人魚姫の恋

猫屋ネコ吉

文字の大きさ
上 下
16 / 17

第14話

しおりを挟む
芳樹が出て行った。
愛する人からの最後の手紙は仁に深い悔恨の心を呼び覚ました。

自分から大事な人を奪った女の息子だとフィルターのかかった眼と心で苛んで来た。
自分に与えた苦しみを憎しみを、あの女の代わりに浴びせ続けて来た。
本当は自分にそんな権利も無いのに…。

結局最愛の自分にとって大事な人を追い詰めたのは仁自身であった。
その事を認めたくなくて、最愛の人を奪った女の息子だからと彼に謂れのない罪を勝手に押し付けていた。
そして、最愛に人の願いも想いも汚してしまった!
それはもうどうしようもない事実で、今更どの面出して謝ったところで許されない。

一睡もせずに愛しい人の言葉を何度も何度も読み返して仁は涙を零した。

嵐が過ぎ去ったように静かになった執務室に執事の高倉が声をかけた。

「旦那様。」
「ああ…入れ。」

静かに執務室のドアを開けた高倉は、仁の近くまで行き静かな声で報告した。

「あの方が亡くなられたと病院より知らせを受けました。」
「…そうか。」
「芳樹様のご希望で葬儀は近親者のみで旧姓にてご葬儀されるそうです。喪主も芳樹様ではなく弟である方の名前でおこうなうとの事。」
「…芳樹は…今どこに?」
「私が手配しました都内のホテルに滞在して頂いております。半年分を前払いしておきましたが2、3日世話になると伝言を頂きました。」
「高倉…葬儀に行ってくれるか。」
「畏まりました。」
「それと弁護士を呼んでくれ…。」
「畏まりました。」

仁は再び深い物思いに沈んでいった。


ふっと…ベッドの横で鳴っているスマホの音で目を覚ました芳樹は全身の倦怠感から本格的に発熱している事を自覚した。
スマホの呼び出し相手は病院で全てを丸投げした葬儀会社からだった。

「はい…。」
「華風葬儀の南畑ですが…小早川様の携帯でよろしかったでしょうか?」
「はい。」
「実は喪主様より請求書の送付先をお伺いしましたら…」

葬儀費用についての説明と支払い方法などの説明を10分ほど聞いて電話を切った。
そして、身体がガタガタと震える程の寒気に負けてベッドに潜り込んだ。
そんな芳樹に今度はホテルの備え付けの電話が鳴り、芳樹は掛け布団の中から手を伸ばし受話器を取った。

「…はい」
「お休みのところを失礼致します、小早川様。」
「…はい」
「高倉様より昨日体調不良のご様子でしたので様子を伺って下さいとご連絡がありまして…。」
「……。」
「小早川様?」
「パタッ…」
「小早川様?…今からお部屋に伺います!!」

受話器から流れるツーツーという音を聞きながら芳樹の意識はシャットダウンした。

次に目が覚めた芳樹は点滴の管を落ちる輸液の袋とそれを調節していた背の高い白衣姿の男の背中だった。

「お!意識戻ったようだな。」

振り向いた男の顔を見た芳樹は驚いた!

「なんで…なんでお前がここにいる?」
「そりゃあ俺がここのホテルの契約医だからだな。」
「契約医…」
「ああ…アッチから去年戻って来たんだ、暫く働きたく無いって言ったんだが親父が、なら丁度いいってここに紹介されてな!」
「…そっか。」
「久し振りだな~芳樹!相変わらず美人だな!」
「ああ…竜也…。」



運命は動き出した。
全ての結末を迎えるために…。



続く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない

りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。 終始彼の視点で話が進みます。 浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。 ※誰とも関係はほぼ進展しません。 ※pixivにて公開している物と同内容です。

処理中です...