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5 それともちょっと大変?

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「ヴァニティ、ってのがこの国の名前」近くの街へ案内してくれるというのでついていっている道中、ランはこのあたりについて説明をしてくれた。「数十年前までは良い国だったらしいんだけどね……というより、先代国王のドゥルール・ドローレが国を収めていたときまでは、良かったんだ。国民に人気もあったし、治安だって良かったし」

 でも、とランは続ける。

「その息子シュメルツ・ドローレが王になってから、いろいろおかしくなったのさ」

 ドゥルール・ドローレの息子がシュメルツ・ドローレ……つまりドローレが姓なのか。名前の後ろに姓がつくのがこのあたりの名前らしいな。
 つまりラン・コーレの場合コーレが名字なのだろう。つまり僕の場合……
 はて……僕の名前はなんだったっけ? ランさんにさっき付けてもらった名前はなんだったっけ?

 ヘル……ヘル・シェイク? 違う……ヘル・なんとかだったと思うんだけど……

 ……まぁいいか。名前なんて名乗らなければいいのだ。『ザコに名乗る名前は持ち合わせていない』とかいって逃げればいいのだ。そうしよう。

「まず兵士の質が下がって……略奪やら強姦やら、横行するようになった。さらに膨大な量の年貢を納めることを義務化して……そりゃまぁ酷い惨状だよ」

 要するに、悪い政治を行ってるということか。その王様を倒して、自らが王になる、と。

「そのために、とりあえず仲間集めがしたかったんだ。武力制圧するにしても政治的に掌握するにしても、一人じゃ厳しそうだったからね」

 一人でなんでもできる、と思い上がっているわけではなさそうだった。しっかりと他人の力を認めて、協力を求めることができる少女のようだった。
 
 ランさんは僕を振り返って、

「あなたなら、一人でもできるだろうけど」

 何を言い出すんだこの人は。

「……何を一人でするんだ?」
「この国を、武力的に制圧」できるわけがない。「あなたなら余裕? それともちょっと大変?」

 なんでできる前提なんだ。余裕でできるか苦労してできるかの違いしかないんだよ、その質問には。

「……さぁな……」
「ありゃ……やけに弱気だね」
「相手の力量も把握せずに、無闇に言い切ることはできないさ」
「そんなに強くても?」

 弱いんですごめんなさい。

「強い弱いは関係がないな」いいか、と僕は言葉を絞り出す。「相手の力量と、自分の力量をしっかりと把握することが勝利への道だ。それを怠ったものは、いつか破滅する」
「へぇ……やっぱり強い人って言うことが違うね。その言葉、覚えておくよ」

 覚えなくてもいい。さっき思いついて適当に行っただけの言葉だ。そんな深い意味はない。

 というか……この声の効果半端じゃないな。声+カリスマの効果で、とんでもない発言力を持っているようだ。この少女……ランが異常に素直ということがなければ、の話だけれど。

 さて、しばらく歩いて、段々と周囲が活気づいてきた。

「ついたよ。ここがヴァニティ」
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