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第四章 刑事の元へ、仲間が集う
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みはやに続いて中へ入ると、言うとおり、庶民那臣にもそこそこ馴染みのある、マンションとしていたって普通の玄関だった。
シンプルなオフホワイトの壁と白木のフローリングの廊下が、奥へと続いている。
用意してあったスリッパをひっかけ、何気なく内装を観察していた那臣に、みはやが腕を絡めてきた。
入り口に近い部屋のドアを指さし、自慢げに告げる。
「一番のウリはここ! 一部屋みっちりの文庫部屋なのですよ。
この白金のマンションには、主に歴史時代小説を置いています。
司馬遼太郎先生、吉川英治先生から佐伯泰英先生、今村翔吾先生まで全巻揃い、ですよ!
どうですかお客さん!」
思わず涎が垂れ、ふらふらとドアノブに手を伸ばしそうになるのを、激しく頭を振って耐える。
「……別の意味で世間から雲隠れしちまいそうだ。その部屋にはしばらく近づかないようにするよ」
まあ、まずはリビングへどうぞ、とみはやがドアを開けてくれた。
リビングは玄関と同様、オフホワイトと白木を基調とした、シンプルで心地よい空間だった。
みはやに勧められ、中央に据えられたファブリック製のソファーに腰掛ける。沈み込む加減が絶妙の、座り心地が最高によいソファーだ。
窓からレースのカーテン越しに、朝日が優しく差し込んでくる。あと温かい飲み物でもあれば司馬遼太郎一気読みに最高の環境である。
またうっかり幸せな妄想に浸りそうになり、那臣は慌てて両手で自分の頬を打った。
「……で、そうだ、雲隠れ……じゃなかった。このマンションにあいつらを匿えなかった理由、その二もあるのか?」
続けてぺしりという音がする。
向かい側を見ると、みはやまで同じ仕草をしていた。ソファーに腰を沈めた条件反射で、みっちりの文庫が恋しくなったのだろう。似たもの主従ここでも、のようだ。
ぶるぶると首を振ると、ツインテールもふるふると揺れた。
「……ええと、その二にして最大の理由はですね、大弥さんとミワちゃんお二人のため、ここのマンションに通ってくださる、派遣のハウスキーパーさんの手配が間に合わなかったのです……」
カウンターの向こうのキッチンスペースに足を向けながら、みはやが応える。かちゃかちゃと茶器を用意する音が聞こえてきた。
「そんな贅沢なもん寄越さなくたって、ヒロヤもミワもいい大人なんだし、自分たちで飯くらい炊けるだろ? 食材だってネットスーパーとかあるだろうに」
微妙な笑みを浮かべていたみはやの瞳が、どろりと淀む。
「……ふふっ……大弥さんはともかく、ミワちゃんに自炊をさせたらダメですよ。大事なお弟子さんを殺されたくなかったら……いえいえ、犠牲者が大弥さんお一人で済むかどうか……なむなむ」
「は? どういうことだ」
みはやは合掌したまま、視線をあらぬ方向へ逸らす。
「……お米を洗剤で洗っちゃうってネタだとばかり思ってたんですが、リアル体験談聞いちゃいました……しかもお米三合に台所用洗剤一本入れちゃった~てへ?とか……。
あわわで楽しそうな光景が目に浮かびますが、もし世界にミワちゃんが千人いたら環境破壊が地球規模でさくさく進みそうです……。
……ほかにも早くお湯を沸かす裏ワザで電気ポットごとレンチンとか、那臣さん知ってましたか? わたしは初めて知りました……」
それはおそらく一生知らなくていい技だろう。下手をすればレンジ本体が爆発しそうだ。
確かにミワはキッチンから隔離した環境に置いた方がよさそうである。あれほど豪勢な待遇である必要性はさておき、衣食住すべて整えてくれるホテルであれば、ミワによる破壊活動の心配もないだろう。
みはやが、テーブルに中国風の茶器のセットを運んできてくれた。
