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第四章 刑事の元へ、仲間が集う
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徹夜の大宴会を終え、みはやに連れられてやってきたのは、セレブな邸宅やマンションが建ち並ぶ、白金の街の一角だった。
洒落たオープンカフェと店舗に挟まれた、やや狭い間口から建物に入る。
エントランスの奥まった場所に大理石造りのブースがあり、このマンションのコンシェルジュだというぽっちゃり体型の青年、岩城が迎えてくれた。
糸のように目を細めた笑顔になんともいえない愛嬌があり、岩城個人に対しては、親しみやすい印象を受けたのだが。
「……つい昨日までコンシェルジュってやつは、ホテルのカウンターで、パンフ片手に観光案内する職種だとばかり思ってたんだが……」
首を捻りながら漏らした独り言に、エントランスホール横のエレベーターに向かい、先を進むみはやが振り返って、軽くツッコミを入れる。
「とりあえず、全世界のホテルコンシェルジュさんたちに土下座して謝れレベルの認識ですねえ。まずは先程お近づきになったハイパーコンシェルジュ立貴さんに、泣いて許しを乞うてください。
そして、そもそもこのような集合住宅の管理人さんが、コンシェルジュという言葉本来の意味なのですよ」
「そりゃ悪かったな。この三十一年というもの俺の視界の範囲にコンシェルジュ付きのマンションなんて物体は存在しなかったものでね。
ああ、今のボロアパートの大家のじい様も、朝の散歩の途中でたまに立ち寄ってくれるぞ。番犬と言えるかは全くもって疑問だが、チワワの兄弟が三匹お供についてくるしな」
「なるほど、あの重要文化財指定されそうなアンティーク物件も定期巡回サービス、癒しの専属セキュリティスタッフ付き、だったのですね。わたしとしたことがとんだ把握ミスでした。反省し未来の行動に生かします。次の巡回時こそはチワワなでなでしたいです!
……まあ那臣さんもよい機会ですから、こういった超高級マンションのコンシェルジュさんの、プロフェッショナルな有能ぶりも十二分に堪能しちゃってください。
宅配受け取り、クリーニング取次、タクシー手配にゴミ出しといったデフォルト業務はもちろん、逃がしたハムスターの捜索、ネトゲのアイテム回収、今夜のおすすめデートコース検索からシャンパンに盛るえっちなおクスリの調達までどんとこいです」
みはやは同意を求めるように、エントランスのブースで那臣たちを見送ってくれている岩城にぐっと親指を立てて合図を送る。
岩城もおちゃめな仕草でサインを返してきた。
ということは、本当に怪しい薬の手配まで請け負っているのだろうか、いや冗談だろうと思いたい。
そもそも普通の(?)コンシェルジュ業務から、荒事御免の警備業務まで超一流だという品野のような存在が特殊すぎるのだ。どこのホテルを探したところで、そんな人材がそうそう転がっている訳でもなかろう。
いや、待てよ。
那臣はなるべく後方に視線を向けずに問う。
「……みはや、まさかと思うがそこの彼もそうなのか?」
「いつも笑顔の好青年岩城さんは、休日はアキバの地下に生息する平凡なアイドルヲタクです。
がっ、その正体は、「僕、その勤務条件じゃ忙しすぎて、推しの『めい・ど・あんじゅ』の現場に皆勤できないよ!」という理由で、某国サイバーエージェントのお仕事と超高額報酬をあっさり捨てた漢の中の漢、なのですよ。
幸い、ここのマンションの住人は、皆さん個人の趣味嗜好に寛容なよい方ばかりなので、『めい・ど・あんじゅ』とそのグループ内ユニット『うさみみっく』、神推しリーダーかなぴょんと人気VチューバーSAKSAKのコラボ『レベル9999』の活動がある日は、担当業務に多少の大穴が空いても、生暖か~い目で、遠くから見守っているのです。
そのかわり、めい・ど・あんじゅのライブやオフ会で、かなぴょんの、かなかな☆ぱわぁー!を充電したあとの岩城さんのお仕事ぶりは凄いですよ?
