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第二章
2 【4】
しおりを挟む私は高校に入学と同時に携帯電話を買ってもらったが、佐伯君は持つつもりもないらしく、高校生になっても手紙が頻繁に届いた。
携帯のメール機能を連絡の主としている時代で、私としてもその1人だったが、佐伯君に書く手紙は全然苦痛じゃなかった。
楽しいと思える程だった。
そして何より、高校に入学した時、佐伯君と同じ目標を作った。
“一緒の大学へ行く事”。
佐伯君のレベルに合わせる為、私は花の高校生活をほぼせずに、学校と塾と家のを往復生活をしていた。
ただただ目標の為に。
可笑しな話かも知れないが、私は小学校卒業以来、佐伯君と直接会ってはいない。
手紙の文字と電話の声のみ。
だからいくら好きだとしても、“彼氏”という認識はなかった。
友達以上、恋人未満という所か。
佐伯君との再会は、大学入試の日だった。
試験終わりに落ち合う約束をしたので、私は試験より佐伯君と会う事の方が緊張していた。
そんな事を佐伯君に言ったら、きっと会うのを別の日にしようと言われそうで、私は試験に集中しているふりをした。
高校生活3年間を勉強に費やしてきたせいもあり、実際試験は緊張しなかった。
同じ日、同じ時間、同じ場所、で同じ問題を佐伯君も解いていると思うと、心強かった。
全ての試験が終わったのは夕方だった。
待ち合わせたのは校門の前。
家に帰る人込みの中、私は辺りを見回した。
でも、流れる人でよく見えない。
「近藤さん?」
突然名前を後ろから呼ばれ、私はゆっくり振り返った。
「やっぱり。久しぶりだね」
当時の佐伯君の面影はなかった。
同じくらいだった身長も、今は見上げる程だ。
小学生の時は眼鏡をしていたが、コンタクトにでもしたのだろうか。
レンズを挟まないで見られると、何だか余計に緊張する気がした。
私は緊張に恥ずかしさがプラスして、ですぐに下を向いてしまった。
「試験どうだった?」
「うん…なんとか…」
「そっか。良かった」
直視は出来なかったが、佐伯君の声は安心感で満ちていた。
同じ学部を受けるということは、ある意味ライバルでもある。
そのライバルに対しても、“良かった”なんで言ってくれる所は昔から変わっていないと思った。
佐伯君は昔から、クラスメイトの喜びを自分の喜びと出来る子だった。
その気持ちが嬉しくて、私は意を決して上を向いた。
佐伯君の目は優しく細まっている。
佐伯君の背後から、夕焼けの光が漏れてその笑顔が余計に輝いて見えた。
「佐伯君の方は?出来た?」
「んー、まぁまぁかな。一応答えが書けない問題はなかったけど、手応え十分!って程でもないな。何か俺以外、皆勉強出来そうで焦ったし」
「うん…私もそう思った」
「じゃあ他の皆も思ってるかな」
佐伯君は悪戯っぽく笑う。
「でも近藤さんは理数系得意だよね?」
「得意って程じゃないよ」
「そんな事ないでしょ」
「ううん。理数系の方が好きなだけ」
「俺は記憶力試される方が好きだけどなぁ…とりあえず全部覚えればいーんだし」
「佐伯君は1回聞いたり読んだりすると、忘れないって言ってたもんね」
私は何度も頭にすりこまないと覚えられないので、心底うらやましく思っていた。
パッと聞いた感じでは天才型に思えるが、佐伯君の場合はそれに加えて努力もしている。
鬼に金棒…いや、それ以上だろう。
恥ずかしさが完全になくなった訳ではないが、電話や文通でだいぶ免疫が出来ていたようだ。
試験会場の敷地から出る時は、だいぶ緊張が消えていた。
不思議と、佐伯君の横にいる事が心地よかった。
「近藤さん、お腹空かない?」
最寄り駅の手前で、横にいた佐伯君は「ご飯一緒に食べない?」と言った。
私は腕時計を確認する。
まだ夕飯というには早い気もする。
「…って言う口実なんだけど」
佐伯君は足を止め、「またしばらく会えないから」と続けた。
私は急に今佐伯君が隣にいる事が夢のように思った。
佐伯君の言うとおり、私達の間にある距離は大きい。
その距離を埋めるために、同じ大学受験を今してきたばかりだが合格の保証はない。
しかも2人揃ってとなれば、可能性はもっと低い。
私は一瞬でそれを思ったが、佐伯君に向けては笑顔を作った。
「うん。お腹空いたね。ご飯食べていこう」
さすがに駅前だけあって、飲食店が多い。
しかも都内は、ちょっと休憩出来るコーヒーショップなども充実している。
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