人は神を溺愛する

猫屋ネコ吉

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希望へー行ってらっしゃい!~達磨の過去

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達磨が入院して約半年、ようやく退院の許可が出た。
しかし達磨が帰る家も待つ人もいない。
学校も半年も行かなきゃ留年決定的だし退院後どうすればいいのか…悩んでいた頃、事件解決後一度だけ顔を出した夕霧が達磨の元に現れた。

「達磨君、ようやく退院だね、おめでとう。」
「夕霧さん…ありがとうございます!」
「なかなか顔出せなくてすまない…。」
「いえ…俺は寝ていれば良かったけど、夕霧さん達は凄く大変だって陸から聞いてましたから…」
「いや、君にこんな怪我をさせてしまい申し訳ないと思っていたよ。
結局我々は後手後手にしか動けなかったのだから…あの時神城一家が動かなかったら被害はもっと酷かっただろう…本当に申し訳なかった。」

確かにあの場に悠ちゃんが居なかったら達磨は死んでいただろうし子供達からも被害が出ていたかもしれない。
しかし、屋敷の周りを囲んでいた大勢の警察官に達磨の心は助けられたのも事実だ。

「夕霧さん、院長達は?」
「ああ、国外に出ようとしている所を確保した。外交特権無視してね!弱腰の日本政府にしては今回は褒めてもいいと思ったよ。だけどね、それもこれも神城家が絡んでいたお陰でもある。
ただ、プラスな反面マイナス事項も多いから結局はゼロだけどね。」

特にガーディアンは今でも頭が痛い案件である。
あのマッドサイエンスが次に何をしでかすか考えただけで頭痛がするんだと夕霧が心底疲れた顔で俯いている。
初めて会った日から夕霧は随分と痩せていた。
世間の特にマスコミから達磨達を完全シャットアウトしてくれていた。
だから、精神的に大いに助けて貰っていたと思う。
それは他の子供達にも言える事で、あれから既に売れれてしまっていた子供達も見つかり国際問題として発展していた事件は、世界規模で広がり続けている。
しかも現在進行系でだ。
その対応にも追われている夕霧は想像以上に大変だと陸が話していた。
そんな大変な中、達磨を思って来てくれた事が本当に嬉しかった。

「達磨くん…今日私がここに来たのはお願いがあったので来たんだ。」
「お願い…ですか?」
「ああ…達磨くん…私の息子になって欲しいんだ。」
「え!」
「私は両親も事故で既にいないし、私自身もこの身体になってから例え結婚したとしても子供は出来ない。まあ、あの大きな家を維持するだけの経済力はあるが今さら嫁を貰う気もないし、それに職業柄人に恨まれる事もある。そんな私だが君の歩く道を照らす事が出来ると思っている。」
「…道?」
「経済力はあるが生活力は皆無…といってもいい…自分で言うのもなんだが掃除も洗濯も料理もした事が無い…だが、親にはなれると姉と思う人から言われた…だから、達磨くん、私の息子にならないか?」
「…俺、俺…は、頭が良い訳でも無い…決して綺麗な訳でも無くって…グス…それに、それに…グスっ…こんな俺を…こんあ…な俺で…いいんですか?こんなバカな俺で…きっと、きっと迷惑をかけてしまう…こんな、こんな俺で…」
「達磨くん違う、達磨くんがいいんだ!誰でもいい訳ではない、達磨がいいんだ!!」
「う…うっつ…あああぁぁぁ…ああああ…」

子供の様に泣き声をあげる達磨に夕霧は少し照れながら微笑んで、その暖かい手を達磨の頭に乗せて撫でた。
そして、病室のドアの前で陸も貰い泣きしながら達磨が泣き止むのを待っていた。

「達磨良かった…ん…達磨が夕霧の叔父貴の息子になるって事は、俺たちの親戚になるって事になるんだな…クックック…覚悟しろよ~達磨~自重しない一族にようこそだぜ~!」

そんな事まで頭が回らなかった達磨が、その事に気がつくのは夕霧と養子縁組が終わってからだったし、勿論陸も正式な手続きが終わってから教えたんだけどね。
陸達、生徒会と高額寄付している神城家の尽力もあり達磨は留年を免れた。
勿論その為に補修などや追加のテストがあったが、その全てをクリアして達磨は周りの雑音を止めた。

そんな中、達磨は身体を治した後夕霧の道場で鍛え始め強くなりたいという気持ちが更に強くなっていた。
強くなりたい …心も身体も!そして、護りたい。
掛け替えのない…誰かを護りたい!
でも…誰を?
だけど、今は強くなるのが先だ!
そう思っては時間がある時は道場に通っていた。

