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会ったらわかる
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「そういえば、あんた名前なんていうんだ?」
バイト代交渉が一通り済んでから、主人はそう聞いてきた。言われてみれば、私はまだ名乗っていなかったな、なんてことを思いながら、
「ルナ、です」
「ルナか。じゃあルナ、あんたはなんで旅をしてるんだ?」
「旅の目的、ですか」いろいろあるが、要約するとこれだ。「偉大な女性になるため、です」
「ほぉ……そうか。よくわからんな」
「理解されようとは思ってませんよ」
偉大な女性になる、なんて抽象的な目標だ。他人に話しても理解なんてしてもらえない。
だが、それでいいのだ。自分だけが自分の信念を見失わなければいいのだ。
楽しい人生を満喫して、さらに偉大な女性になる。それが私の目標。そのためには、いろいろな世界を見て、自分の可能性を広げておきたかった。
それに、旅をして多種多様な人と出会えるのが嬉しいのだ。私は、人と人との出会いが大好きだ。出会いによって、人が変わって幸せになるのが大好きだ。
まぁ私自身は、人間関係は苦手なのだけれど。
「ルナ。とりあえず裏の掃除をしてくれ」
「了解です」
「おう。ついでに、先輩ともあいさつしとけ」
先輩……なるほど。バイトの先輩か。私もここでバイトする以上、最低限の人間関係を築かなければなるまい。
「裏に行ったら掃除道具はすぐに見つかる。最終的にキレイになってれば構わないから、好きなように掃除してくれ」
「わかりました」
自由にやらせてくれるならありがたい。下手に指示を出されてもやりにくいだけだ。的確な指示ならば喜んで従うけれど。
そういえば、
「先輩とやらはどこにいらっしゃるんですか?」
「ああ……あいつは今倉庫だよ。結構面倒な整頓を頼んだが……そろそろ終わるだろうな。もう少ししたら、掃除道具を取りに来るはずだ。そこであいさつしとけ」
「あいさつしとけ、と言われましても。私はその先輩さんの顔も知らないんですよ」
適当に勘であいさつしてもいいけれど。別人だったらお互いに気まずいだろう。
「ああ、それなら問題ない。あんたなら、会ったらわかる」
会ったらわかる……そんなに特徴的な人なのだろうか。それとも、めちゃくちゃおしゃべりな人なのだろうか。『イェーイ俺先輩』とか出会い頭に言ってくる人なのだろうか。それとも以上に洞察力が優れていて『あ、こいつバイトの後輩だな』なんて気づく人のなのだろうか。どちらにせよ、現実的ではないような気がする。
まぁいい。この街にしばらく留まると言っても、永住するわけじゃないのだ。人間関係が悪くなれば、この街を離れたらいいのだ。
そんな軽い気持ちで、私は店の裏手に回る。倉庫みたいな薄暗い場所だったが、割とホコリは少なかった。
ホコリが少ない、ということは、先輩の清掃員が真面目に毎日掃除してくれているのだろう。ありがたいことだ。これで私はほとんど働かずに給料をもらうことができる。
しかしまったく働かずにお金をもらっても、なんだかムズムズする。最低限の仕事はこなそう。
そう思って壁に立てかけてあったホウキを手にとった時だ。
背後から、物音がした。
ああ……先輩が来たのかな、と思った。
そして私は何気なく振り返ったのだった。
そこに、私の人生を変える出会いが転がっていることも知らずに。
バイト代交渉が一通り済んでから、主人はそう聞いてきた。言われてみれば、私はまだ名乗っていなかったな、なんてことを思いながら、
「ルナ、です」
「ルナか。じゃあルナ、あんたはなんで旅をしてるんだ?」
「旅の目的、ですか」いろいろあるが、要約するとこれだ。「偉大な女性になるため、です」
「ほぉ……そうか。よくわからんな」
「理解されようとは思ってませんよ」
偉大な女性になる、なんて抽象的な目標だ。他人に話しても理解なんてしてもらえない。
だが、それでいいのだ。自分だけが自分の信念を見失わなければいいのだ。
楽しい人生を満喫して、さらに偉大な女性になる。それが私の目標。そのためには、いろいろな世界を見て、自分の可能性を広げておきたかった。
それに、旅をして多種多様な人と出会えるのが嬉しいのだ。私は、人と人との出会いが大好きだ。出会いによって、人が変わって幸せになるのが大好きだ。
まぁ私自身は、人間関係は苦手なのだけれど。
「ルナ。とりあえず裏の掃除をしてくれ」
「了解です」
「おう。ついでに、先輩ともあいさつしとけ」
先輩……なるほど。バイトの先輩か。私もここでバイトする以上、最低限の人間関係を築かなければなるまい。
「裏に行ったら掃除道具はすぐに見つかる。最終的にキレイになってれば構わないから、好きなように掃除してくれ」
「わかりました」
自由にやらせてくれるならありがたい。下手に指示を出されてもやりにくいだけだ。的確な指示ならば喜んで従うけれど。
そういえば、
「先輩とやらはどこにいらっしゃるんですか?」
「ああ……あいつは今倉庫だよ。結構面倒な整頓を頼んだが……そろそろ終わるだろうな。もう少ししたら、掃除道具を取りに来るはずだ。そこであいさつしとけ」
「あいさつしとけ、と言われましても。私はその先輩さんの顔も知らないんですよ」
適当に勘であいさつしてもいいけれど。別人だったらお互いに気まずいだろう。
「ああ、それなら問題ない。あんたなら、会ったらわかる」
会ったらわかる……そんなに特徴的な人なのだろうか。それとも、めちゃくちゃおしゃべりな人なのだろうか。『イェーイ俺先輩』とか出会い頭に言ってくる人なのだろうか。それとも以上に洞察力が優れていて『あ、こいつバイトの後輩だな』なんて気づく人のなのだろうか。どちらにせよ、現実的ではないような気がする。
まぁいい。この街にしばらく留まると言っても、永住するわけじゃないのだ。人間関係が悪くなれば、この街を離れたらいいのだ。
そんな軽い気持ちで、私は店の裏手に回る。倉庫みたいな薄暗い場所だったが、割とホコリは少なかった。
ホコリが少ない、ということは、先輩の清掃員が真面目に毎日掃除してくれているのだろう。ありがたいことだ。これで私はほとんど働かずに給料をもらうことができる。
しかしまったく働かずにお金をもらっても、なんだかムズムズする。最低限の仕事はこなそう。
そう思って壁に立てかけてあったホウキを手にとった時だ。
背後から、物音がした。
ああ……先輩が来たのかな、と思った。
そして私は何気なく振り返ったのだった。
そこに、私の人生を変える出会いが転がっていることも知らずに。
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