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最強魔導士、働く
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「そういうとこ、ほんとむかつくんだから……」
グラータの迷宮に潜っていたシルヴァとギヨームを、救援隊『黄金の鈴』へと誘ったのがアリエッタだ。
二人は遠い土地から流れてきた冒険者で、ずっと組んで旅をしてきたのだと聞いた。
たまに自分だけ、一緒に過ごした時間の短さを寂しく思うことがある。そして、おそらく未だ大きく隔たっているだろう、二人との技倆の差も。
ついむくれた態度を取ってしまい、その度に二人して気を遣われる、困ったものだ。
「さ、リーダーも!」
シルヴァが無邪気な笑顔で右手を挙げてくる。その隣ではギヨームが微笑んで左手を挙げていた。
「もう……!」
アリエッタは両手にわざと強い力を込めて、シルヴァとギヨームの手を同時に打ち鳴らしてやった。
「ってえ……さすがリーダー……」
「純粋な力比べは、もう敵いませんな」
シルヴァは涙目になりながら、イシュアにも笑顔を向ける。
「王子もだ」
「ぼくも?」
「当然だろ?
姫を守った勇者だぜ!」
「そんな……ぼくはなにも」
「いいのよ。ほら!」
嬉しそうに手を挙げたアリエッタに、遠慮がちに応え手を挙げる。
力強い音が三つ、氷の結晶の舞う迷宮の空間に響いた。
「ぺくち」
シルヴァの肩で、セトラが可愛いらしいくしゃみをした。氷の室の中はさすがに寒いらしい。
「あ、悪りぃセトラ」
地表から三エルドの深さまでを完全に凍り付かせたシルヴァの魔法だが、その奥は未だ岩石を溶かす灼熱の世界だ。
すでに水蒸気で視界が真っ白になってきている。
シルヴァはまた鞄から羊皮紙を取り出し、さあっと辺りに手を振りかざした。
倒された煉獄蜥蜴の核石は、氷片とはならず、わずかに白橙色の炎を発しながらあちこちの地面に転がっていた。
それらがふわりと空に浮かび、次々と羊皮紙の魔方陣へと仕舞い込まれていく。
くるくる巻かれてするりと麻紐が羊皮紙を封じる。
シルヴァは悪戯っぽい仕草でそれを掲げてみせた。
「じゃ、そろそろ帰るとすっか」
グラータの迷宮に潜っていたシルヴァとギヨームを、救援隊『黄金の鈴』へと誘ったのがアリエッタだ。
二人は遠い土地から流れてきた冒険者で、ずっと組んで旅をしてきたのだと聞いた。
たまに自分だけ、一緒に過ごした時間の短さを寂しく思うことがある。そして、おそらく未だ大きく隔たっているだろう、二人との技倆の差も。
ついむくれた態度を取ってしまい、その度に二人して気を遣われる、困ったものだ。
「さ、リーダーも!」
シルヴァが無邪気な笑顔で右手を挙げてくる。その隣ではギヨームが微笑んで左手を挙げていた。
「もう……!」
アリエッタは両手にわざと強い力を込めて、シルヴァとギヨームの手を同時に打ち鳴らしてやった。
「ってえ……さすがリーダー……」
「純粋な力比べは、もう敵いませんな」
シルヴァは涙目になりながら、イシュアにも笑顔を向ける。
「王子もだ」
「ぼくも?」
「当然だろ?
姫を守った勇者だぜ!」
「そんな……ぼくはなにも」
「いいのよ。ほら!」
嬉しそうに手を挙げたアリエッタに、遠慮がちに応え手を挙げる。
力強い音が三つ、氷の結晶の舞う迷宮の空間に響いた。
「ぺくち」
シルヴァの肩で、セトラが可愛いらしいくしゃみをした。氷の室の中はさすがに寒いらしい。
「あ、悪りぃセトラ」
地表から三エルドの深さまでを完全に凍り付かせたシルヴァの魔法だが、その奥は未だ岩石を溶かす灼熱の世界だ。
すでに水蒸気で視界が真っ白になってきている。
シルヴァはまた鞄から羊皮紙を取り出し、さあっと辺りに手を振りかざした。
倒された煉獄蜥蜴の核石は、氷片とはならず、わずかに白橙色の炎を発しながらあちこちの地面に転がっていた。
それらがふわりと空に浮かび、次々と羊皮紙の魔方陣へと仕舞い込まれていく。
くるくる巻かれてするりと麻紐が羊皮紙を封じる。
シルヴァは悪戯っぽい仕草でそれを掲げてみせた。
「じゃ、そろそろ帰るとすっか」
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