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その依頼者、無謀にすぎる
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アリエッタ、そしてギヨームが立ち上がったままあぜんとする中、シルヴァはどっかりと椅子に座り直した。
「……ま、いいんじゃね? 降りたいっつーんだしとりあえず降りてみれば」
「ちょっとシルヴァ! あなたね……!」
「ヤベえのは間違いないけど、ヤバくなったときのための俺たちとの契約だろ?
どの階層にいようが、ちゃんと助けに行くし、問題無しって事で」
にかっと歯を見せて、親指を立ててみせる。
ギヨームは苦笑して軽く肩をすくめた。
アリエッタも、「もう!」と眉をつり上げながら首を振る。
「あ、そうそう、最も大事な注意を忘れてるぞ」
「何でしたかな?」
「ヤベえと思える間もなく殺られちまったらアウトだからな。
なるべくヤベえと思えるうちに呼んでくれ。
以上!」
いたって真顔。言ったった、と、どや顔ですらあるシルヴァだ。
うっかりまたイシュアが席を立たないうちに、ギヨームがわざとらしく咳払いした。
「では始めましょうか」
「おう。
『契約』」
シルヴァが短く唱えた詞に反応し、テーブル上に置かれた鈴がふわりと宙に浮く。
淡い金色の光をまとってイシュアの胸の高さで止まった。
おそるおそる、そっと両手で包んでみる。暖かな魔力の波動がイシュアに伝わってきた。
「王子。
あっちの鈴に、王子の『名前』を教えてやってくれ」
言われるまま立ち上がり、壁際の台座に近づく。
歩を進めるにつれ、胸元の小さな鈴と、台座に掛けられた大きな鈴が共鳴し、光を放ち涼やかな音を奏ではじめた。
「……わたしの名は……『キリス・イシュア・フェルネード・オウル・ルドマン』だ」
イシュアの口から出た言葉がきらきらと光る詞となって、二つの鈴を繋ぐ輝きに加わる。
それを待ってギヨームが、そしてアリエッタが、空に指で己の名を書いた。軌跡が同じく光る詞になり、輝きに加わっていく。
最後にシルヴァが指で空に名を記し、ぱちんと指を鳴らす。
まぶしい金の光が部屋に放たれた。
「契約完了。
これで俺たちは、王子の救援隊だ」
イシュアが一瞬閉じた目を開いたその時には、すでに部屋は元通り、天窓から春の柔らかな光が差し込んでいた。
イシュアが路地から通りへと姿を消すのを見送って、ギヨームが控えめに口を開いた。
「……珍しく強引に契約に持ち込みましたな」
「俺たちも商売だしな、営業に押しは必要だろ?」
「それだけですかな?」
シルヴァのとぼけた答えに、ギヨームがくすりと微笑する。
「でもよかったわ。無理にでも契約出来て。
いきなり深くまで降りて遭難でもされたら、手の出しようがないもの」
アリエッタはまだほんの少しむくれ顔だ。
「……やっぱり止めてあげるべきだったんじゃない?
あの王子様、無謀すぎる挑戦を自ら望んでするようには見えなかったわ」
シルヴァはあくびをすると、踵を返して扉に手を掛けた。
「だろうな」
イシュアの腰の剣はそこそこに使い込まれた体格に合ったもので、ブーツも履き古されていた。
お城の奥でぬくぬくと過ごしてきただけの、もの知らずの王子ではなさそうだ。
グラータまでの道中、獣や魔物ともやり合ってきただろう。
己の技倆も、そして目標の無謀さも理解していそうなものだ。
「……ま、いいんじゃね? 降りたいっつーんだしとりあえず降りてみれば」
「ちょっとシルヴァ! あなたね……!」
「ヤベえのは間違いないけど、ヤバくなったときのための俺たちとの契約だろ?
どの階層にいようが、ちゃんと助けに行くし、問題無しって事で」
にかっと歯を見せて、親指を立ててみせる。
ギヨームは苦笑して軽く肩をすくめた。
アリエッタも、「もう!」と眉をつり上げながら首を振る。
「あ、そうそう、最も大事な注意を忘れてるぞ」
「何でしたかな?」
「ヤベえと思える間もなく殺られちまったらアウトだからな。
なるべくヤベえと思えるうちに呼んでくれ。
以上!」
いたって真顔。言ったった、と、どや顔ですらあるシルヴァだ。
うっかりまたイシュアが席を立たないうちに、ギヨームがわざとらしく咳払いした。
「では始めましょうか」
「おう。
『契約』」
シルヴァが短く唱えた詞に反応し、テーブル上に置かれた鈴がふわりと宙に浮く。
淡い金色の光をまとってイシュアの胸の高さで止まった。
おそるおそる、そっと両手で包んでみる。暖かな魔力の波動がイシュアに伝わってきた。
「王子。
あっちの鈴に、王子の『名前』を教えてやってくれ」
言われるまま立ち上がり、壁際の台座に近づく。
歩を進めるにつれ、胸元の小さな鈴と、台座に掛けられた大きな鈴が共鳴し、光を放ち涼やかな音を奏ではじめた。
「……わたしの名は……『キリス・イシュア・フェルネード・オウル・ルドマン』だ」
イシュアの口から出た言葉がきらきらと光る詞となって、二つの鈴を繋ぐ輝きに加わる。
それを待ってギヨームが、そしてアリエッタが、空に指で己の名を書いた。軌跡が同じく光る詞になり、輝きに加わっていく。
最後にシルヴァが指で空に名を記し、ぱちんと指を鳴らす。
まぶしい金の光が部屋に放たれた。
「契約完了。
これで俺たちは、王子の救援隊だ」
イシュアが一瞬閉じた目を開いたその時には、すでに部屋は元通り、天窓から春の柔らかな光が差し込んでいた。
イシュアが路地から通りへと姿を消すのを見送って、ギヨームが控えめに口を開いた。
「……珍しく強引に契約に持ち込みましたな」
「俺たちも商売だしな、営業に押しは必要だろ?」
「それだけですかな?」
シルヴァのとぼけた答えに、ギヨームがくすりと微笑する。
「でもよかったわ。無理にでも契約出来て。
いきなり深くまで降りて遭難でもされたら、手の出しようがないもの」
アリエッタはまだほんの少しむくれ顔だ。
「……やっぱり止めてあげるべきだったんじゃない?
あの王子様、無謀すぎる挑戦を自ら望んでするようには見えなかったわ」
シルヴァはあくびをすると、踵を返して扉に手を掛けた。
「だろうな」
イシュアの腰の剣はそこそこに使い込まれた体格に合ったもので、ブーツも履き古されていた。
お城の奥でぬくぬくと過ごしてきただけの、もの知らずの王子ではなさそうだ。
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己の技倆も、そして目標の無謀さも理解していそうなものだ。
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