朝、出がけにクリーニングと郵便物出しと一緒にお願いしておけば、夕方帰宅時には、有名企業の極秘経営機密から、総理秘書官のマル秘メールのデータまで、あのなごみ笑顔を添えて渡してくださいます」
もうどこからどうツッコんだらよいのやら、警察官としてサイバー犯罪を咎める気力も失せた那臣は、乗り込んだエレベーターの床に、がっくりとへたり込んだ。
みはやがボタンを操作し、最上階だというみはやの部屋へ向かう。
豪華ホテル初体験と、みはや&ミワ主導の超ハイテンション宴会ノリに圧倒され忘れていたが、そもそも、あの事件直後の説明では、大弥とミワの二人を、どこかのマンションへ匿う予定ではなかったか。
ふと、みはやにそう尋ねると、微妙な笑みが返ってきた。
「……それはですね、理由その一は、谷中のアパートも危険なので、わたしたち二人もしばらくここのマンションに、らぶらぶ雲隠れしたほうがよいかも、です」
「……らぶらぶはさておき、確かにな」
那臣の住むアパートがある辺りは建物が密集し、また通りが驚くほど狭い。
車はもちろん、人がすれ違うのも苦労するような細い路地が、まるで無秩序に線を引きすぎたあみだくじのように区画をつくっている。
あそこで放火などされたらたまったものではない。ことが落ち着くまで、家には帰らない方がよさそうだ。
「こんなこともあろうかと、雲隠れグッズは完備してありますのでご心配なく。みはやちゃんセレクトのスーツにネクタイから、下着に歯ブラシ……パジャマはわたしとおそろです、きゃ」
「……まあ着れりゃなんでもいいが」
エレベーターが目的の階に着く。
みはやは持っていた鍵で、降りてすぐの部屋のドアを開けた。
「まさかここもプール付きとか言うなよ」
「ご期待に添えず申し訳ありませんが、たぶん那臣さんの常識の範囲内の、ごくごく普通のマンションのお部屋ですよ。ちなみにお隣は、岩城さんのヲタク部屋となってます」
「アキバのアイドルのCDでも積んであるのか」
「それもいっぱいあるでしょうが、そのほかに専用の超高性能コンピュータと、その維持装置がぎっしり詰まってます。ちゃんと地下に、専用の発電施設も完備してるんですよ? おかげで周りが停電になっても、快適に夜更かし読書し放題です」
「……左様で」
洒落たオープンカフェと店舗に挟まれた、やや狭い間口から建物に入る。
エントランスの奥まった場所に大理石造りのブースがあり、このマンションのコンシェルジュだというぽっちゃり体型の青年、岩城が迎えてくれた。
糸のように目を細めた笑顔になんともいえない愛嬌があり、岩城個人に対しては、親しみやすい印象を受けたのだが。
「……つい昨日までコンシェルジュってやつは、ホテルのカウンターで、パンフ片手に観光案内する職種だとばかり思ってたんだが……」
首を捻りながら漏らした独り言に、エントランスホール横のエレベーターに向かい、先を進むみはやが振り返って、軽くツッコミを入れる。
「とりあえず、全世界のホテルコンシェルジュさんたちに土下座して謝れレベルの認識ですねえ。まずは先程お近づきになったハイパーコンシェルジュ立貴さんに、泣いて許しを乞うてください。
そして、そもそもこのような集合住宅の管理人さんが、コンシェルジュという言葉本来の意味なのですよ」
「そりゃ悪かったな。この三十一年というもの俺の視界の範囲にコンシェルジュ付きのマンションなんて物体は存在しなかったものでね。
ああ、今のボロアパートの大家のじい様も、朝の散歩の途中でたまに立ち寄ってくれるぞ。番犬と言えるかは全くもって疑問だが、チワワの兄弟が三匹お供についてくるしな」
「なるほど、あの重要文化財指定されそうなアンティーク物件も定期巡回サービス、癒しの専属セキュリティスタッフ付き、だったのですね。わたしとしたことがとんだ把握ミスでした。反省し未来の行動に生かします。次の巡回時こそはチワワなでなでしたいです!
