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最強魔導士、働く

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「……歩かずとも済みましたなあ」

 一行の目の前。溶岩の沼のような場所に蠢く魔物たちの姿があった。

 ずんぐりした身体に、長く太い尾を持つ十数エルドの巨体。(一エルド=約九十センチメートル)
 炎蜥蜴とかげだ。
 自らまとった白橙色の炎で揺らめいている。二十はいるだろう。

「それもまた群れですか、珍しい。
 炎蜥蜴の群れに遭遇するなど、ギルドに報告ものの珍事ですぞ」

 相変わらず動じない穏やかな口調ながら、その身に緊張を漂わせている。

 シルヴァはといえばやはりのんきなままだ。
「いや~やっぱり俺、持ってるわ~。
 百パーセントの確率で奇跡を引き当てる!
 さすがてんさ……」
「いやもう本当にそれはいい!」
「なんでだよ! 最後まで聞いてくれよおおおおお!」
「……なにも泣かずともよいではないか」
「王子様、慣れてきたわね……」

 この状況でちゃんとツッコめるイシュアがなかなかに頼もしい。ベテランの冒険者でも、恐怖で身体を硬直させてしまってもおかしくない危機だ。

「じゃ、ちょっといいとこ見せようかしらね」

 アリエッタはその活気に満ちあふれた表情をさらに輝かせた。ぐいと前に踏み出し戦斧を構える。

 それを制するように、ギヨームが一歩前に出て剣を抜いた。

「お疲れでしょう、無理なさらず」
「ギヨームまで! わたしは無理なんてしてないから!」

 押しのけて前に出る。それをまたギヨームが制して押しのける。

「いえ、リーダーはどうぞ後ろから指揮してもらってですね」
「リーダーが行くって言ってるの! 従いなさい!」
「いえいえ後ろからですね……!」
「……お~い、気付かれたぞ?」

 二人で言い争いながらずんずんと前に出て行ったのだ。間近に迫った魔物たちは、一斉にその橙色に揺らめく目をこちらに向けた。

 奥の一体がのそりと一歩動く。
 とたんに、近い一体が思いもかけない素早さで動いた。

 互いを牽制するのに夢中で一瞬反応が遅れた前衛の二人に、大きな口を開けて襲いかかる。

「アリエッタ! ギヨーム」

 イシュアの叫びとほぼ同時に、すい、とシルヴァが手を挙げた。
 二人の眼前に見えない壁が現れる。

 どおん、と、腹に響く音をたてて魔物が跳ね返された。
 大きな炎の柱が上がり火花がばちばちと空間を駆け巡る。

「いけません、わたしとしたことがつい……」

 ギヨームは軽く首をふると瞬時に踏み込む。
 跳ね返された個体を超えて別の個体が襲ってきている。
 一閃、薙ぎ払った剣はその腕を切り飛ばした。

 荒れ狂った蜥蜴は大きな口で獲物を飲み込もうと飛びかかる。
 だが急に目標を見失ってがちりと空を噛んだ。
 その頭の上できらりと刃が光る。

「やだもうほんと、油断大敵」

 アリエッタの斧が、蜥蜴の眉間を見事に捉えた。
 頭部を潰された蜥蜴は、地響きを立てて倒れ込んだ。

「心配すんな王子。この程度の魔物、あの二人の敵じゃねえ」
「だが……!」
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