人は神を溺愛する

猫屋ネコ吉

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誕生

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毎日、毎日弟が産まれて来るのを楽しみにしていた。
なのに今、医者や看護師さん達の怖い顔が目の前を慌ただしく動いてる。
ただただ見守る事しか出来なくて泣き喚きたいのを堪えてた、子供だった自分。
小さな小さな弟は産まれてすぐに小児科ICUに運ばれて行った。産ぶ声も上げる事も出来なかった。
小さな声で兄貴が言った。
「お父さん、お母さんは?赤ちゃんはどこに行ったの?」
「大丈夫だ。大丈夫だから!」
泣きそうな顔のお父さんが自分に言い聞かせるように言った言葉に堪えていた涙が流れた。
声を堪えて泣きながら病院の廊下で誰かが答えてくれるのをひたすら待った。

待ち疲れて病院の廊下の椅子でウトウトして来た頃、ようやく白衣を来たお医者さんが目の前に立った。
「神城さん、大変お待たせしました。」
「先生!!妻は?息子は?」
「奥様は出血が多かったのですが、現在は容態は落ち着いています。命に別状はありません。」
「そうですか、そうですか~」
「意識も回復して、今夜は集中治療室で容態を見ますが、明日には一般病棟に戻れるでしょう。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「息子さんの方ですが…大変難しい状態です」
「「「「!!!!」」」」
「心臓に重大な損傷がありました」
「心臓…」
「はい。心臓が小さい上に血管が脆くて…」
「出来るだけの処置を行いましたが、厳しい状態です」
「お、お願いします!助けて下さい!助けて下さい!お願いします!お願いします!」
「先生!お願いします!弟なんです!僕の弟なんです!助けて下さい!」
「陸兄~」
「うぇぇぇぇ~ん」
「泣くな!空!」
「海兄~だって~」
「俺たちの弟だぞ!きっと頑張ってくれるから…だから…だから…」
ただただ、悲しくて怖くて涙が止まらなかった。

あの日から、先生は3日持つかどうかと言われた弟は、たくさんの山と峠を潜り抜け生き抜いた。
今日、17歳の誕生日を迎えた。
神城悠夜
俺たちの最愛の弟である。
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