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異世界で仲間が増えました

荒れる鍛冶師

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 ギベルトさんの最初のリハビリの日から1週間が経過し、午前の診療が終わると俺はギベルトさんの自宅に向かった。

 1週間前はミミとミーザに協力できることがあったら言って欲しいと言われたが、今日も2人には診療所の留守を任せた。

 相変わらず徒歩でこの距離は長いが、仕方ないな。

 だが今日はギベルトさんの自宅に近づくにつれ、どこか重苦しい空気が伝わってきた、そしてその予感は的中したのだ。

「ん⁉あれは鉄の板!」

 ギベルトさんの自宅や工房の近くに鉄の板がいくつも落ちている。しかも綺麗な形ではなく、歪な形の物ばかりだ。

 俺は武器作りに関しては当然制作する腕前どころかろくな知識もない素人だが、少なくともこんな形の物が剣や槍に使えるわけはないというのは分かる。

 そんな俺が今の状況に戸惑っている中、なにか鉄を打ち付けるような音がして、その方向に神経を向けると工房から鉄を打ち付けるような音が聞こえてきた。

 恐る恐る俺は工房の中に入っていくと、ものすごい形相で鉄の打ち込みをしているギベルトさんがいて、思わず俺は大声で呼びかける。

「ギベルトさん!何をやっているんですか⁉」

 俺の声に気付いたギベルトさんは俺に怒鳴るように返答をする。

「何って!鉄の打ち込みに決まってんだろう!見て分からねえのか!」
「それは筋力が十分に戻ってからできるかどうか判断するって約束だったのをお忘れですか?」
「筋力?んなもんとっくに戻っているんだ!」
「え?」

 筋力が戻っている?確かに1週間真面目にリハビリを続けていればギベルトさんくらいの若さ、何より元々相当鍛えた身体だし、鉄を打ち込むくらいの筋力なら戻っていても不思議ではない。

「あんたのリハビリを続けていたら金づちが以前のように軽く感じた。これはいけるんじゃないかと思ったが、結局こんなもんしか作れなかった」
「もう1度リハビリをしてその中に鍛冶の基礎動作もいれましょう、そうすれば……」
「あんたはリハビリとやらは専門家かもしんねえが鍛冶の基本動作についてどの程度知っているんだ?」
「それは……」
「結局、ケガが治ってももう俺には鍛冶師を続ける事はできねえってことだ、剣や槍の基本の形を再現することすらできねえくらい腕が衰えているんだからな」

 この人を見て、多少事情は違うが、サッカーができなくなったばかりの頃の俺を思い出す。

 俺も自暴自棄になったが結果として理学療法士の道を選ぶことができた。この人は鍛冶師として生きる以外の方法を知らないし、それを俺が示すことはできない。

 だけどどうすればいいんだ?筋力の衰え、長いブランク以外に原因があるのか?あと思い浮かぶのは……。

「ギベルトさん、もう1度腕を見せてください」

 これに賭けるしかない。
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