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助けて!
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「ということなんですけど、どうしてですか?」
どうして抜け殻状態のソラさんが、カンなんとかという組織を壊滅させるに至ったのか。
その理由を知るために、私は酒場の主人に話を聞きに行った。ソラさんに直接聞いても、どうせ反応なんて帰ってこないだろうから。
「ああ……そりゃソラが、ほとんど何も変わってないからだよ」
「……変わってない?」
「そうだ」主人は過去を懐かしむように、「喋らなくなったのは確かだが、根っこのところは何も変わってない。方向音痴なところだって変わってないし、戦闘以外が苦手なところも変わってない」
さらに、と主人は続ける。自慢の息子を紹介するときのような、誇らしげな表情だった。
「優しいところも変わってない。熱血漢なところも変わってない。ただ、行動する前に大きく悩むようになっただけだ。変わったところといえば、それくらいだよ」
「悩む、ですか」
「ああ。自分がこの行動をして、相手が変わってしまわないか。この行動をして、相手の人生が狂わないか。チハヤのようになってしまわないか。それらを総合的に考えてから、行動するようになった。結果として行動できる数と範囲は減ったが、性格上の変化はほとんどないんだよ」
結構な変化に聞こえるけれど。しかし、私よりソラさんと付き合いの長い主人が言うんだ。きっとそちらのほうが正しいのだろう。
「だから、その組織を崩壊させたのはみんなが困ってたからだ。多くの人がソラに助けを求めたから、あいつは動いた。それでの話だ」
抜け殻になんて、なっていなかったということか。私の観察眼が狂っていただけということか。
ソラさんは、街の平穏を守るために、自らの意思で一つの組織を崩壊させた。そして、それをできるだけの力量を兼ね備えていた。
なるほど……面白い人物だ。ソラさん、か。いよいよ、彼に興味が湧いてきた。
それはさておき、
「あ、そうだ。私、そろそろこの街から消える予定です」
「あん? そうなのか? まだ滞在一週間くらいだろ?」
「そうでしたっけ?」滞在期間はどうでもいい。問題は、私が納得できるかどうか。「まぁ、私としては有意義な時間でしたので、今回の旅には、割と満足しています」
「おう。そうか。じゃあ今まで世話になったな」
「お世話になったのはこちらです。ありがとうございました」
宿無し金無の私を、拾ってくれたことには感謝している。
「旅を続けるのはいいけどよ、あんた、弟子はどうするんだ?」
「免許皆伝ですよ。明日にでも伝えるつもりです」
「ふむ……まぁ人の師弟関係に口を出すつもりはねぇよ」
そうしてくれるとありがたい。だが、師弟関係以外には口を出すつもりのようだった。
「それで……例の件なんだが……」
「ああ……はい」ソラさんを旅に連れ出してくれ、という主人の願い。「それは――」
返答しようとした瞬間、
「助けて!」
という悲痛な叫び声とともに、酒場の扉が開かれた。
どうして抜け殻状態のソラさんが、カンなんとかという組織を壊滅させるに至ったのか。
その理由を知るために、私は酒場の主人に話を聞きに行った。ソラさんに直接聞いても、どうせ反応なんて帰ってこないだろうから。
「ああ……そりゃソラが、ほとんど何も変わってないからだよ」
「……変わってない?」
「そうだ」主人は過去を懐かしむように、「喋らなくなったのは確かだが、根っこのところは何も変わってない。方向音痴なところだって変わってないし、戦闘以外が苦手なところも変わってない」
さらに、と主人は続ける。自慢の息子を紹介するときのような、誇らしげな表情だった。
「優しいところも変わってない。熱血漢なところも変わってない。ただ、行動する前に大きく悩むようになっただけだ。変わったところといえば、それくらいだよ」
「悩む、ですか」
「ああ。自分がこの行動をして、相手が変わってしまわないか。この行動をして、相手の人生が狂わないか。チハヤのようになってしまわないか。それらを総合的に考えてから、行動するようになった。結果として行動できる数と範囲は減ったが、性格上の変化はほとんどないんだよ」
結構な変化に聞こえるけれど。しかし、私よりソラさんと付き合いの長い主人が言うんだ。きっとそちらのほうが正しいのだろう。
「だから、その組織を崩壊させたのはみんなが困ってたからだ。多くの人がソラに助けを求めたから、あいつは動いた。それでの話だ」
抜け殻になんて、なっていなかったということか。私の観察眼が狂っていただけということか。
ソラさんは、街の平穏を守るために、自らの意思で一つの組織を崩壊させた。そして、それをできるだけの力量を兼ね備えていた。
なるほど……面白い人物だ。ソラさん、か。いよいよ、彼に興味が湧いてきた。
それはさておき、
「あ、そうだ。私、そろそろこの街から消える予定です」
「あん? そうなのか? まだ滞在一週間くらいだろ?」
「そうでしたっけ?」滞在期間はどうでもいい。問題は、私が納得できるかどうか。「まぁ、私としては有意義な時間でしたので、今回の旅には、割と満足しています」
「おう。そうか。じゃあ今まで世話になったな」
「お世話になったのはこちらです。ありがとうございました」
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「旅を続けるのはいいけどよ、あんた、弟子はどうするんだ?」
「免許皆伝ですよ。明日にでも伝えるつもりです」
「ふむ……まぁ人の師弟関係に口を出すつもりはねぇよ」
そうしてくれるとありがたい。だが、師弟関係以外には口を出すつもりのようだった。
「それで……例の件なんだが……」
「ああ……はい」ソラさんを旅に連れ出してくれ、という主人の願い。「それは――」
返答しようとした瞬間、
「助けて!」
という悲痛な叫び声とともに、酒場の扉が開かれた。
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