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第三章 刑事、慟哭す
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「と、いう訳だ。その『オーディション』とやらの関係者が、玉置結奈の足取りを知っている可能性がある」
「と、いう訳なんですね。なるほどなるほど」
那臣の話を聞きつつ、みはやはいつの間にやら自分のマグカップにココアを注ぎ、大量のホイップクリームを、幸せそうに盛り足しているところだった。
真夜中にそれは太るぞ、とツッコみかけて慌てて言葉を飲み込む。
女に体重の話は、最悪の地雷だ。無粋な那臣とて、三十一年の人生でその程度のことは学んでいる。
みはやは、大好きなキャラクターの飾りがついたマドラーで、丁寧にこぼさないよう、砂糖たっぷりのココアに、たっぷりのホイップクリームを混ぜ込んでいる。
マグカップ一杯分のカロリーは考えないことにして、那臣は続けた。
「ヒロヤが渋谷で会ったっていう二人組のことも気になるが……とりあえずこの情報については、明日捜査会議でも報告しようと思ってる。
次、お前の番だぞ、みはや。どこで玉置結奈が『オーディション』を受けるって情報を拾った?」
「いえ、こちらは、りあぽんさんの情報です」
「りあぽん……ああ、原口莉愛か。彼女がどうした?」
那臣は軽く意表を突かれた。
原口莉愛は新宿の殺人事件の被害者だが、那臣はすでに捜査本部から事実上の締め出しを食らっている。みはやもこの件は、那臣の先輩で、新宿中央署の捜査員である倉田らに任せておけばよいと言っていたものを。
みはやは極甘ココアをひとくち、至福の表情で口に含んだ。
「実は、りあぽんさんとお友達とのSNSの会話で、お客さんとして店にいらっしゃった方に、セクシー系映像モデル、ぶっちゃけAV出演してみないかって、誘われたくだりがありましてですね」
「ん? そんなもんあったか?……いや、記憶にないな」
目を閉じて記憶をたどる。新宿中央署の捜査本部で一通り目を通した通信記録には、そのような件はなかったはずだが。
「十一月九日午前二時七分の会話です。AVはちょっとぉ~、と恥じらいつつ、まんざらでもないご様子でした」
「十一月ここの……ちょっと待て。本部で令状取ってSNSの運営会社から開示を受けたのは直近二週間分の通信記録だぞ」
「そうでしたっけ。では警視正どの、裁判所に令状請求して、一ヶ月分の通信記録を取りよせてみてくださいな」
違法アクセスの匂いをさらりと流したみはやを軽く睨んで、那臣は溜息をつく。
「……それで、原口莉愛のAVがなんだって?」
「おや、那臣さん、ご興味がおありですか? もし発売されていたら買っちゃおうかななんて思いま……」
「買・わ・ね・え!」
「……被り気味で否定されちゃいました。まあ、りあぽんさんはメイクばっちり茶髪ギャル系積極派せくしーだいなまいつ、クローゼットの中の下着の色は赤・黒・紫、なお方です。
やっぱ女は黒髪ストレートの薄化粧大和撫子、つけまつげなんてもってのほか。胸は大きさより形、恥じらい赤面萌えで勝負下着は当然白だよな、な那臣さんのフェチポイントを全くカバー出来てませんから、ご購入はお勧めしませんが」
だから、何だってお前は、俺のそんな情報まで知り尽くしているんだ!
と、絶叫しかけてあやうく押さえる。今、そうツッコんでしまったら、それはイコール、性癖カミングアウトだ。
敏腕情報屋、守護獣恐るべし。
那臣は天を仰いだ。
アダルトコンテンツの視聴傾向だの過去の交際相手の傾向だのを、さらりと克明に語るのは勘弁してくれ。
深呼吸して無理矢理テンションを下げ、わざとらしく堅苦しい口調をつくる。
「…………原口莉愛が殺害されたことと、その情報にどんな関連がある?」
みはやはさっくり遊びを切り上げ、何事もなかったように話を進める。
「りあぽんさんは結局、お誘いに乗る決心をされました。決め手は高額の専属契約料だったようです。そのほかにも一本あたりのギャラは新人の単体女優さんの相場の数倍、しかもNGプレイ申告し放題と、破格の好待遇だったとか。ただしですね、そのお誘いには条件があったのですよ」
十四歳の女子中学生との会話で、双方当然既知の単語として流してはいけない部分が、何ヶ所もあった気がする。
ツッコむべきか一瞬迷った隙に、みはやはひとさし指をぴんと立ててポーズを決め、話を進めてしまった。
「りあぽんさんは近隣のお店ではナンバーワンのキャバ嬢さんですが、もちろんAV女優さんとしては未知数です。
なので、その高額専属契約を勝ち取るために、『オーディション』を受けてくれ、と」
「何だと……?」
那臣は大きく目を見開く。
もう一度、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。今度は思考をフルに働かせるために呼吸を整える。それからおもむろに、みはやを見据えた。
「ここでも『オーディション』か……」
「あちらの殺人でもこちらの殺人でも、同じ単語が拾えたら、それは、推理小説では連続殺人もののフラグ、ですよね」
「推理小説だけじゃない、現実でも非常に濃厚な関連が疑われるだろう」
