明しはじめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...