救援隊(レスキューパーティー)『黄金の鈴』出動します!~最強賢者パーティーはダンジョンで誰かの野望をレスキューする~

高村渚

文字の大きさ
上 下
39 / 43
やりたいこと

2

しおりを挟む
 こちらも盛大に腹の虫を鳴かせたシルヴァは、街の中心部へと続く石畳を駆け出した。

「さ、メシだメシ!
 肉食いにいくぞ!」

 肩にぶら下がったセトラの腹も「きゅ」と短く応える。

 回復魔法ですっかり元気になったアリエッタが、負けじと横を追い抜いていく。
 そして先頭を走りながら、くるりと踊るように振り返った。

「魚介もある店がいいわね。わたし、貝のトマト煮込みが食べたいわ!
 王子様は? 何が食べたい?」
「ぼくは……」

 いまなら何でも際限なく腹に入っていきそうだ。
 肉、と答えようとして、はたとその足を止めた。

 前方、街の中心部から、仰々しい一行がこちらに向かってやってくるのが見える。

「……ルーファス兄上……」

 葦毛の馬に派手な装飾の馬具を置き、自らもきらびやかなマントを翻しての行軍だ。
 前後を揃いの甲冑とマント姿の騎士たちで固め、左右には杖を掲げた魔導士たちが付き従っている。

 大通りの真ん中を我が物顔で征く一行から、冒険者たちは距離を取って端に寄る。

 冒険者は元より、王族だの貴族だのにまつろわぬ者達だ。
 恐れ入って道を譲ったはずもなく、ただ胡散臭げな視線を投げつけていた。

「……あれが王子様の馬鹿兄とその取り巻きね!」

 戦闘開始とばかりに突進するアリエッタを、三人と一匹で抑える。

「いやいやいやアリエッタ! 待てったら!」
「人間相手にいきなり斧はまずいですぞ!」
「セトラ! 家からクッション持ってこい!」
「ぺ?」
「……問題はそこなのか?」
「離しなさい! ひとこと言ってやらないと気が済まないわよ!」

 ようやく両側から羽交い締めにしたシルヴァとギヨームだ。
 ギヨームが、穏やかな声でアリエッタをたしなめた。

「ひとこと言うのは、まずは殿下の権利ですぞ」

 はっとしてアリエッタが力を抜く。

 皆の視線が、イシュアに集まった。

「どうだ王子? やりたいこと、あるんだろ?」

 シルヴァがにっと笑いかける。
 ギヨームは力強くうなずき、アリエッタは「がつんと言ってやりなさいよ、王子様!」と拳を振り上げた。

 イシュアは深くひと息つくと、頼もしすぎる仲間たちにしっかりと顔を向け、そして応えた。

 全てを諦めてこれまでただ生きてきたイシュアにも、やりたいことが出来たのだ。


 最初にイシュアに気付いたのは、列の先頭を行く騎士だった。
 第三階層でねちねちと絡んできた、あの男だ。

 すいと手を挙げて列を止めると、馬上からイシュアたちを見下ろしてきた。

「まだグラータにいらしたのか。
 尻尾を巻いて逃げ帰ればよいものを」

 後方で控えたギヨームは、アリエッタのベルトを背中から掴んでいる。もちろんアリエッタの突進に備えるためだ。

「道をあけよ、ルーファス殿下のお成りだ」

 身分は家臣ではあったが、ずっと言いなりになってきた相手だ。
 わずかな緊張はあった。でも今は、それだけだった。

「兄上と話したい」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

処理中です...