20 / 43
その野望、救援(レスキュー)するぜ!
1
しおりを挟む
「なによそれ! そいつら何様? 信じられない!」
アリエッタがフォークを振りかざして絶叫する。
あまりの剣幕に、シルヴァとギヨームはスープの皿とパンを抱えたまま机に潜った。
「いや~、よかったわあの場にアリエッタさんいなくて。流血沙汰じゃ済みそうにない」
「いや~よかったわ、じゃない!
シルヴァ、あなたなんでそんな奴らに馬鹿にされて、おめおめと引き下がってきたのよ!」
テーブルからしかめ顔をちらりとのぞかせて、シルヴァはチーズを塗って焼いたパンにかぶり付く。
「いや。だってさ、売られた喧嘩、いちいち買っててもキリなくない?
アリエッタじゃあるまいし」
「なんですってえ?」
凄い勢いでクッションが飛んできて、シルヴァはパンをくわえたまま慌てて首を引っ込めた。
ぶち切れていても、卓上に盛られた美味しそうな朝食を、器用に避けて投げつけてくるのは流石アリエッタだ、ではなく。
シルヴァは昨夜遅く、イシュアを背負って本拠地である館に帰ってきた。
血相変えて出迎えたアリエッタを、
「とりあえずゆっくり王子を寝かせてやれ」
の一言で抑えたものの、あろうことかシルヴァは事情を説明することもなく、自分までさっさと寝てしまったのだ。
翌朝こうして、アリエッタの怒りのクッションをぶつけられても文句は言えないだろう。
ギヨームはこんな修羅場でもどこか優雅な様子で、玉ねぎを煮込んだスープを口にしている。
床に立ち膝の姿勢での食事はお行儀が悪いが、クッションからスープを守るためだ、やむを得まい。
「……ルドマン王国では、確か王は妃を何人でも持てることになっていたはずです。
周りに領土を争う強国がいくつもあって、政略上頻繁に他国から妃をめとったり、国内平定のため大貴族と縁を結んだりと、かの国ならではの事情もあるようですな。
長子のルーファス殿下の母君は第一王妃で、隣の大国アントラスの一の姫だったと記憶しております。
第二王子、第三王子の母君はそれぞれ国内の名のある侯爵家の姫。
そして他のお子様方の母君にはそれほど大きな後ろ盾はなかったような……」
よどみなくルドマン王家の系譜をそらんじる。
そんなところもギヨームが「なんだかちょっと宮廷の官吏っぽい」と言われる所以だ。
アリエッタのかんしゃくが止んだとみて、シルヴァはおそるおそるテーブルの上の酢漬けキャベツのボウルに手を伸ばした。
床に座ったままボウルを抱えてしゃくしゃくとキャベツを噛み砕く。
「で、その他大勢の妃の一人が、あの王子の母親ってわけだ。
そりゃ兄ちゃんの家来が調子に乗って絡んでくるのも納得だな」
肩のセトラにもキャベツをすくってやる。
セトラもしゃくしゃくとキャベツを味わって、糸のように目を細めると、ぷう、と鳴いた。
「それにしても聖なる継承の儀、とはなんでしょうな?」
「そのために王子様も、その失礼な奴らもグラータにやって来たのよね」
「……聖なる継承の儀は、またの名を勇者の試練という」
声に振り返ると、廊下からイシュアが部屋へ入ってきていた。
アリエッタがフォークを振りかざして絶叫する。
あまりの剣幕に、シルヴァとギヨームはスープの皿とパンを抱えたまま机に潜った。
「いや~、よかったわあの場にアリエッタさんいなくて。流血沙汰じゃ済みそうにない」
「いや~よかったわ、じゃない!
シルヴァ、あなたなんでそんな奴らに馬鹿にされて、おめおめと引き下がってきたのよ!」
テーブルからしかめ顔をちらりとのぞかせて、シルヴァはチーズを塗って焼いたパンにかぶり付く。
「いや。だってさ、売られた喧嘩、いちいち買っててもキリなくない?
アリエッタじゃあるまいし」
「なんですってえ?」
凄い勢いでクッションが飛んできて、シルヴァはパンをくわえたまま慌てて首を引っ込めた。
ぶち切れていても、卓上に盛られた美味しそうな朝食を、器用に避けて投げつけてくるのは流石アリエッタだ、ではなく。
シルヴァは昨夜遅く、イシュアを背負って本拠地である館に帰ってきた。
血相変えて出迎えたアリエッタを、
「とりあえずゆっくり王子を寝かせてやれ」
の一言で抑えたものの、あろうことかシルヴァは事情を説明することもなく、自分までさっさと寝てしまったのだ。
翌朝こうして、アリエッタの怒りのクッションをぶつけられても文句は言えないだろう。
ギヨームはこんな修羅場でもどこか優雅な様子で、玉ねぎを煮込んだスープを口にしている。
床に立ち膝の姿勢での食事はお行儀が悪いが、クッションからスープを守るためだ、やむを得まい。
「……ルドマン王国では、確か王は妃を何人でも持てることになっていたはずです。
周りに領土を争う強国がいくつもあって、政略上頻繁に他国から妃をめとったり、国内平定のため大貴族と縁を結んだりと、かの国ならではの事情もあるようですな。
長子のルーファス殿下の母君は第一王妃で、隣の大国アントラスの一の姫だったと記憶しております。
第二王子、第三王子の母君はそれぞれ国内の名のある侯爵家の姫。
そして他のお子様方の母君にはそれほど大きな後ろ盾はなかったような……」
よどみなくルドマン王家の系譜をそらんじる。
そんなところもギヨームが「なんだかちょっと宮廷の官吏っぽい」と言われる所以だ。
アリエッタのかんしゃくが止んだとみて、シルヴァはおそるおそるテーブルの上の酢漬けキャベツのボウルに手を伸ばした。
床に座ったままボウルを抱えてしゃくしゃくとキャベツを噛み砕く。
「で、その他大勢の妃の一人が、あの王子の母親ってわけだ。
そりゃ兄ちゃんの家来が調子に乗って絡んでくるのも納得だな」
肩のセトラにもキャベツをすくってやる。
セトラもしゃくしゃくとキャベツを味わって、糸のように目を細めると、ぷう、と鳴いた。
「それにしても聖なる継承の儀、とはなんでしょうな?」
「そのために王子様も、その失礼な奴らもグラータにやって来たのよね」
「……聖なる継承の儀は、またの名を勇者の試練という」
声に振り返ると、廊下からイシュアが部屋へ入ってきていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる