救援隊(レスキューパーティー)『黄金の鈴』出動します!~最強賢者パーティーはダンジョンで誰かの野望をレスキューする~

高村渚

文字の大きさ
上 下
32 / 43
最強魔導士、働く

1

しおりを挟む
 出口はそのまま、小部屋の木の扉になっていた。
 イシュアも見覚えのある、薄暗くさびれた石造りの廊下だ。

「……ここは、まさか第三階層の大回廊?」
「そ」

 短く答えて、シルヴァはそそくさと先を急ぐ。
 もちろん、背後から殺気を込めてにらみつけてくるアリエッタのお怒りを避けるためだ。

「何故だ? せっかく第十四階層まで降りたのに、上に戻ってしまったではないか」
「でしょ! もっと言ってやって王子様!」

 非難の眼差しが殺到しても、シルヴァはけろりとしたものだ。

「王子、第二階層に降りるとき、金払っただろ」
「ん? あ、ああ」

 第一階層の大回廊の最奥、第二階層への転移門の間には、グラータを治める領主が『迷宮内の治安を目的として』配下の兵を派遣している。
 その『配慮』に感謝し、その転移門を利用する冒険者は皆『心ばかりの謝礼』を渡す決まりとなっていた。

 お題目は仰々しいが、要するに通行料である。

 早朝、通りの物売りから買えるパンとお茶程度の額ではあるが、ひっきりなしに転移門を通過する冒険者たちからもれなく徴収しているのだ。グラータの街から得られる種々の税と合わせて、グラータ領主の収入源のひとつとなっていた。

「あれ、払うのもったいなくね?」

「……まさか……銅貨三枚を惜しんで……あの場所を経由したのか? 」

 銀貨の山は惜しみなく賭事につぎ込めて、銅貨三枚は惜しんで命掛けのルートを選択する。そのバランス感覚が謎に過ぎる。

 あぜんと立ち尽くすイシュアの背に、ギヨームはそっと手を遣り、首を振ってみせた。
「深く考えても無駄ですよ、殿下。これが通常なので」
 悟ったようなギヨームの微笑に、イシュアもいろいろと悟るしかなかった。

 先程の出口の扉からほんの少し大回廊を進んだところに、細い分岐がある。
 分岐した廊下は大回廊よりさらに暗く、入り口からでは先はほとんど見えない。

 廊下の影に一行がすべて身を隠したのを確認して、シルヴァは開いた手のひらを中空にかざした。
 すると目の前の空間に転移門がその姿を現した。

 息をのむイシュアに声を掛ける。
「ちいっと下まで一気に降りるからな。
 結界は張っておくから死にはしねえ。
 が、びびるかもしれねえから、覚悟決めとけ」

 改めてイシュアは、無理矢理唾を飲み込んだ。
 第十四階層の空気の重さを思い出す。また膝が折れてしまわないよう、腹に力を込めた。

 その様子に、シルヴァがくすりと笑う。
「よし、気合いは十分だな、王子。
 じゃ、一つ頼まれてくれ」
「なんだ?」
「アリエッタが少し消耗してる。
 大事ないとは思うが、気をつけてやってくれ」
「え?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...