モリウサギ

高村渚

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第五章 刑事たち、追い詰める

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 河原崎尚毅は仲間とともに、数名の女性をマンションの部屋に拉致監禁し、薬漬けにして暴行を加え続けた。
 おそらく何人かは闇のうちに葬られ、偶然の隙に外に出られた一人の女性も、薬物の後遺症、それから終わることのない陵辱の恐怖と絶望から完全に精神が崩壊し、永遠に外界との扉を閉ざしてしまった。
 行方不明になった女性たちの捜索は、勇毅の手によりあらゆる方法で妨害された。
 上官の命で捜査を中止させられ、次々と仲間を奪われても、那臣ともおみと、それから古閑こがの二人は事件に喰らいつき、あがき続けた。
 そして自身の首と引き替えにようやく叶った尚毅所有のマンションの捜索は、事前の工作によって不発に終わる。
 それでも捜査をやめようとしなかった古閑は、図られた銃の管理不行き届きで懲戒処分となった。
 猛烈な怒りを胸に、抗議に向かった那臣の行く手を、三人の同僚が塞いだ……。


 己の身の上の如く、憤りに悶える名波の横顔を、那臣はじっと見据えた。
 その思いに応えるべく静かに口を開く。
「……いえ、むしろ、自分が勝手な憶測でリストをいいように解釈し、無実の罪で尚毅を陥れようとしていた、と、話をもっていくつもりだったのではないかと思います。実際リストには『オーディション』とは無関係と思われる失踪事件も含まれていましたから」
「おめぇには前科があるしなぁ……あん時強引にガサ入れやっちまったせいで、組織に黒星付けちまった。上の連中にとっちゃぁ未だに忘れられねえ汚点だろうよ」
 古閑が視線を遠くにる。那臣の失態はまた、古閑自身のそれでもあった。
「ええ。ですがきっかけは自分の根拠のない推測だったとしても、次第に、河原崎尚毅と奴の仲間たちが一連の犯行に関わっている疑いは濃くなっています。
 恭さん、新宿中央署の件、いいですか」
 振られた恭士が、軽く片手を挙げた。
「おうよ。莉愛ちゃん殺害の前にキャバで客として彼女に接触し、AVに出演しないか誘っていたらしい奴が特定できた。そいつをうちの連中に洗わせたら、やっぱり尚毅と繋がりがあったよ。
 例のケイ・シティ・オフィスの社員として、中野区の地域イベントの打ち合わせに参加していたそうだ。区の担当者に裏も取った。
 そしてなんとびっくり、例の旅行代理店の代表者。あいつも別のイベントで、ケイ・シティ・オフィスの社員として動いてたらしいんだわ」
「え? あの『王様の休日』の長谷、でしたっけ? ホテル会員権詐欺疑いの……」
 市野瀬の問いに恭士が頷く。
「では、やっぱり……」
「ああ、那臣、たぶんお前の読みどおりだぜ。
 『王様の休日』って怪しげな旅行代理店、これがそもそも莉愛ちゃんを罠にハメるためだけに立ち上げられたようだ」
「岩城さんに手伝ってもらって、『王様の休日』のサイトの履歴を調べましたが、スカウトさんがりあぽんさんに初めて接触する前日の十一月一日に立ち上げられて、新宿中央署の捜査員さんたちがひととおり調べを終えた十二月五日には、プロバイダのサーバからきれいさっぱり削除されてました。
 結局サイト経由でホテル会員権購入を申し込んだお客さんは、りあぽんさんただお一人。そしてプロバイダはお約束のHANA*SoHです」
「補足裏取りありがとさん。いやみはやちゃん、ホントに優秀な情報屋だな。那臣んとこ飽きたらウチに来いよ、報酬ははずむぜ?」
「那臣さんはなかなか飽きがこない得難い主人ですから、期待しないでくださいね」
「へいへい、仲良しで結構、ごちそうさま。で、次は……なんだったか」
 那臣が肩をすくめて指を折ってみせる。
「他に確認をお願いしたのは遺体発見の状況と、発見者の前後の行動ですが」
「ああそうそう、遺体の第一発見者のおっさんの証言な。
 第一発見者は、現場の通りに面した雑居ビルの二階に入ってる、小さな包装用品問屋の社長。
 前々日にトラブルで納品が滞って、三人の社員と徹夜でなんとか納期に間に合わせた。で、無事一段落ついて、お疲れさんって呑んで、そのまま電気消して事務所内で仮眠してたんだそうだ。
 真夜中に目が覚めた社長は、腹減ったっつって、莉愛ちゃんがタイツを買ったあのコンビニへ行こうと、裏口の非常階段から通りに降りてきて、すぐに遺体に出くわしたらしい。
 それでたまげた勢いで悲鳴上げて階段を駆け上り、他の社員に助けを求めた、と」
「おお、こちらも我ら館組参謀部の推理どおりでしたね。
 やはり、犯人さんにとっては、無人のはずの雑居ビルから突然現れた完全想定外の通行人、しかもあっという間にビルの中に駆け戻って複数人に死体の存在を触れ回られてしまった~、という状況でした。
 目撃者さんがお一人なら、どうとでも処理できたのかもしれませんが、明かりは付くわ複数の声が聞こえるわで、本来、後始末するべきりあぽんさんの遺体を、そのままにして慌てて逃げたのでしょう」
 ぽんと手を打ち納得したみはやとは対照的に、那臣は浮かぬ表情だ。
 推理が当たっていたということは、巧妙で非情な犯行が、奴らの手によって現実に行われたということなのだ。
「その殺害時の状況の推理とやらと、尚毅の連れの行動がどこで繋がるんだ?」
 名波の問いを受け、那臣は視線でみはやに説明の続きを促す。
「どうやらりあぽんさん殺害事件は、指定の時間に現場の路地を通って、指定のATMに向かわせること、が最重要ポイントだったようなのですよ」
「何?」
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