そんな日々を過ごしていたある日達磨は、待ちに待った報告を聞いた。

「達磨!!悠夜が!悠夜の意識が戻った!!!」
「陸!!!悠ちゃんが!!!」
「今母さんから連絡…来…て…ううううぅぅぅぅ…」
「悠…ちゃ…ああああぁぁ…悠ちゃん!!!起きた!!!!」
「ありがとな、達磨。悠夜が今いるのは達磨のお陰だ。あの時達磨がいなきゃ悠夜の心臓は止まったままそのまま…本当にありがとう。」
「いや…そんなお礼なんて言わないでくれ、あの時悠ちゃんが居なかったら俺はこうして生きていなかった…それに元は俺の妹が悠ちゃんをキャンプに誘ったのが原因で…」
「バカ!何言ってる!達磨!!あの事件は、あの事件を起こした犯人達のせいだ!」
「……陸…だけど…だけどな…。」
「達磨…。」

その日全国のニュースにあの事件で最後まで意識が戻らなかった子供の意識が戻った事が大体的に報道された。
今は別々に暮らしている、あの事件の関わった人達に知って貰うために、あえて流されたそのニュースの一報は大勢の人に喜びの涙を流させた。

時は流れて、達磨と陸は無事高校を卒業となった。
結局達磨は申し訳なさから悠夜に会う事が出来ず、誰かを守る事を仕事にしたいと思い続け卒業後はアメリカに渡り、要人警護のノウハウを学ぶ為の学校へ進む事を決めた。
誰かを護りたいって気持ちはあるが、その対象になる妹もいないが、こんな自分でもきっと誰かの役に立つ事が出来る筈だと信じて…でも、何処かで心の奥底に劣等感が燻っているのを感じてもいた。
虚しさが心に闇を広げていく、そんな達磨を心配しながらも立ち止まらない姿に周りは何も言えなかった。

「じゃあ、行ってきます!」
「達磨…ここはお前の家だ…それを忘れるなよ。」
「…はい、父さん…。」

見送りは玄関でと言った達磨は歩き出した。
玄関出た先に一台のリムジンが停まって窓から顔出しした陸が無言で乗れとドアを開いた。
それに苦笑しながら達磨が乗り込むと静かにリムジンは動き出し一路成田へと向かって行った。

「本当に行くのか?」
「ああ…。」
「そうか…身体大事にしろよ…。」
「ああ…陸もな!」

二人の間に言葉は無くても良かった。
リムジンは成田に無事到着して、搭乗手続きを済ませた達磨は最後までずっと側にいてくれた親友に握手の手を出した。
差し出された手を見た陸が泣きそうな顔でその手を握り返したその時、ロビーに聞こえた声に二人が振り返った。

「達兄~~~~~!!!」
「ゆ、悠ちゃん!!!!」

両手を大きく挙げて、走って来る姿を見た達磨と陸は二人で叫んだ!

「「走っちゃダメーーーーーーー!!!!」」

二人の大きな声にも止まらない悠ちゃんはそのまま達磨に抱き付いた。

「悠ちゃん!」
「達兄~会いたかった!達兄~僕助けてくれてありがとう~!」
「悠ちゃん…」
「達兄!また、何かあった時も僕を守ってね!待ってるから!達兄が帰って来るの!」
「悠ちゃん!!」
「自慢じゃないけど僕、我が儘だから普通の人には僕を守るの難しいと思うんだよね~でも、達兄なら安心して守って貰えるもの!」

腕の中にある確かな命の温もり…
愛おしい命が、この腕にある事が初めて達磨の心と身体に刻み込まれた瞬間に達磨の全身に力が湧き上がって来た。
知らない誰かを守るんじゃない!
自分が護りたい命を自分の命と誇りを掛けて護りたい!

「約束する…絶対強くなって悠ちゃんを護るから!!」
「うん!約束だよ!!」

護るべき者を持った達磨の目に明るい希望の炎が灯った。
そんな達磨の顔を陸が笑顔で見ていた。
場内アナウンスが達磨が乗る飛行機の出発を響かせていた。
力強く立ち上がった達磨に悠夜が言った。

「達兄!行ってらっしゃい!!」
「達磨!気を付けてな!行ってらっしゃい!」
「ああ!必ず戻って来る!悠ちゃん、陸!行って来ます!!」

歩き出した達磨の先にあるのは希望という道。
今度こそ大過なく大事な命を護る為に、その為の力を得る為に達磨は真っ直ぐ前を見て歩き出した。



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メリークリスマス!
お気に入り&お読み頂きありがとうございます(^ ^)
達磨の過去編…次回ラストです。
出来るなら明日更新予定です。
最後まで、よろしくお願い致しますm(__)m
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