「地方の女子高生さんも都会のギャルさんも、『オーディション』に誘われたあと殺されちゃっているかも? 美少女探偵みはやちゃんの推理が炸裂! おっと二時間ドラマならここでコマーシャルが入りますが」
「CM抜きで録画しとけ」
「と、いう訳なんですね。なるほどなるほど」
那臣の話を聞きつつ、みはやはいつの間にやら自分のマグカップにココアを注ぎ、大量のホイップクリームを、幸せそうに盛り足しているところだった。
真夜中にそれは太るぞ、とツッコみかけて慌てて言葉を飲み込む。
女に体重の話は、最悪の地雷だ。無粋な那臣とて、三十一年の人生でその程度のことは学んでいる。
みはやは、大好きなキャラクターの飾りがついたマドラーで、丁寧にこぼさないよう、砂糖たっぷりのココアに、たっぷりのホイップクリームを混ぜ込んでいる。
マグカップ一杯分のカロリーは考えないことにして、那臣は続けた。
「ヒロヤが渋谷で会ったっていう二人組のことも気になるが……とりあえずこの情報については、明日捜査会議でも報告しようと思ってる。
次、お前の番だぞ、みはや。どこで玉置結奈が『オーディション』を受けるって情報を拾った?」
「いえ、こちらは、りあぽんさんの情報です」
「りあぽん……ああ、原口莉愛か。彼女がどうした?」
那臣は軽く意表を突かれた。
原口莉愛は新宿の殺人事件の被害者だが、那臣はすでに捜査本部から事実上の締め出しを食らっている。みはやもこの件は、那臣の先輩で、新宿中央署の捜査員である倉田らに任せておけばよいと言っていたものを。
みはやは極甘ココアをひとくち、至福の表情で口に含んだ。
「実は、りあぽんさんとお友達とのSNSの会話で、お客さんとして店にいらっしゃった方に、セクシー系映像モデル、ぶっちゃけAV出演してみないかって、誘われたくだりがありましてですね」
「ん? そんなもんあったか?……いや、記憶にないな」
目を閉じて記憶をたどる。新宿中央署の捜査本部で一通り目を通した通信記録には、そのような件はなかったはずだが。
「十一月九日午前二時七分の会話です。AVはちょっとぉ~、と恥じらいつつ、まんざらでもないご様子でした」
「十一月ここの……ちょっと待て。本部で令状取ってSNSの運営会社から開示を受けたのは直近二週間分の通信記録だぞ」
「そうでしたっけ。では警視正どの、裁判所に令状請求して、一ヶ月分の通信記録を取りよせてみてくださいな」
違法アクセスの匂いをさらりと流したみはやを軽く睨んで、那臣は溜息をつく。
「……それで、原口莉愛のAVがなんだって?」
「おや、那臣さん、ご興味がおありですか? もし発売されていたら買っちゃおうかななんて思いま……」
「買・わ・ね・え!」
「……被り気味で否定されちゃいました。まあ、りあぽんさんはメイクばっちり茶髪ギャル系積極派せくしーだいなまいつ、クローゼットの中の下着の色は赤・黒・紫、なお方です。
やっぱ女は黒髪ストレートの薄化粧大和撫子、つけまつげなんてもってのほか。胸は大きさより形、恥じらい赤面萌えで勝負下着は当然白だよな、な那臣さんのフェチポイントを全くカバー出来てませんから、ご購入はお勧めしませんが」
だから、何だってお前は、俺のそんな情報まで知り尽くしているんだ!
と、絶叫しかけてあやうく押さえる。今、そうツッコんでしまったら、それはイコール、性癖カミングアウトだ。
敏腕情報屋、守護獣恐るべし。
那臣は天を仰いだ。
アダルトコンテンツの視聴傾向だの過去の交際相手の傾向だのを、さらりと克明に語るのは勘弁してくれ。
深呼吸して無理矢理テンションを下げ、わざとらしく堅苦しい口調をつくる。
「…………原口莉愛が殺害されたことと、その情報にどんな関連がある?」
みはやはさっくり遊びを切り上げ、何事もなかったように話を進める。
「りあぽんさんは結局、お誘いに乗る決心をされました。決め手は高額の専属契約料だったようです。そのほかにも一本あたりのギャラは新人の単体女優さんの相場の数倍、しかもNGプレイ申告し放題と、破格の好待遇だったとか。ただしですね、そのお誘いには条件があったのですよ」
十四歳の女子中学生との会話で、双方当然既知の単語として流してはいけない部分が、何ヶ所もあった気がする。
ツッコむべきか一瞬迷った隙に、みはやはひとさし指をぴんと立ててポーズを決め、話を進めてしまった。
「りあぽんさんは近隣のお店ではナンバーワンのキャバ嬢さんですが、もちろんAV女優さんとしては未知数です。
なので、その高額専属契約を勝ち取るために、『オーディション』を受けてくれ、と」
「何だと……?」
那臣は大きく目を見開く。
もう一度、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。今度は思考をフルに働かせるために呼吸を整える。それからおもむろに、みはやを見据えた。
「ここでも『オーディション』か……」
「あちらの殺人でもこちらの殺人でも、同じ単語が拾えたら、それは、推理小説では連続殺人もののフラグ、ですよね」
「推理小説だけじゃない、現実でも非常に濃厚な関連が疑われるだろう」
「地方の女子高生さんも都会のギャルさんも、『オーディション』に誘われたあと殺されちゃっているかも? 美少女探偵みはやちゃんの推理が炸裂! おっと二時間ドラマならここでコマーシャルが入りますが」
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