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25 肌に馴染んだパーカー

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「あー、やっと見つけた! 森さん、榊課長も居ますよ」

「おいおい、遊びもせずに2人でなにまったり過ごしてんだよ」

自分が頭の中で呟いた言葉に違和感を抱きはっとした瞬間、私の思考は美香と森さんの大声によって寸断された。

2人は座敷に上がってくると、私と課長の前で濡れた水着姿で仁王立ちした。

「ちょっと陸、どこかに行くなら行く場所を教えてくれないとダメでしょ。おかげで森さんとすごく歩き回っちゃったんだから」

「おい榊、お前いつまでこんな日の当たらないところでコソコソしてんだよ。折角旅行に来たんだぞ。少しくらいレジャーしろ。太陽の光を浴びろ。何のための水着だ」

「「………」」

かなりまったり話をしていたせいか私も課長も2人の高いテンションについていけず言葉が出ない。

けれども、私のテンションは美香によって高いほうに引っ張り上げられた。

「あちこち歩き回ってたら、ビーチバレーのコート見つけたわよ。結構本格的なの。アンタがやりたいって言い出すと思って1時間レンタルの予約しといたわよ」

「嘘、そんなのあるの!? やった! バレーやりたいっ、さすが美香!」

私が身を乗り出して反応すると森さんは親指を突き立てた拳をグッと握る。

「さすが川瀬、バレーと聞いたらテンションが違うな。そして喜べ榊。そのコートはビーチの端のほうにあってな。ここから結構歩かないと辿り着けない。要するに我が社の社員が寄り付きにくいところにあるのだ」

「……それ本当だろうな」

課長が疑り深く森さんを見上げたが、それには美香が答えた。

「ええ、さっき歩いて行ったときは社員らしき人はコートに行く途中から全然見ませんでしたよ。森さんが言った通り折角海に来たんですから少しは海らしいことしませんか? 私は森さんとペアを組むので榊課長は陸とペアでゲームしましょ」

にっこりと課長に営業スマイルを向け、適度な距離感で話をする美香はさすがだ。

課長が何を警戒しているのかすべて把握した上で初対面の自分は森さんと組むと予め伝えて女に対する警戒心を解き、信用させようとしている。

課長は考える姿勢になった。

そこで美香は私に向き直る。

「陸だって課長とバレーしたいでしょ?」

そういうストレートな問いは止めて貰いたい。

私がうんと言うか言わないかによって結果が左右されるような気がして困る。

案の定、課長は「どうなんだ?」とこちらを見てくる。

バレーはしたい。

課長を私から誘うような感じになるのは何か嫌だ。

けど、折角沖縄まで来たのに全く遊ばないで帰ることになったら課長が可哀想だとも思う。

「そうですね。折角だから一緒にやりましょう。私のバレーの実力を改めてお見せしますよ」

ストレートに誘う事が痒くて、少しふざけて胸を張る。すると課長はゆっくり立ち上がり、不敵に見下ろしてきた。

「川瀬が唯一俺より優れているところだからな」

「事実ですけど、余計なお世話です!」

思わず不躾に言い返してしまったが、課長はまったく気にすることなく森さんに案内するように言って海の家から太陽の下に出て行った。



「陸と榊課長って私が思っていた以上に仲良いのね。びっくりしちゃった」

男性陣二人の後ろを歩いていると、美香が課長の背中に視線を送りながら小声で話しかけてきた。

「……そんなことないよ」

仲が良いってことはない。偶々私が一課で唯一の女社員であると同時に課長のからかいの対象なだけだ。そう自分に言い聞かせる。

けれども、美香は私が課長と仲が良い上に特別扱いされていると言い張る。

「何でよ」

自分が否定していることを否定されて頬を膨らませると、美香は可愛らしくネイルアートされた女らしい指で私の身体を指す。

「それ。アンタのパーカーじゃないでしょ」

「あっ」

「女相手に明らかにサイズの合わない男物の服着させておくなんて、榊課長レベルの男だったらどうでもいい女に絶対しないと思うけど。少なからず気に入られているのは確実よ。羨ましい」

私はいつの間にか肌に馴染んでしまったパーカーをすっかり返すのを忘れてしまっていた。

そんなことないと私はあくまで言い張ったが、美香は聞く耳を持ってくれない。

私は行き場のないモヤモヤした気持ちを持て余して、借りたパーカーの裾をくしゃりと掴んだ。
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