……まあ那臣さんもよい機会ですから、こういった超高級マンションのコンシェルジュさんの、プロフェッショナルな有能ぶりも十二分に堪能しちゃってください。
宅配受け取り、クリーニング取次、タクシー手配にゴミ出しといったデフォルト業務はもちろん、逃がしたハムスターの捜索、ネトゲのアイテム回収、今夜のおすすめデートコース検索からシャンパンに盛るえっちなおクスリの調達までどんとこいです」
みはやは同意を求めるように、エントランスのブースで那臣たちを見送ってくれている岩城にぐっと親指を立てて合図を送る。
岩城もおちゃめな仕草でサインを返してきた。
ということは、本当に怪しい薬の手配まで請け負っているのだろうか、いや冗談だろうと思いたい。
そもそも普通の(?)コンシェルジュ業務から、荒事御免の警備業務まで超一流だという品野のような存在が特殊すぎるのだ。どこのホテルを探したところで、そんな人材がそうそう転がっている訳でもなかろう。
いや、待てよ。
那臣はなるべく後方に視線を向けずに問う。
「……みはや、まさかと思うがそこの彼もそうなのか?」
「いつも笑顔の好青年岩城さんは、休日はアキバの地下に生息する平凡なアイドルヲタクです。
がっ、その正体は、「僕、その勤務条件じゃ忙しすぎて、推しの『めい・ど・あんじゅ』の現場に皆勤できないよ!」という理由で、某国サイバーエージェントのお仕事と超高額報酬をあっさり捨てた漢の中の漢、なのですよ。
幸い、ここのマンションの住人は、皆さん個人の趣味嗜好に寛容なよい方ばかりなので、『めい・ど・あんじゅ』とそのグループ内ユニット『うさみみっく』、神推しリーダーかなぴょんと人気VチューバーSAKSAKのコラボ『レベル9999』の活動がある日は、担当業務に多少の大穴が空いても、生暖か~い目で、遠くから見守っているのです。
そのかわり、めい・ど・あんじゅのライブやオフ会で、かなぴょんの、かなかな☆ぱわぁー!を充電したあとの岩城さんのお仕事ぶりは凄いですよ?
朝、出がけにクリーニングと郵便物出しと一緒にお願いしておけば、夕方帰宅時には、有名企業の極秘経営機密から、総理秘書官のマル秘メールのデータまで、あのなごみ笑顔を添えて渡してくださいます」
もうどこからどうツッコんだらよいのやら、警察官としてサイバー犯罪を咎める気力も失せた那臣は、乗り込んだエレベーターの床に、がっくりとへたり込んだ。
みはやがボタンを操作し、最上階だというみはやの部屋へ向かう。
豪華ホテル初体験と、みはや&ミワ主導の超ハイテンション宴会ノリに圧倒され忘れていたが、そもそも、あの事件直後の説明では、大弥とミワの二人を、どこかのマンションへ匿う予定ではなかったか。
ふと、みはやにそう尋ねると、微妙な笑みが返ってきた。
「……それはですね、理由その一は、谷中のアパートも危険なので、わたしたち二人もしばらくここのマンションに、らぶらぶ雲隠れしたほうがよいかも、です」
「……らぶらぶはさておき、確かにな」
那臣の住むアパートがある辺りは建物が密集し、また通りが驚くほど狭い。
車はもちろん、人がすれ違うのも苦労するような細い路地が、まるで無秩序に線を引きすぎたあみだくじのように区画をつくっている。
あそこで放火などされたらたまったものではない。ことが落ち着くまで、家には帰らない方がよさそうだ。
「こんなこともあろうかと、雲隠れグッズは完備してありますのでご心配なく。みはやちゃんセレクトのスーツにネクタイから、下着に歯ブラシ……パジャマはわたしとおそろです、きゃ」
「……まあ着れりゃなんでもいいが」
エレベーターが目的の階に着く。
みはやは持っていた鍵で、降りてすぐの部屋のドアを開けた。
「まさかここもプール付きとか言うなよ」
「ご期待に添えず申し訳ありませんが、たぶん那臣さんの常識の範囲内の、ごくごく普通のマンションのお部屋ですよ。ちなみにお隣は、岩城さんのヲタク部屋となってます」
「アキバのアイドルのCDでも積んであるのか」
「それもいっぱいあるでしょうが、そのほかに専用の超高性能コンピュータと、その維持装置がぎっしり詰まってます。ちゃんと地下に、専用の発電施設も完備してるんですよ? おかげで周りが停電になっても、快適に夜更かし読書し放題です」
「……左様で」
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