那臣の隣に腰掛けて、小さく可愛らしい湯飲みにお茶を注ぐ。お茶の種類には詳しくないが、すっとした清涼感が鼻腔をくすぐる、よい香りの烏龍茶だ。
一口含んで、舌に残る風味を楽しみ、ふう、と息をついた。
「ともかく、当面の二人の身の安全は確保できた。助かったよみはや、ありがとう」
「やっ……た! 那臣さんに褒められちゃいました! ほくほくにゃはん」
頬を染め、嬉しさ全開の笑みを向けられた那臣は、照れでむずがゆくなったあごを掻く。
「……まあ、しばらくはホテルに閉じこもってもらわなきゃならんが……とりあえずミワの家族やヒロヤの職場やらに無事を知らせておかないとな」
「そのことですが、ミワちゃんも大弥さんも、しばらく公式発表意識不明の重体でいていただいたほうがよろしいかと」
那臣はすぐに反応する。
「内通者がいるってことか? ……まさかNPOの……」
「ご安心ください、代表の小西さんをはじめ、みなさん口の堅いよい方ばかりです。
ただですねえ……わたしも少々お間抜けだったのですよ。スタッフのみなさん同士の連絡は、無料通話アプリHANA*SoHのメッセージと音声通話を利用されておりまして、その……」
あっ、と那臣も息を呑んだ。
そして大きく溜息をついて脱力する。
「……奴らに不利な情報を持ってるかもしれんミワが、あのアパートに現れたって連絡も、サーバを通じて見放題だった、って訳だ」
「汗顔の至り、です」
みはやもしゅんとうなだれた。
「幸いお二人ともご無事で、他にケガ人も出ませんでしたが、アパートの住人さんや近隣の住民の皆様に多大なご迷惑をおかけしちゃいました……ことが落ち着いたら補償はこっそり完璧にさせていただきます」
「いや、お前のせいって訳でもないんだし、そこまでは……それより」
「それより犯人さん、そして犯人さんの飼い主さん、ですよね?
どうオトシマエをつけますか? 生まれてきたことを後悔するくらいのとびっきりの拷問、しちゃいましょうか?
苦手分野ではありますが、網タイツ穿いてローソク片手に頑張っちゃいますよ? びしばし」
「頑張るところがいろいろ根本的に違う」
「承知しております。正しいオトシマエ重要、ですね」
シンプルなオフホワイトの壁と白木のフローリングの廊下が、奥へと続いている。
用意してあったスリッパをひっかけ、何気なく内装を観察していた那臣に、みはやが腕を絡めてきた。
入り口に近い部屋のドアを指さし、自慢げに告げる。
「一番のウリはここ! 一部屋みっちりの文庫部屋なのですよ。
この白金のマンションには、主に歴史時代小説を置いています。
司馬遼太郎先生、吉川英治先生から佐伯泰英先生、今村翔吾先生まで全巻揃い、ですよ!
どうですかお客さん!」
思わず涎が垂れ、ふらふらとドアノブに手を伸ばしそうになるのを、激しく頭を振って耐える。
「……別の意味で世間から雲隠れしちまいそうだ。その部屋にはしばらく近づかないようにするよ」
まあ、まずはリビングへどうぞ、とみはやがドアを開けてくれた。
リビングは玄関と同様、オフホワイトと白木を基調とした、シンプルで心地よい空間だった。
みはやに勧められ、中央に据えられたファブリック製のソファーに腰掛ける。沈み込む加減が絶妙の、座り心地が最高によいソファーだ。
窓からレースのカーテン越しに、朝日が優しく差し込んでくる。あと温かい飲み物でもあれば司馬遼太郎一気読みに最高の環境である。
またうっかり幸せな妄想に浸りそうになり、那臣は慌てて両手で自分の頬を打った。
「……で、そうだ、雲隠れ……じゃなかった。このマンションにあいつらを匿えなかった理由、その二もあるのか?」
続けてぺしりという音がする。
向かい側を見ると、みはやまで同じ仕草をしていた。ソファーに腰を沈めた条件反射で、みっちりの文庫が恋しくなったのだろう。似たもの主従ここでも、のようだ。
ぶるぶると首を振ると、ツインテールもふるふると揺れた。
