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その依頼者、無謀にすぎる
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「悪りぃ悪りぃ! てっきり金貸しにきてくれた超イイ奴と思ってさあ」
シルヴァは少年を連れて、街を貫く大通りに出た。
ささいな負けをいつまでも引きずっていては、賭事師など務まらない。先程の大敗はなかったことにして、活気溢れる昼下がりの街をぽくぽくと進む。
すると店先に、顔馴染みの魔法道具屋の主人が顔を出した。
「よお、おばちゃん。今日の商売はどうだ?」
「まあまあだね。あんたはどうだい?」
「俺? 客が来たんでね、勝負は明日にお預けさ」
「ああまた負けたんだ、あんたも懲りないねえ」
「だから負けてねえっつの!」
店の女たちの爆笑を軽くいなしていると、横から声を掛けられた。
「お客さんかいシルヴァ。景気が良さそうで何よりだ」
いかにも人の良さそうな中年の魔導士だ。古い樫の木でつくられた立派な杖を手にしている。
「まあな、俺はいつでも景気絶好調だぜ」
「ははは、そうだったそうだった!」
シルヴァの二歩後ろをついて来た少年にも、にこりと笑いかけた。
「ようこそ大迷宮都市グラータへ。
迷宮は初めてかい?」
少年がぎこちなくうなずく。
「そうか、命を大事にな。よい冒険を」
男は片手を挙げて去って行った。
次々と声を掛けてくる馴染みの相手に応えながら街歩きを楽しんでいると、さすがにいぶかしく思ったのか、少年が怪訝そうに尋ねてきた。
「……どこへ行くのだ?
『黄金の鈴』の拠点は、冒険者ギルドの中ではなかったのか?」
「俺らの本拠地のあたりはギルドの奥も奥だからな。
あの酒場からだと、いったん外に出て回り込んだほうがわかりやすいんだよ」
こっちだ、と、大通りを折れて、シルヴァは横道へと入った。そこでまた老人から声をかけられて、気さくに応じる。
昼間から賭事に溺れる、信頼できそうにない相手と思ったが、意外に街の人々には好意を持たれているようだ。
見限る機を失い、引き返すことを諦めた少年はひとつ溜息をつくと、やや遅れて後を追った。
細い路地には、両手を広げた程度の狭い間口の、小さな魔法道具屋や魔法薬屋がみっしり軒を連ねている。
うねうねと緩く曲がる道をさらに奥へと進むと、少し開けた空間が現れた。前方の突き当たりはすすけた白い煉瓦の壁だ。
「見えてきたぞ、あそこが……」
「ちょっとお! そこ! 手伝ってよお~!」
シルヴァの声に、甲高い少女の声が被さる。
振り返った少年は、ぎょっとして後ずさった。
山のようにうずたかく積まれた派手な色の包みが、路地の向こう、二人がやってきた方から揺れながら近づいて来る。
シルヴァはその場に立ったまま、呆れた声を掛けた。
「お~いアリエッタ、また衝動買いかあ?」
シルヴァは少年を連れて、街を貫く大通りに出た。
ささいな負けをいつまでも引きずっていては、賭事師など務まらない。先程の大敗はなかったことにして、活気溢れる昼下がりの街をぽくぽくと進む。
すると店先に、顔馴染みの魔法道具屋の主人が顔を出した。
「よお、おばちゃん。今日の商売はどうだ?」
「まあまあだね。あんたはどうだい?」
「俺? 客が来たんでね、勝負は明日にお預けさ」
「ああまた負けたんだ、あんたも懲りないねえ」
「だから負けてねえっつの!」
店の女たちの爆笑を軽くいなしていると、横から声を掛けられた。
「お客さんかいシルヴァ。景気が良さそうで何よりだ」
いかにも人の良さそうな中年の魔導士だ。古い樫の木でつくられた立派な杖を手にしている。
「まあな、俺はいつでも景気絶好調だぜ」
「ははは、そうだったそうだった!」
シルヴァの二歩後ろをついて来た少年にも、にこりと笑いかけた。
「ようこそ大迷宮都市グラータへ。
迷宮は初めてかい?」
少年がぎこちなくうなずく。
「そうか、命を大事にな。よい冒険を」
男は片手を挙げて去って行った。
次々と声を掛けてくる馴染みの相手に応えながら街歩きを楽しんでいると、さすがにいぶかしく思ったのか、少年が怪訝そうに尋ねてきた。
「……どこへ行くのだ?
『黄金の鈴』の拠点は、冒険者ギルドの中ではなかったのか?」
「俺らの本拠地のあたりはギルドの奥も奥だからな。
あの酒場からだと、いったん外に出て回り込んだほうがわかりやすいんだよ」
こっちだ、と、大通りを折れて、シルヴァは横道へと入った。そこでまた老人から声をかけられて、気さくに応じる。
昼間から賭事に溺れる、信頼できそうにない相手と思ったが、意外に街の人々には好意を持たれているようだ。
見限る機を失い、引き返すことを諦めた少年はひとつ溜息をつくと、やや遅れて後を追った。
細い路地には、両手を広げた程度の狭い間口の、小さな魔法道具屋や魔法薬屋がみっしり軒を連ねている。
うねうねと緩く曲がる道をさらに奥へと進むと、少し開けた空間が現れた。前方の突き当たりはすすけた白い煉瓦の壁だ。
「見えてきたぞ、あそこが……」
「ちょっとお! そこ! 手伝ってよお~!」
シルヴァの声に、甲高い少女の声が被さる。
振り返った少年は、ぎょっとして後ずさった。
山のようにうずたかく積まれた派手な色の包みが、路地の向こう、二人がやってきた方から揺れながら近づいて来る。
シルヴァはその場に立ったまま、呆れた声を掛けた。
「お~いアリエッタ、また衝動買いかあ?」
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