人は神を溺愛する

猫屋ネコ吉

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那智、参戦

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片方の入口を封鎖して水分補給と悠ちゃんをソファーに寝かせて全員で椅子に座る。

「ふふふ…那…チしゃん…美味し…」
「「「「………」」」」

そして、全員脱力してしまった…。
本当に悠ちゃんが大物だと感じる一瞬だよ。
適度に休憩が取れて、これから進む道を確認していく。
「嵐山って道は2本か?今の場所ならコッチが近いか…。」
「線路沿いに進むのもアリですかね~歩き難いのは不利になるかもしれませんね。」
「止まってる車でもいたら強奪…借りていけるのになぁ~しかし、どういう力なんだよ?御厨さんと同じ種類の人間が相手だって事かな…。厄介過ぎる!」

今は悩んでる暇は無い。
そろそろ移動開始しないと、ここがバレるのは時間の問題だろう。
達磨は、再度全員に確認事項を伝えた。
「とりあえず、ここから移動する。前衛シャルル、ナビは田中さん、俺が悠ちゃん運びで、殿はアッシュで行く。」
「「「了解!」」」
シャルルが周りを確認して全員で店を出た。
離れた場所から、あの錫杖の音がして来る。しかも、一箇所だけじゃない四方で音が聞こえて来た。

「人数増えたか…マズいな…。」
「ボス…1点突破しますか?」
「まだ、余力は残したい…迂回しよう。」
「では、あちらの道へ入りま!」

道の先々にローブを着た者達が現れた。
しかも、4人5人どころじゃなく総勢50人近い。
錫杖の音は、どんどん近くに集まって来ているようだ。

「1点突破しかないか…シャルル、アッシュ2人共に前だ!田中さんは俺の後ろにお願いします。」
「「了解」」
「はい!」

錫杖の音が一斉に止まった。

「GO!!」

シャルルとアッシュが蹴ちらす人々を避けながら走る!
狭い道だったおかげで、囲まれ難いのが良かったのか一行は全進していた。
しかし、次から次へと湧き出るローブの群れは減ってはいない。
一騎当千のメンバーであっても、限界はある。
このまま囲まれてしまったらアウトだ!
段々と狭まる輪の中に壁を背にして対応するしか出来ない。

「悠ちゃんだけでも!」
「「ボス!!」」

その時、空がガラスの様に割れた!
割れたガラスは光の粒子になって消えて行く。
そして、一行の目の前に那智が立っていた。

「夕霧さん、申し訳ありません。遅くなってしまいましたね。」
「御厨さん!!!」
「結界を崩すのに、ちょっと時間がかかってしまいました。」

ローブを着た者達が、いつの間にか消えていた。
1人を除いて!

そして、静寂だった周りに色々な音が溢れ出した。
人の声と車の音、何よりも達磨の懐にある携帯が鳴っていた。
いつも知っている世界が戻った。

「さて、君は誰かな?どうして、こんな事を?」

ローブを着た少年は肩を震わせていた。
そして、ローブの前を開けて震える声で言った。
「どうして…どうして邪魔するの?僕は帰りたいだけなのに…。帰りたい…帰りたいよ…」
そう言って泣いていた。

ふっと達磨の背中にいる存在が、その鳴き声に反応して、ゆっくりと目を開けた。

「泣き…声…。」
「悠ちゃん!目が覚めたか?」
「あれ?ここどこ?」

思いのほか能天気な声が返って来た事が、やっぱり全員の脱力感を増幅させる結果になった。
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