「……ええと、その二にして最大の理由はですね、大弥さんとミワちゃんお二人のため、ここのマンションに通ってくださる、派遣のハウスキーパーさんの手配が間に合わなかったのです……」
カウンターの向こうのキッチンスペースに足を向けながら、みはやが応える。かちゃかちゃと茶器を用意する音が聞こえてきた。
「そんな贅沢なもん寄越さなくたって、ヒロヤもミワもいい大人なんだし、自分たちで飯くらい炊けるだろ? 食材だってネットスーパーとかあるだろうに」
微妙な笑みを浮かべていたみはやの瞳が、どろりと淀む。
「……ふふっ……大弥さんはともかく、ミワちゃんに自炊をさせたらダメですよ。大事なお弟子さんを殺されたくなかったら……いえいえ、犠牲者が大弥さんお一人で済むかどうか……なむなむ」
「は? どういうことだ」
みはやは合掌したまま、視線をあらぬ方向へ逸らす。
「……お米を洗剤で洗っちゃうってネタだとばかり思ってたんですが、リアル体験談聞いちゃいました……しかもお米三合に台所用洗剤一本入れちゃった~てへ?とか……。
あわわで楽しそうな光景が目に浮かびますが、もし世界にミワちゃんが千人いたら環境破壊が地球規模でさくさく進みそうです……。
……ほかにも早くお湯を沸かす裏ワザで電気ポットごとレンチンとか、那臣さん知ってましたか? わたしは初めて知りました……」
それはおそらく一生知らなくていい技だろう。下手をすればレンジ本体が爆発しそうだ。
確かにミワはキッチンから隔離した環境に置いた方がよさそうである。あれほど豪勢な待遇である必要性はさておき、衣食住すべて整えてくれるホテルであれば、ミワによる破壊活動の心配もないだろう。
みはやが、テーブルに中国風の茶器のセットを運んできてくれた。
那臣の隣に腰掛けて、小さく可愛らしい湯飲みにお茶を注ぐ。お茶の種類には詳しくないが、すっとした清涼感が鼻腔をくすぐる、よい香りの烏龍茶だ。
一口含んで、舌に残る風味を楽しみ、ふう、と息をついた。
「ともかく、当面の二人の身の安全は確保できた。助かったよみはや、ありがとう」
「やっ……た! 那臣さんに褒められちゃいました! ほくほくにゃはん」
頬を染め、嬉しさ全開の笑みを向けられた那臣は、照れでむずがゆくなったあごを掻く。
「……まあ、しばらくはホテルに閉じこもってもらわなきゃならんが……とりあえずミワの家族やヒロヤの職場やらに無事を知らせておかないとな」
「そのことですが、ミワちゃんも大弥さんも、しばらく公式発表意識不明の重体でいていただいたほうがよろしいかと」
那臣はすぐに反応する。
「内通者がいるってことか? ……まさかNPOの……」
「ご安心ください、代表の小西さんをはじめ、みなさん口の堅いよい方ばかりです。
ただですねえ……わたしも少々お間抜けだったのですよ。スタッフのみなさん同士の連絡は、無料通話アプリHANA*SoHのメッセージと音声通話を利用されておりまして、その……」
あっ、と那臣も息を呑んだ。
そして大きく溜息をついて脱力する。
「……奴らに不利な情報を持ってるかもしれんミワが、あのアパートに現れたって連絡も、サーバを通じて見放題だった、って訳だ」
「汗顔の至り、です」
みはやもしゅんとうなだれた。
「幸いお二人ともご無事で、他にケガ人も出ませんでしたが、アパートの住人さんや近隣の住民の皆様に多大なご迷惑をおかけしちゃいました……ことが落ち着いたら補償はこっそり完璧にさせていただきます」
「いや、お前のせいって訳でもないんだし、そこまでは……それより」
「それより犯人さん、そして犯人さんの飼い主さん、ですよね?
どうオトシマエをつけますか? 生まれてきたことを後悔するくらいのとびっきりの拷問、しちゃいましょうか?
苦手分野ではありますが、網タイツ穿いてローソク片手に頑張っちゃいますよ? びしばし」
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